なぜ男性がメイク?FIVEISM × THREE が目指す「ボーダーレスな世界」

2018年9月、男性用コスメブランド「FIVEISM×THREE(ファイブイズム バイ スリー)」がデビューしました。メンズのスキンケアは今までもありましたが、コスメとなると聞いたことがない……。なぜいまメンズコスメ?そもそもどういう製品なの?などの疑問を、「FIVEISM × THREE」を展開する株式会社ACROの御後章(ごご・あきら)社長に伺ってきました。

●キレイの定義

男性にも「自分を装う」文化の土台がある

――メンズのスキンケアは一般的になってきましたが、眉、リップ、ファンデーションなどトータルのメイクを取り入れたブランドで驚きました。ブランドデビューの背景を教えてください。

ファンデーション、コンシーラーからアイシャドウ、リップ、ネイルまでフルラインナップが揃う

御後章社長(以下御後): 私たちの会社ACROは、「世の中にない価値を提供する、時代の半歩先・一歩先を見せる」ということを目指しています。既存のブランドにTHREEがありますが、ブランドデビュー時から「モードなメイクとナチュラルなスキンケアの掛け合わせ」を発信してきました。時代の潮流でありながら、両者相反するように思えるもの同士の掛け合わせですね。それが今まではなかった新たな価値であると。そんなふうに、今はないけれどこれから可能性のあるものはなんだろう?と考えていたら、男性市場にいきつきました。

そもそも中世ヨーロッパでは男性も装飾としてのかつらをかぶったり、日本でも公家が眉を整えたり、江戸時代まではみんな髷を結っていたりと、「自分を装う」文化、その土台は男性にもあるのではないかと思いました。そして現代でももっと、男性が自分らしさを発揮できる世界を作ってもいいのではと考えるようになりました。

最近では、特にアパレルでユニセックス化が進むなど、世界全体がジェンダーフリーに動き始めていて、男性の美やファッションへの感度が上がってきています。こうした潮流の中で男性メイクというカテゴリやニーズが生まれてくるのではないかと考え、今回12カテゴリ・61アイテムというラインナップでブランドをデビューさせました。

自分をより発信する「ステルスメイク」

――メイクアイテムは大振りな、スティックタイプのものが多い印象です。

御後: 男性特有の所作を意識して製品をつくっています。例えばひげを剃る時は、シェーバーを握って顔に当てる。そういう慣れた動作でメイクに入っていけるようにと考えました。ファンデーションのスティック部分も大きいですが、これはわざと余白を多くして持ちやすくしています。アイシャドウも、ライターや携帯を持つ感じをイメージ。女性のようにポーチに入れるのではなくて、このままバッグにポンと入れてしまってもいい。男性の行動を考えてこの形になりました。

――男性もトライしやすいように考えられているんですね。とはいえ、まだ「男性がメイクする」ということに対して男女ともに抵抗感がある人は多そうな気がします。

御後: 確かに今までの男性メイクというと、海外ミュージシャンのように奇抜なものがイメージされがちでしたしね。今回我々が提案しているのは、「ステルスメイク」といって、顔の骨格を活かしたり、その人らしさを見せていく自然なメイクなんです。実は僕も今、フルメイクをしているんですよ。

――えっ!

御後: パッと見は全然わかりませんよね。ステルスメイクは、「自分」を発信するもの。眉や髪を整えることの延長線上に、自分自身をしっかりと魅せていくためにメイクがある、という位置づけです。

「メイク」ではなく「センスアップ」

御後: と言っても、いきなり全男性に「メイクしてください」と言っても難しい。今このコスメに興味をもってくださっているのは、コレクションをチェックしているようなファッション感度の高い方。常に「自分をより良く見せよう」という意識を持つ方というのは、こういったものも抵抗なく使ってくださるんですよね。あとは、日頃から人前に立つエグゼクティブ的な立場の方たち。これら2つの層がまず飛び出して、そのスタイルが「かっこいい」となれば、次第に一般の男性にも広がっていくと思うんです。眉を整えるのだって、一昔前は「男が眉?」なんて言われていることもありましたけど、今や当たり前ですからね。

「メイクする」というと、どうしても女性のようになってしまうイメージがあるので、我々は「センスアップする」という言い方を提唱しています。身だしなみに気を使うということは、自分を大事にするということ。そこから徐々に、自分の個性を表現していけるようになればいいと思います。

生まれてはじめて「爪の形」を褒められた

――ご自身がメイクをするようになって、気づいたことなどはありますか。

御後: 眉毛は色を入れるときれいに整うことや、顔の輪郭をしっかりさせると立体的に見えるようになるなど、メイクの仕組みが実感とともにわかって面白いですね。一般男性には少しハードルが高いかもしれませんが、ほら、ネイルもしています。これは急にいろんな人から「爪の形がきれいですね」って言われるようになりましたね。今まで生きてきて、爪のことなんて一度も言われたことがなかったのに!
装うことで、視線が集まるようになり、注目度がアップするんだなと、これはやらないと絶対にわからなかったこと。ものの見え方が新しくなって、世界が広がっていくのは実に面白いですよ。

僕は今カラーネイルをしていますが、透明で爪のツヤだけを出すものもあります。最近は名刺交換で手先を見られるからと、ネイルサロンに通う男性が徐々に増えているようですが、これぐらいからだったら気負わず始められると思いますよ。

――「FIVEISM × THREE」を通じて、変えていきたいこと、提供していきたい価値を教えてください。

御後: 女性のみならず、男性も美へのアンテナを高くしていくことで、文化的な意識が上がっていくはず。その先に男女を超えたボーダーレスな世界が実現できればと。文化度が高い世界って、豊かで平和だろうと思うんです。徐々に外資系のブランドなどでも男性コスメが出てきはじめていて、この流れがどんどん広がっていくといいなと考えています。

<取材後記>
正直、取材前は男性がメイク?と少し懐疑的な気持ちがあったのも事実。でも実際にお話を聞いて、製品を見てみて、「これは夫にもすすめたい!」という気持ちになりました。実際、お店にカップルで来て、女性が男性の購入を後押しすることも多いそう。身だしなみに気を使う男性が増えれば、さらに女性との共通の話題も増えて楽しい世界になりそう、とワクワクします!

朝日新聞バーティカルメディアの編集者。撮影、分析などにも携わるなんでも屋。横浜DeNAベイスターズファン。旅行が大好物で、日本縦断2回、世界一周2回経験あり。特に好きな場所は横浜、沖縄、ハワイ、軽井沢。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
キレイの定義