単細胞的幸福論のすゝめ 01

「一緒にいたい理由」はシンプルでいい。夫の鼻筋頼りの結婚生活

夫にいらっとする瞬間がある。お皿を片付けてくれなかった、身体をふいたタオルをその辺に放置した。何度言っても直してくれないことがある。そんなとき、私はそっと彼の鼻を撫でる。すっと通った鼻筋。骨の感触。あぁ、私はこの人のここが好きなんだって思えるから。

●単細胞的幸福論のすゝめ 01

結婚相手の条件に何をあげるか、ちょっと考えてみてほしい。年収?学歴?趣味?それとも嫌いな食べ物が一緒とか?

私にとってそういった類のものは、全部一歩間違えたら、何もなくなってしまうものだ。
会社は倒産する可能性がある。そうなったら、年収なんて一瞬でおじゃん。同じ趣味を持ってても、どちらかが飽きれば楽しみは半減する。嫌いな食べ物が一緒でも好きな食べ物が違ったら、無難なものしか食べられない。

傷つくのが怖い、だから自立する

「傷つくのが怖い」「悲しい思いはしたくない」私はその一心でずっと生きてきた。人に裏切られる、期待されて答えられず諦められてしまう、そんな悲しさや切なさとは距離を置いて生きたいとずっと思ってる。

そういう思いを一番しやすいものが「恋愛」だ。彼氏が浮気した、好きだという気持ちが伝わらなかった…。「恋愛」って不思議なもので、幸せと同じだけ傷つくものだと思う。

19歳のときに卵巣のう腫と子宮内膜症で「子どもができないカラダ」と医者から宣告を受けた。すごく悲しかった。

―女性としてこれから何をどう生きていけばいいのだろう
―好きな人と自分の間の子どもに会ってみたかった……

いろいろな気持ちが駆け巡るなかで、当時付き合っていた人に「子どもができないと言われてしまった」と涙ながらに伝えた。

「大丈夫だよ。子どもができるカラダだから一緒にいるわけじゃないし」と笑顔で抱きしめてくれた。

それから数カ月経つと今まで徹底してきた避妊を辞めた彼がそこにはいた。「最近ゴムしなくない?買うのいやなら私買うよ」と言うと「子どもできないじゃん。外に出してるし、問題ないでしょ」と目も合わさずに話してきた。

その年の冬に、彼の浮気がわかった。というか、わかってた。約半年間のあいだ「まぁ、子どもができない女といるより向こうにとってはいいんだろうな」と泳がせていた。このままでいいかと思ってた矢先、浮気相手が家に乗り込んできたのだ。

こういった経験や両親の離婚を経て、男性と二人で一つになって生きていくことが釈然としなくなった。

でも、精神的に一人で生きていくのは正直、辛い。私はそんなに強くない。
だったら、男性に頼るのは精神面だけにして、経済的に自立しよう。必要なお金は自分で稼ぐ。自分の身に何か起きても不安にならないぐらいの経済力を自分で身につけるのだ。

「鼻」というユートピア

過去に好きになった人は年齢も違うし、職業も違う。でも、鼻筋は同じだ。
年収や社会的地位を求めるよりも、滅多に崩れない「美しい鼻」にこだわる。
だって、鼻は私を裏切らない。顔の中心から絶対に逃げたりしないから。

これだけだと単なる鼻フェチ馬鹿だけど、もちろん性格もセックスの相性も価値観も大事。そこに鼻筋を含めて、優先順に並べてみると1番に鼻筋が来るってだけの話。だから結局「鼻フェチ馬鹿」なのである。

いくら世界で一番美しい鼻筋を持った夫でも、喧嘩は起こる。ペットボトルの中身をちょっとだけ残して放置すること、自分の話は「聞いてくれよ」というのに、私の話は上の空。どちらも注意すれば「俺やってるし」と反撃してくる。

「あぁああああめっちゃムカつく!!!」とワザと就寝時間をずらして布団に入る。隣には寝息を立てる夫の寝顔。「あぁ…美しい鼻。絶景絶景」と気づくと温かい気持ちになる。

夫婦の絆は夫婦それぞれ

「なんで彼と結婚したの?」と聞かれると「いい鼻だから。自分のものにしたかったから」と答える。そう言うと必ず「いみわかんない」と苦笑される。
でも、夫婦の絆は夫婦それぞれ。鼻がきっかけで始まった5年間の交際期間で、彼の鼻以外に救われたことなんてたくさんある。

例えば、結婚を考えはじめたとき「19のときに子どもができないカラダだと言われてるの。だから、結婚はちょっとハードルが高いかも。ご両親もどういう風に思うかわからないし」と話した。

「もう両親にはもうすでに孫3人いるし。子どもできるできないで結婚を反対するほどナンセンスな親じゃない」

「あと、子どもができるできないは本気出せばどうにでもなると思うよ。不妊治療だってあるし、養子という選択だってあるじゃん。そこを踏まえても結婚は微妙って思うならしなくていいよ。結婚だけがすべてじゃないし」

鼻はそこにいるだけだけど、夫は言葉で私を愛し、ひょろっとしたカラダで包み込んでくれる。

単細胞的幸福論

変わらぬものを愛でることで、結婚して精神的な安心感を得た。
事故や事件に巻き込まれて鼻がなくなったり潰れない限り私は彼を愛してる。

「鼻のかたちが変形したら、私はきっと愛せないよ」
「ほんとにひでえ女やなあ」と片口笑いを見せる夫。

彼だってわかってる。「鼻が好き」、「顔がかっこいい」そういった深みのない単細胞的な嗜好が、本気で人を愛することを躊躇する私を解放してることを。
両親の離婚、それぞれの再婚をみて「結婚は永遠じゃない」と予防線を張ってしまう私。

そんな私を温めてくれるのは、世界で一番美しい鼻を持った彼の笑顔なのだ。

1990年生まれ。保育士、BuzzFeed Japanを経てフリーランスへ。あんぱんと羊羹が好きです。
単細胞的幸福論のすゝめ