90歳のおばあちゃんがミレニアル女子に響くわけ―telling,Diary
●telling, Diary ―私たちの心の中。
30歳を迎えるとき、まわりに「できなくなること」が増えると強調された。「焼き肉は脂身が食べられなくなる」「生足は出したらだめ」「転職リミットきてるよ」などなど。
もちろん、私のまわりにもかっこいい先輩はたくさんいる。でも、先輩たちのような圧倒的な才能もなければ、壮絶な努力もできる気がしない。先輩たちの生き方を目指すことを想像しただけで、息切れしてしまう。わくわくする年の取り方が何か、全く見えなかった。
そんな不安を救ってくれたのが、自撮りおばあちゃんこと、西本喜美子さんの写真だった。
昨年、エプソンイメージングギャラリー エプサイト(東京・新宿)で開いた写真展には、1万6千人が来場。主催したエプソンによると、過去最多の来場者数という。西本さんへのメッセージ帳には、若い女性からの「あこがれの女性です!」「かわいい!」「好き!」というラブコールが並ぶ。
「いい・わるい」より自分の「おもしろい」を大事に
あの豊かでとっぴな感性はどこで身につけるのだろう。西本さんの写真との向き合い方の根幹は、写真の先生で、息子のアートディレクターの和民さんの教え方にあるそうだ。
何ごとも「うまい・へた」はある。
だけど「いい・わるい」はない。
だから自信を持って好きに写真を撮ろう。
もし、西本さんが「いい」写真を目指していたら、ゴミ袋に入るというアイデアは思い浮かばなかったかもしれない。ほかにも、世には出ていないが、入院中の夫の病室にあるカーテンで首をつる、という作品もあったそうだ。しかもぐったりした表情で。そんなの不謹慎だ! とやめていたら、そこから先の作品も生まれていなかったかもしれない。
取材中も食べ終えたデザートのカップがかわいいと、西本さんが反応。突然、撮影会を始めた。これも、何も考えないでみるとただの食べ残しのついたカップ。それでも、西本さんにすると「ふちのまわりがかわいいでしょう」となるのだ。
他人基準の「いい・わるい」がないからこそ、自分の「おもしろい」にシンプルに向き合えるのかもしれない。
取材中、はっとさせられた言葉がある。
「撮りたいものがありすぎて、老後が足りない」。
西本さんにとって「老後」は人生の総仕上げでも、惰性でもない。まだまだ成長期なのだ。「30の大台にのってしまった」と悲観していた自分がばかばかしく思えた。まだまだ老後にすらたどり着けないのに!
年齢を理由に自分の可能性を閉じない。わくわくする年の取り方をしたい。まずは「いい・わるい」を自分で取っ払うことかとから始めよう。胃もたれ覚悟でカルビも食べるし、生足でスカートもはく。新聞記者以外の何者かになる可能性だって諦めない。そんな30代でいくぞ。
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