太田彩子の「キャリアを上って、山に登る」

「なりたい自分」になるために、キャリアをどうつくる?

「こんなに頑張って働いて、何の意味があるんだろう」。ふと頭をよぎるこんな疑問。尽きることのない悩みや不安のその先には、何があるのでしょうか。

●太田彩子の「キャリアを上って、山に登る」06

 今年42歳になる先輩女性、太田彩子さんは、まさに“バリキャリ”な女性でした。21歳で出産して以来、子育てをしながら仕事に取り組み、リクルートのトップセールスとして活躍後、株式会社ベレフェクトを起業し、日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。ほかにも社外取締役など多岐に渡る活動をしています。ここ数年は海外遠征をするほど本格的に登山に取り組み、昨年には心理学を研究するために筑波大学大学院に入学しました。

 そんな彼女に、これまでを振り返ってもらう本連載、太田彩子さんの「キャリアを上って、山に登る」。今回は、「女性のキャリア」について伺います。

時期によって、働き方の価値観は変わる

 2006年に人材育成を事業とするベレフェクトを、2009年に営業部女子課を立ち上げましたが、この10年で世の中はものすごく変わりました。今でこそtelling,のような働く女性向けメディアがあって、女性誌でも仕事をテーマにした特集を組むようになりましたが、当時は「仕事を頑張りたいなら、男性に合わせなきゃいけない」ムードが漂っていました。

 女性に限らず、あらゆる分野で働き方そのものが変わりつつあります。就職したら終身雇用で安泰だった頃は、キャリアを主体的に形成するという考え方は必要なかった。でも、時代が激変する中で会社が個人の面倒を見切れなくなった今、生き残るためには自立して自分のキャリアを考えなければいけなくなりました。

 女性は特に、選択肢が多いですよね。男性はなんとなく社会的に正社員で働き続けることが決まっている風潮があるけれど、女性はライフイベントに影響を受けるので、そのぶん多様です。だから悩むんですけど、その時々で立ち止まって、どういう働き方をしたいのかを内観するのは大事なこと。自分が置かれている状況や時期によって、働き方の価値観は変わるからです。

つまらないと感じるのは、目標更新のサイン

 『日本型キャリアデザインの方法』(日本経団連出版)や『キャリアデザイン入門〔Ⅰ〕基礎力編 第2版』(日経文庫)の著書・大久保幸夫さんによれば、キャリアには、「山登り型」と「筏(いかだ)下り型」という2つの考え方があるそうです。
 激流の中でゴールを意識せず、ひとつひとつクリアしながらキャリアを積んでいくのが、「筏下り型」。特に20代は考える余裕が持てず、とにかく目の前のことに必死で取り組む人が多いと思います。最初は与えられた仕事を乗り越えることでキャリアを築いていけますが、それではやがて単調になる。ゴールがないまま流され続けていると、次第につまらなく感じたり、やりがいを見失ってしまいます。

 でも、それは“目標を更新しなければいけない”というサインでもあります。私が学んでいる心理学の「生涯発達」というのは、人間は死ぬまで発達し続けるという考え方。そう思うと、私たちの可能性はいくつになっても開かれているのです。しかし、自分自身が勉強を怠っていたり、何か新しい情報を取り入れることをしないと、視野が狭くなってしまいます。視野が狭くなると、生きるための選択肢が少なくなり、キャリアに行き詰まります。

 もし、つまらないと感じる時があれば、積極的に勉強に出かけたり、本を読んだり、他者の意見や考えを取り入れてみてください。視野が開けて、「次はこういう私になりたい」という目標が見つかるかもしれません。

 「なりたい自分」に対して、足りない経験やスキルを見つけて、「こういうチャレンジをしたら、人生がもっと豊かになるかも」と考えられるといいですよね。

短いスパンで勝負をしない。最後に勝てば、それでいい

 ただ、常に時間を自由に使えるとは限りません。出産や介護など、時間的制約がある時期も人生にはやってきます。そういう時は長期的な視野を持って、「長いキャリアの中の一定期間の話」と捉えてみる。

 私が落ち込んだ時に支えてもらった言葉に、「最後に勝てば、それでいい」というものがあります。目の前の夢や目標が叶えられないこともあります。しかし大事なポイントは、短いスパンで勝負をしないこと。私なんかハンデだらけだったんですよね。例えば、私は学生時に出産を経験したので、当時の就職活動を諦めました。新卒一括採用が主流の日本では、周りよりも大きなキャリアの遅れを感じてました。しかし今は、子どもが大学生になり、思い切り好きな仕事や研究に携わることができています。あの時は絶望的でしたが、長期的に見ればどうにかなっています。

 色々な制約条件があると、もっと働きたいのにできない、悶々と気分がふさぎこんでしまうこともあるでしょう。しかし、それは永遠でないことが多い。例えば今育児中であっても、子どもが大きくなれば違う働き方もできるはず。自分のキャリアを追求したければ、希望に沿った会社を探すことだってできる。ワーキングマザーになったら転職はできないと、先入観で決めつけてしまう人もいますが、今は働く女性に追い風が吹いていますから、選択肢はさまざまです。

 Facebookの最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグさんは、著書『LEAN IN』の中で、「キャリアは上下に登り降りするはしごではなく、縦横無尽に行き来するジャングルジムだ」という表現をしています。予想できないことが多い中で、一歩通行ではなく複合的な道を、その時々で悩みながら選択していく。仕事って、だからこそ面白いと思うんですよね。

リクルートの営業職として活躍後、2006年株式会社ベレフェクト設立。2009年より、日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。専門は働く女性や女性営業職の人材育成・キャリア開発。
2009年に株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人広告営業、派遣コーディネーターを経て、働く女性向けウェブマガジンの編集として勤務。約7年同社に勤めたのち、会社を辞めてセブ島、オーストラリアへ。帰国後はフリーランスの編集・ライターとして活動中。主なテーマは、「働く」と「女性」。
1986年週刊朝日グラビア専属カメラマン。1989年フリーランスに。2000年から7年間、作家五木寛之氏の旅に同行した。2017年「歩きながら撮りながら写真のこと語ろう会」WS主催。