『私を笑わないで』くるみ亮インタビュー「摂食障害の辛さを伝えたい」
ひかりと愛莉、対照的なふたりのヒロイン
主人公は21歳の2人の女性。ひかりと愛莉は高校を卒業したのち、ルームシェアをしています。親との関係が悪く、進学できなかったという似た境遇だったこともあり、お互い支え合っていこうと決めて暮らしています。
ひかりはスリムな体型で、つきあっている男性に依存気味。そして愛莉はぽっちゃり体型で、明るく振る舞っていますが、本当は明るく振る舞うのは「フリ」で、自分の体型、ご飯を食べすぎてしまうことをコンプレックスに感じています。「食べたくても食べられない」状態でどんどん痩せていってしまうひかり、「太るとわかっていても食べるのをやめられない」愛莉、それぞれの苦悩が描かれます。
摂食障害について、もっと理解を深めたい
――「体重」、そして拒食・過食という難しいテーマを描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
くるみ亮(以下くるみ) 摂食障害という問題が身近になった経験があって、その深刻さが知られていないと感じました。拒食、過食といった症状の問題に加え、周囲の無理解ですね。食べ過ぎてしまうのも、食べられないのも甘えだ、という考えが根深いなと感じたんです。
そういった無理解によって追い詰められてしまう人がいるので、少しでも理解が進めばいいなという気持ちで、この作品を描こうと決めました。
連載を始めてみて、「食べる事」について悩みを抱えている人はとても多いと感じました。
多くの人にとって身近で関心のあるテーマなのだと思います。
なるべく登場人物の心の動きをわかりやすく表現したい、と思って描いています。たまに「ここがわからなかった」というコメントがついていたりすると、もっと読者に理解してもらえるように補足のエピソードを描いたりすることもありますよ。
作品の登場人物の心の動きは、例えば自分の人間関係での悩みや、日々の小さな出来事から着想を得ています。人間関係って、理想を言えばお互い許しあって愛し合えたらいいよね、と常々思っているんですが、現実ってちょっとしたことでもやもやしますよね。そういう不安な気持ちを丁寧に描こうと思っています。
――ひかり、愛莉ともに親との関係が悪いという設定です。
くるみ 親との関係が原因で摂食障害に苦しむケースが中にはある、というのを取材を通して知り、この作品でも意識して描いています。
――前作『みんな知ってる』でも、今回の『私を笑わないで』でも、日常から一歩外れた、「誰にでも起こりうる」ことの怖さが描かれていると感じました。
くるみ 公表する人は少ないと思いますが、摂食障害を身近に感じている人も多いと思うんです。病気ではなくても、標準体重以下なのに「痩せたい」と思っている女性は多い。なぜそう思うのだろう、正解ってなんだろう?という答えを導き出すヒントになればいいなと考えています。ちなみに、連載前にはストーリーの結末まで考えてから描き始めます。だから今回も結末は決まってはいるんですが、描いているとキャラが予想外の動きをすることもあります。
――ひかりのバイト先で、バイト君が「食べ物を残す人は最低だ」というのに対して、店長が「いろんな人がいる」と戒める回(23話)は印象的でした。
くるみ あの回については、賛成、批判それぞれの立場からたくさんのコメントをもらいました。どちらが正しいというのは言うつもりはないです。ただ、こういう人もいるんだ、と認め合えればいいなと思っています。
――Web漫画の特性として、コメントですぐにダイレクトな反応が来るということがあると思いますが、印象に残ったコメントなどはありますか。
くるみ 実際に摂食障害で苦しんでいる方たちから、「この漫画に期待している」「理解が深まるきっかけになればいい」という声をいただくこともあります。私も摂食障害への理解を少しでも深めたいと思って描いていますが、摂食障害のつらさや症状を描けば描くほど、批判的な意見をいただくこともあったりします。
――私たちにとっていちばん身近なはずの”食”の、語られざる部分ですからね。
くるみ 作品を通じて、食事のとり方というか、あり方について考えるきっかけになればいいなと考えています。食べきれず残してしまう事や、食べ過ぎてしまうことに対して、世間はとても厳しいと感じます。そんな「苦痛を感じる食事」をとらなければならない人が減ってほしいと思っています。食事ってなんだろう、と改めて考えるきっかけになれば嬉しいです。