婚活をナナメから見る 07

どうして「婚活はしんどい」の?専門家にワケを聞いてみた

「結婚、どうしよう!」と焦る前に、婚活についてちょっとナナメから俯瞰して見てみませんか? というこのシリーズ。前回までは未婚男女の婚活について取材してきました。そこでわかったのは、婚活がなんだか大変そう、ということ。しんどいのはなぜなのか? その疑問を解決すべく、専門家から知恵を授かることにした。訪ねたのは、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部社会学研究室でセクシュアリティの歴史社会学や人口減少社会の研究をされている赤川学先生。先生、よろしくお願いします!。

●婚活をナナメから見る 07

婚活をナナメからー専門家に、「婚活がしんどい」ワケを聞いてみた

研究室には大量の本が―

婚活って、少子化対策!?

――A子のように、婚活をしてみたものの、結婚自体に疑問がある、という声があるんですが。

A子の記事はこちら

赤川先生(以下、赤川):正しい疑問ですね~。そもそも婚活って言葉が出てきたのは、ここ10年くらいです。基本的には少子化対策の文脈で出てきていると言っていいと思います。① 結婚する人を増やす、② 結婚している人の出産数を増やす、という二つの少子化対策の効果は、9対1なんです。生涯未婚者が増えてきているのが少子化の要因だということが、ほぼ明らかになっている。だから婚活というのは、少子化対策の政策に寄った話題のような気がします。

 ―─なるほど。婚活が盛り上がっているのは政策と連動した動きだと言えるんですね。

 赤川:私は、社会学というのは個人の自由を目指す学問だと考えていて、自由を支援する社会制度をどうつくっていくかということがテーマだと思っています。たとえば家族社会学という分野では、ここ20年くらい「家族の多様性」を強調してきているんです。いろんな家族があっていいじゃないか、ということですね。再婚によるステップファミリーとか、同性の配偶者家族とか、ペットも家族だとか、家族のかたちは多様じゃないか、と。夫が大黒柱で、専業主婦と子ども2人からなる「標準家族」はもう終わる、というような議論があるんです。

  一方で、「少子化をなんとかしなきゃいけない」「仕事と育児の両立ができないから少子化になるんだ」といった議論も出てきた。以前は、「男女平等が少子化を導いたとしても、それはそれで構わない」という思想があったはずなんですけどねえ……。

 だけど、「男女共同参画が実現すれば、少子化に歯止めがかかる」と今世紀になって、議論が変わったんですよね。少なくともデータではそうなってないんですけどねえ(先生によれば、「1人あたり国民総所得が3万ドルを超える国」において「女性労働力率」と「合計特殊出生率」には負の相関があるそう。つまり、先進国では実は、女性の労働力が高い国ほど、出生率は低い。このあたりについては先生の著書『これが答えだ! 少子化問題』〈ちくま書房〉にくわしい)。議論が二極化しているのかもしれません。

自由で幸せな結婚はどこにある?

―─多様性が重視されている一方で、結婚と出産が奨励されてもいるというわけですね。結婚に関して、「自分らしく生きたらいい」を目指す結果、個人がしんどくなるという現象がありますよね? たとえばB子は、自分で結婚相手を探すよりも、相手を他者に紹介されるお見合い結婚の方が自分は合っていたんじゃないか、とも話していました。

B子の記事はこちら

赤川:(お見合いだけでなく)企業のなかでカップルになるパターンもなくなってきましたしね。今は社内恋愛みたいなものって、前提にはなってないですよね。完全に個人で探せって話になってくると、選択肢がありすぎて、女性には悩みが出てきますよね。

 ―─A子のように高い社会的ステータスのせいで選ばれない、という悩みもあります。海外では日本よりも、女性のほうが相手の男性より社会的地位が高い「下方婚」が多いとのデータがありますが、この点についてはどうでしょう。

 A子記事はこちら

 赤川:フランスやスウェーデンなどではそうした傾向がありますね。データは学歴しか見ていないので、本当に意味のある指標かはわからないんですが……。とはいえ、たとえば東大の女性らから、若い頃から合コンに行っても学歴を明かすと男性たちが引いていったというのは聞きます。

 大学卒の人が高卒の人と出会うチャンスがあまりないですし、仮に交際するようになったとしても、周囲の人たちが女性の下方婚をよってたかって止めてしまうという現実があります。実際に女性個人が「下方婚」をしようと思っても難しいという、作り上げられた文化の問題が大きいですよね。

―─先生はあくまで個人の自由が大事だ、という主張をされています。でも、先生の言われるような自由な生き方というのは、苦しい面もあると思うんです。たとえば結婚を選ばないことで、将来的に孤独を感じるのではないかとか。

 赤川:定型的なライフコースが見えないという苦しさはあるけど、「30歳になったら結婚しろ」って言われる社会よりはいいんじゃないかって私は思いますけどね。

●インタビューを終えて

結局、どうすればいいの?

 自分で自由に選択できる社会であるべき。それが先生の一貫した主張だった。誰もが自由に生きることが当たり前の社会なら、婚活はもっと気楽なのかもしれない。

 しかしそうだとしても、私たちはこの社会で感じるしんどさをどう受け止めればよいのだろう。先生にお聞きしてみたが、そのことについての特効薬はなさそうで、そこがやや物足りなくも感じた。

 誰しも現実のしんどさから逃れ得ないのが人生なのか……?

 先生にはあらかじめ、婚活を考えるヒントになる本を紹介してほしい、とお願いしていたのだが、おすすめしていただいた本に光明が見えたのでご紹介したい。

結婚≠人生をあらためて確認しよう

 1冊目は、荒川和久著『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』PHP新書、2017)。筆者は約20年後、日本の人口の約半分が独身になるというデータを取り上げ、「ソロで生きる力」の必要性を説く。それは誰にも依存しないという意味ではない。むしろ趣味などを通してさまざまな関係性を作ることで一つの関係への依存をやめ、孤立のリスクを回避しよう、という提言だ。筆者自身、根強い結婚規範に強い言葉で異を唱えていて、それだけに筆者もまた昔からある規範とたたかっているのだと感じられた。

 もう一冊は永田夏来著『生涯未婚時代』(イースト新書、2017)。最近の女性たちについて、強い意思による「非婚」のスタンスではなく、結婚を否定するわけではないが自分の求めるものを追っている結果、当面は結婚しないという「未婚」の態度であると述べる。これはA子をはじめ、仕事をがんばっている女性たちの生き方を言い当てている。著者は自身が非正規の研究者であることを明かし、従来の結婚や家族制度が担ってきた生活の保障をどのように社会が担うべきかをシェアハウスなどを取り上げながら問いかけている。つまりこれは、結婚はセーフティネットではない、という主張だ。

 どちらも結婚をはじめ、私たちの年代の生き方にフォーカスした内容で共感できた。そして思ったことは、「けっきょく自分の人生は私たち自身が作るものだ」ということ。

  どんな生き方をしていきたいか? それは簡単に結論が出るものでもなく悩ましい。選んだ生き方が社会規範とずれているかもしれない。そういうしんどい時、これでいいよね! と互いに励まし合える仲間がいたらいいなあ、と思う。「婚活をナナメから見る」というこの小さなトピックもまた、そのひとつとして誰かを力づけることができたら、書いた甲斐があるかな、と思うのだ。

 

  • 赤川 学(あかがわ・まなぶ)さん
  • 1967年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了・博士(社会学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。社会問題の社会学、セクシュアリティ研究。
    主著:『セクシュアリティの歴史社会学』、『子どもが減って何が悪いか!』、『社会問題の社会学』、『明治の「性典」を作った男 謎の医学者・千葉繁を追う』、『これが答えだ!少子化問題』などがある。

先生の最新刊『少子化問題の社会学』(弘文堂)

 (次回に続く)

フリーランスライター。元国語教師。本や人をめぐるあれこれを記事にしています。
婚活をナナメから