「29歳問題」という問題

暗黒の20代を過ごした私の「29歳問題」

「30歳までに〇〇」的な呪いを考える、29歳問題。いま36歳のR美も、やはり「20代の時は焦っていた」といいます。彼女が囚われていた呪い、そして「今のほうがよっぽどマシ」と言い切る理由とは…?

●「29歳問題」という問題

20代で結婚したかった

20代で結婚して20代で子どもを産むのが当然だと思っていた。
それは、母が24歳で結婚し、26歳で私を産んだからにほかならない。20代、特に学生の頃など、自分の親ほど影響力のある大人はいない。親がそうだから、私もそうなのだ。当然のように思い込んでいた。

学生時代からつきあって、卒業したら結婚しようと思っていた彼氏は、私が25歳になる年になっても卒業できなかった。ストレートで卒業し、すでに2年間社会に出ていた私は、彼が卒業できない、3回目の留年が確定したとわかった瞬間に愛想が尽きた。

そして、次につきあった、そこそこウマがあうかもしれないと思った人と26歳になってすぐに結婚した。今思えば、一生彼と一緒にいたかったわけではない。今ならわかる。とにかく、20代の早いうちに結婚がしたかったのだ。ただ、親と同じように。

「自分」がなかった20代

結婚したことをのぞけば、私の20代は悲しい別ればかりだった。それまで元気だった祖父母3人が、立て続けに病で亡くなった。みな、平均寿命より若く。さらに、祖父母3人を失った3年後に父が病に倒れ、亡くなった。そして最も仲良くしていた叔母も、その次の年にやはり病気で亡くなった。2人ともまだ50代だった。生まれたときから当然のように周りにいた人がどんどん亡くなっていく喪失感。そしてそれをわかってくれる友人はほぼいなかった。当然ながら、当時の夫も。

その過程で、ようやく就けた憧れの仕事も諦めざるを得なかった。激務の仕事か、家族の看病かと思ったら、家族の看病を取った。その選択にいまでも後悔はないが、未練はやはり残った。周りを見てみると、同年代の友人は両親、祖父母すらまだ健在で、着々とキャリアを積んでいる。「普通」でない自分、それを作り出した病や死を恨んだ。今だったら、そんなこと言っても仕方ないし意味がないということもわかるけれど。

焦って結婚したいと思って一緒になった夫とは、当然ながらうまくいかなかった。私は自分のことがわかっていなかった。結婚したら母のように家にいて、専業主婦として暮らさなければと思いこんでいたが、すぐにギブアップ。人のサポートをするより、もっと自分のやりたいことを実現したい人間なのだ、とはっきりわかったのは28歳の時。元夫は、私が夫より自分の生き方を優先したいという女性だとは最後まで理解していなかったようだ。

家族の看病などが全て終わったタイミングでフルタイムの仕事に復帰した。元夫は、結婚後1年ほど経ったから、当然子どもを作ると思っていたようだ。子ども?冗談じゃない。まだ自分のことすら何も実現できていないのに。30歳になる前に、すべてリセットしよう。そう思って離婚した。29歳のときだった。

「30代が一番面白い」というアドバイス

30歳になる直前に、今の夫に出会った。フルタイムの仕事をはじめて少しずつやりたいことに近づいた。SNSを介して多くの新しい友人ができた。29歳から30歳になる時は、やはり「20代」という肩書がなくなることに人並みに抵抗はあった。でも「20代のうちにしたいこと」を考えてみたけど、特に見つからなかった。別に、焦ってやらなくたっていいなと思った。

30歳になった時に、年上の友人から言われた。「女は30歳から」「30代が一番面白い」「これからもっと自分らしく生きられるようになる」。事実、そのようになった。それは20代のうちに囚われていた「枷」のようなものがなくなった自分が、本気でいろいろなことに挑戦してみようと思えるようになったからかもしれない。いつもなにかに疲れていたような20代の私より、30代になってからのほうが肌ツヤも良くなったように思えたし、本気で仕事に取り組んで、若干体調を崩すこともあったが、人に誇れるスキルも身につけられた。

私の20代には「30歳までに〇〇」なんて言っている余裕はなかった。だから、今回の「29歳問題」のテーマには、この原稿はそぐわないのかもしれない。ただ言えることは、「誰かがこうしていたから」という理由で選択したものは、自分を満足させてはくれないということ。たとえそれが自分の親であってもだ。

そして「20代である自分」がなくなったとしても、怖がることはなにもない。「若さ」や「20代」という肩書きはないし、悲しい別れもたくさんあったけれど、その時間を超えて私は自分が「ほんとうに欲しいもの」や「核」のようなものをみつけた。そしてそれを実現するために踏み出す、ほんの少しの勇気も身につけた。自分を諦めなければ、いつでもそこから輝けるし、道が開けるということも、たくさんの人が知ってくれるといいなと思う。

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