「摂食障害」を知る03

摂食障害は完治するの? 当事者が語る「過食衝動がなくなった感情の変化」

摂食障害を抱える人の中には、「私の食行動はおかしい」と自覚してはいるものの、誰にも言えず一人で苦しんでいる人が多いようです。また、第2回の貴子さん(仮名)のように、折り合いを付けながら長年この病気と付き合っている人もいます。摂食障害の治療には、何が一番有効なのでしょうか? そもそも、治る病気なのでしょうか?

医師が足りない!

「摂食障害の治療の第一歩は、摂食障害について十分理解できるような説明をしてくれる病院やクリニックへ行き、専門的な知識を持つ医師にかかることです」。40年以上前から摂食障害の治療に携わり、日本摂食障害協会の副理事長も務める内科医の鈴木裕也(ゆたか)医師はこう言います。

しかし、そうした医師に出会うまでにも大きな障壁があるといいます。

「日本摂食障害学会という学会があるのですが、そこに所属している医者の数は280名しかいない。評判のいい医師はなかなか予約が取れません。私が現役で診療に当たっていた時も、3年連続で年間100人以上の新規の患者さんが来たので、予約を制限していました。一度の診療で終わる病気ではなく、何年も続けて見ていきますからね。インターネットなどで調べて、摂食障害の治療を強く打ち出している先生を受診してください。『この先生は摂食障害をあまり分かってないな』と感じたら、別の医師にしたほうがいい。間違った指導を受けて、かえって悪くなる人もいます。まずは専門的な知識を持つ医師にかかりましょう。精神科や心療内科にはだいたいカウンセラーも勤務していますから、そこでいいカウンセラーに出会えれば理想的ですね」

鈴木医師によれば、できるだけ親も一緒に受診し、医師による説明を受けて、病気について正しく理解してもらうことが理想なのだそうです。

内科医で日本摂食障害協会の副理事長の鈴木裕也(ゆたか)医師

「本人から親に説明しても、理解してもらうのは難しい。親に理解してもらわなければ、この病気はつらすぎる。親はイライラをぶつける相手ではなく、理解してもらう相手です。同居しているかどうかに関わらず、分かってくれる親がいるかどうかで、ずいぶん症状が変わります」

「完治」を目指さなくていい

一方で、「摂食障害の患者さんから『完治した』とはあまり聞きません」とも鈴木医師は指摘します。

「もともと頭のいい人が多いから、食べ吐きの症状を抱えながらも仕事をこなし、結婚して子育てしている人も多い。でも、そうして人と関わっていくことで、摂食障害の原因となっている『脳が大人の社会で生きていく段階まで十分に”バージョンアップ”されていない』という状態が改善されていく機会があります。できる範囲で人付き合いを重ねてくことが一番大事です」

摂食障害の人に非常に多い就労の壁の一つに、食への強いこだわりや自分に課した食事制限から、同僚に誘われても一緒に食事に行けないという悩みがあります。

「やはり、できる範囲で人付き合いを重ねることが大事ですが、摂食障害の自分をあまり理解してもらえないことは覚悟しておくこと。摂食障害になる人は完璧を求めがちですが、完璧な人なんていないですから」(鈴木医師)

「究極の諦めモード」の先に見えた光

最後に、25年間も摂食障害に苦しみ、克服した佐知さん(仮名、49歳)の例をご紹介します。

佐知さんが摂食障害に陥ったのは中学生の頃。何げなく始めたダイエットがきっかけでした。

「ただ『痩せてみよう』と思い、しばらく食事制限してみたら、みるみる体重が落ちたことが始まりです。『上手くいった』――そう思うと痩せることが面白くなり、飢餓状態でもハイな精神状態が続きました。半年で体重は16キロも減少。ある時点から食べ始めると、今度は食べることが止まらず、過食嘔吐へと転じました」(佐知さん)

それから40歳になるまでの間、摂食障害の苦しみから何とか抜け出そうと、治療のために良いと思われることは何でも試してみたといいます。ひどい鬱も併発し、長期の入院も5回経験。過食嘔吐が止まらず隔離室に入れてもらったこともあったそうです。過食嘔吐はお金がかかるため、そんな状態でも入院期間を除いては派遣などの形で仕事を続けていました。

そんな佐知さんの過食嘔吐は、意外なきっかけで終わります。

「最終手段だと思っていた依存症治療の施設に入っても止まらなかったんです。『治らないんだ、私……』と呆けたようになって、しばらく家でごろごろしたあと、首を吊って失敗しました。『死ぬこともできない』と思ったとき、いろんなことに諦めがついた。それまでは、治す努力が足りないのだと思っていたけど、どうもそうじゃないと気づいた。なるようにしかならない、食べ吐きしながら年をとっていくんだろうなと、究極の諦めモードに入ったんです。

それまでは、『もっと有意義に過ごせるはずなのに……』『今の自分じゃダメだ』と焦りを覚えたとき、過食衝動が起こっていました。それに気づいて、『誰の役に立たなくてもいい』と思えた途端、過食衝動が減っていった。この10年間は、一度も過食嘔吐していません」

会社帰りに新宿の喫茶店で、自身の長い戦いを穏やかに語ってくれた佐知さん。彼女が口に運ぶコーヒーフロートのアイスクリームが、とても尊いものに見えました。

「人生がつらすぎて、それに直面しないために過食嘔吐しているなら、無理に食べ吐きを止めようとしなくていいと思うんです。個人的なケースとして、私が回復したのは、単純に『成長したから』だと思っています。それまで、物事をどうにかしようとしすぎていた。でも、自分の体でさえ思い通りにならない。なりゆきに任せて、生きて死ぬしかないんだと分かった。腹をくくれたんです」(佐知さん)

人生は思い通りにはいかない。いろいろな出来事を受け入れ、自信を取り戻して大人の「自分」を再構築していく。摂食障害の女性たちが目指す道は、今を生きる女性たちにとっても他人事ではありません。

「入院中は、摂食障害に限らず、病気だったから生きてこられたという人たちに会いました。だから『無理にでも治せ』と言うつもりはないし、『治したほうがいい』とも思いません。だけど、私みたいに年をとってからでも治る人がいるから、希望を持って、ということは伝えたいですね」(佐知さん)

ライター、字幕翻訳者。映画、ドラマ(中国語圏が中心)、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆している。大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、団体職員を経てフリーに。

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