綾野剛×星野源「MIU404」5話「外国人問題って視聴率取れないんだよね」の波紋

綾野剛と星野源W主演で話題の「MIU404」5話。「テレビというメディアの本当の役割」について、テレビドラマが提示したことで話題になりました。エンターテイメントを通じて、観る人に「外国人問題」という社会問題を突きつけた、「MIU404」5話「夢の島」を振り返ります。

この国の現実は「無理ゲー」

「テレビはお茶の間が喜ぶ番組作んのが仕事」。「だからテレビは古いって言われんだよ。他がやってないことをやろうみたいな気概はないの?」
テレビ局員・秋本(大村わたる)がナウチューバーのREC(渡邊圭祐)に告げた言葉と、RECの返答。「MIU404」5話こそが、この二つの対立する課題への、ひとつの回答だったのではないだろうか。

店員が日本人の店だけを狙ったコンビニ強盗事件が多発する中、店員に扮して警戒する伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)。すると、SNSの呼びかけによって、同じ日同じ時間に外国人によるコンビニ強盗が一斉に起こる。伊吹が思いを寄せるベトナム人コンビニ店員、マイ(フォンチー)が共犯と疑われたため、二人は彼女を監視することになる。

伊吹と志摩は強盗たちと出会い、マイの一日を追ううち、海外からやってきた技能実習生、留学生の現実にぶち当たる。技能実習生は明らかに違法な低賃金で過剰に働かされ、差別、パワハラ、いじめにも遭って5年で2万6千人が失踪していること。留学生もほぼ出稼ぎで、定められた週28時間の仕事ではとても生きていけず、バイトを3つ掛け持ちしていること。警察に疑われたマイはコンビニでクビを宣告され、学費は払えない、借金も返せない、国の家と畑は抵当に入っていて一家離散。「無理ゲーだな。ゲーム設計した奴の顔が見たい」志摩の言葉に頷くしかない。
あくまでも、SNSに煽られた同時多発コンビニ強盗というキャッチーな事件を追う中で見えてくる事件の原因であり、そしてこの国の現実だ。

 

小日向文世VS渡辺大知、と二つに分けられない立場

信頼する恩師・ガマさん(小日向文世)を通じて、強盗を呼びかけるベトナム語のフレーズが不自然であり、日本人が書いた可能性が高いと知る伊吹。志摩と伊吹はマイが通う日本語学校の事務員、水森(渡辺大知)が怪しいとにらむ。やがて、再び強盗を呼びかけるSNS投稿が行われる。

外国人支援センターで働き、「海を越えて働きにきてくれてるんだ。大切にしないと」というガマさん。一方で実習生たちを食い物にする技能実習生管理団体で働いていた水森。しかし水森も、マイという一人の留学生と出会って罪悪感に苛まれていた。渡辺大知、この板挟みの表情が絶妙だ。楽しくドラマを観ているうちに圧倒的な現実を知り、なすすべもなく途方にくれるしかない私たちにもきっと似た、困惑と迷いの顔。

「今さらどうして僕一人がこんな罪悪感を抱かなきゃならない」という水森に「うるせえ!」と叫ぶ志摩に胸が詰まる。「俺はいま何十万人の話をしてない。マイさんの、一人の人間の話をしてる。日本に憧れてやってきた、一人のたった一回の人生の話」。たぶん私たちも、そこからはじめることしかできないんだろう。

管理団体の長・喜多を演じたのは坂東彌十郎。少ないシーンながら、人を人と思わず、利益ばかりを求めるいやらしさがにじみ出る好演。『半沢直樹』で歌舞伎役者の出演が話題になっているが、実はここでも歌舞伎役者の名演が光っていた。

こんなにも現実を描きながらも、片時もエンターテイメントから軸足を外さないのがこのドラマの魅力だ。冒頭、伊吹の「俳優向いてるかも?」に対する志摩の「こんな俳優がいてたまるか」とか、九重(岡田健史)の「隠語みたいなもんたい、集める気はなかとですよ」という急激な訛りとか、グッとくるポイントがちりばめられている。機捜うどんがベトナムにちなんで伊吹の作るフォーになっていたりも!

 

「MIU404」5話の投げた石

「大丈夫、どういう意味? 難しい、日本語」と水森に尋ねていたマイ。「オーケー? ノー?」と「大丈夫」の意味をはかりかねていたマイが最後に「今度はたぶん、大丈夫」と言う。そこに希望を見出す伊吹と、心配する志摩の対比。

「外国人問題って視聴率取れないんだよね」。これも今回、RECが言われた言葉だ。ニュースによればこの5話の視聴率は12.5%。初回に次いで2番目にいい数字だった。

「みんな日本行きたい。でも日本は私たちいらない。ほしいのは働くロボット」と泣くマイの主張を受け、「みんな、どうして平気なんだろ」とため息をつく伊吹。「見えてないんじゃない?見ないほうが楽だ。見てしまったら世界がわずかにズレる。そのズレに気づいて逃げるか、また目をつぶるか」と答える志摩。私たちは見てしまった、この5話を。知ってしまった、現実を。わずかにズレた現実を、これからどう生きるか。「MIU404」の投げた石の波紋はこの先、どう広がっていくだろう。

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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