婚活をナナメから見る 08

東大・赤川学先生、「子育て支援は独身税」じゃないですよね!?

今どきの婚活がなぜしんどいのか、シリーズ「婚活をナナメから見る。」で、telling,では前回、東京大学大学院准教授の赤川学さんにお話をうかがいました。そこでの取材によって、「結婚するかしないかは個人の自由だ」と確認できたけれど、問題は、その選択を社会が応援してくれるのか? ということ。社会制度は、私たちの生き方に否応なしに関わってきます。先生のお話を伺っていると、「婚活」は結婚だけの話ではなく、「産む・産まない」まで多大に影響してきそうだとわかってきました……。

●婚活をナナメから見る 08

社会は誰を応援しているのか?

――先生は、あくまで「個人の自由が大事だ」という主張をされています。社会学は個人の自由を支援する社会制度を考える学問であると。

赤川: これがけっこう難しいんです。自由を支援するための制度を考えたとき、自由への支援のはずが、結果として特定のライフスタイルを支援している、というパターンが多いんです。

 これまでの社会は、男が稼ぎ手で、女性が専業主婦で、子どもが2人っていうのを想定してつくられていて、そのこと自体が非常に差別的なので、男女平等にしようって話がでてくるわけです。ただ、男女平等を主張する人たちはみんな「家族の多様性を主張している」って言うんですけど、実際には、仕事もして、結婚もして、子どもを1人か2人産むみたいな話になっていて、ある特定のライフスタイルを良しとしている面があるんです。

――現在は「共働きで子どもを産んだ家庭」を優遇しているのではないか、ということですね。

 「産まない人から産む人への支援」なのが実情では

 赤川: たとえば、子育て支援や待機児童解消といったものは、女性が自由に働けるようになるための制度です。でもそれは、「子どもを産むこと」を前提にされているわけです。子育て支援に使われるお金っていうのは究極のところ、「子どもを産まない人から産む人への支援」なんですね。

 で、それはおかしいぞとなった場合、純粋な自由主義の観点からいうと、特定のライフスタイルを応援するのはやめましょう、だから子育て支援一切やめようって話になるんです。でも、それでいいのか? ということで次に出てくるのが、「自由は前提だけれど、困っている人に再配分しましょう」っていう話です。

 ――なるほど……

赤川: ですけど私は、子育て支援は正当化されないと思っています。子育て支援のサービスを利用できる層とできない層の問題もありますし、産む人と産まない人との格差も問題ですよね。産まない人は、応分の負担を支払うべきだみたいな。

 子どもは、「産まれてきた以上、社会で育てられる権利がある」というその観点のみで正当化されるべきだと私は思っています。子どもが生活できるお金をどういう形でもいいんだけれど支援すると。まぁ、これはかなり保守的な思想って捉えられることが多いんですけどね。

子育て支援ってじつは独身税?

――特定のライフスタイルを支援する、という問題ですが、近年は独身税なんて議論も聞かれますよね。

赤川: 独身税っていうのは、戦時中からあるんですよ。1930年代からドイツとかイタリアとかで検討された議論です。当時の日本ではそこまでいかなかったんですが。ただ、(今の子育て支援は)独身税って呼ぶかどうかの違いだけですよねぇ(笑)

  •  今回の取材でハッとさせられたのは、子育て支援は「産んだ人」への支援だということ。私は子どもを保育園に預けることは当然正当化されると考えていたし、当然の権利だと思っていた。でも考えてみれば、それは限られた条件にあてはまった人のためのサービスでもある。
     私は子どもが待機児童になって絶望したことがある。社会から切り離されたような寂しさがあったし、毎日ほぼ1人で子育てするなんてとても無理だと思った。だから、今でも保育園は必要だと思っている(個人的には、仕事の有無に関わらず、希望する人すべてが子どもを預けられたらいいなと思っている)。でもそれが「独身税」だと言われるとなんとも悩ましい。
    独身の人も、子どものいる人も、等しく支援できる社会にするにはどうしたらいいのか。先生の言う通り、本当に難しい問題だ……。

●赤川 学(あかがわ・まなぶ)さん
1967年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了・博士(社会学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。社会問題の社会学、セクシュアリティ研究。
主著:『セクシュアリティの歴史社会学』、『子どもが減って何が悪いか!』、『社会問題の社会学』、『明治の「性典」を作った男 謎の医学者・千葉繁を追う』、『これが答えだ!少子化問題』などがある。

フリーランスライター。元国語教師。本や人をめぐるあれこれを記事にしています。
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