綾野剛×星野源「MIU404」4話。志摩の闇が見えた「本性を知るには生死がかかった瞬間を見るといい」

綾野剛と星野源W主演で話題の「MIU404」4話。銃で撃たれたまま、1億円を持って逃亡する女性を追う――。星野源自身「脚本を読んだとき、あまりにも痺れまくり、興奮感動した」(instagramより)といいます。志摩の闇もチラリと見えた「ミリオンダラー・ガール」の4話を振り返ります。

謎の女性の正体、発覚する

管内で発砲事件が発生。加害男性も、撃たれた被害女性も立ち去ったという。被害者は2年前、裏カジノ事件で逮捕された元ホステス、青池透子(美村里江)で、彼女が勤めるPCショップの金1億円を横領し持って逃げたとわかる。伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)は、青池の行方を追う。

今回、ひとつの特徴は4機捜隊長・桔梗(麻生久美子)の前のめりぶり。3話で桔梗の息子を世話していた謎の若い女性(黒川智花)が今回の事件に関わりがあるからだ。女性は2年前、警察が10億円規模の裏カジノ事件を摘発するきっかけとなった情報提供者・羽野麦だった。「女の子たちがひどい目に遭ってるのが許せなかっただけ」と、「黒幕・エトリを逮捕する」ことを条件に情報を提供した麦。しかし我孫子(生瀬勝久)は麦一人を守ることより大勢の逮捕を優先し、エトリを逃してしまう。以来エトリの影に怯える麦を桔梗は自宅に匿っている。「いいこと」をした代わりに命の危険にさらされ続ける麦。その時に逮捕という形で助けたはずなのに再び道を踏み外している青池。彼女たちを守り、助けたい桔梗。ここに、目に見えない女性たちのつながりが確かにある。

垣間見える志摩の闇

青池は執行猶予後、PCショップに就職。しかしその店は暴力団に乗っ取られ、資金洗浄に使われていた。安月給でも地味ながらまともな人生を送ろうとしていた青池は落胆し、どうせ汚れてしまったのならと横領を始める。それが暴力団側にバレてしまい、約1億を持って逃げたところを撃たれたのだった。やがて、青池が空港行きのバスに乗ったことが判明する。バスには青池を撃った男も同乗しているらしい。伊吹と志摩の乗ったメロンパン販売車(実は機捜404の車)、PCショップ店長、同じ警察の組対(組織犯罪対策部)、一機捜、みんなが青池の乗ったバスを目指す。

特筆すべきはやはり、志摩が命の危険にさらされるシーンだろう。桔梗の指示により高速を降りて止まったバスに追いつき、青池を撃った男たちを確保する二人(冒頭に伊吹が流したのんきなメロンパン屋のテーマ曲がここで犯人確保に役立つところが気持ちいい!)。バスを降りたところで、PCショップ店長・冴羽(福田転球)が志摩に銃口を突きつける。
冷静すぎる態度で自分に向けられた銃口を素手で掴む志摩。さらに「撃てば」とそのまま拳銃を自分の額に誘導する。間一髪の蹴りにより志摩を助けた伊吹は、「死にてえのか」と怒りをあらわにする。過去に何があったのかはまだ明らかでないが、志摩が自分の命を重く思っていないことがわかる大切な場面だった。

大きなテーマとエンターテイメント性の両立

バスの座席で息絶えていた青池。彼女は宝石店で1億をルビーにかえ、自作のぬいぐるみのうさぎの目にしていたことがわかる。青池の「つぶったー」(うさぎのアイコン!)のつぶやきから、伊吹は彼女がうさぎを託した先を探し当てる――。

一見、死ぬまで不幸でしかなかった青池が、実は最後に希望を見つけていた。この大きなテーマをテレビドラマでやってのけるために、脚本の野木亜紀子はきちんとエンターテイメント的要素を詰め込んでいる、このバランス!

大きなところで言えば、撃たれたまま1億を持って逃げる、それを警察から暴力団まで全員が追う、というキャッチーな枠組み。冒頭で伊吹が「タイガーマスク現象」について話し、志摩が「いいことをするには、心の余裕と金銭的余裕がいる」と言う。それが最後の青池の行動につながる丁寧さ。それから「つぶったー」の存在。桔梗をはじめ、全員が青池から警察への恨み言と捉えていたその言葉が、実は正しい順序で読んだら希望を語っていた、というからくり。それを見つけるのが九重(岡田健史)というところも抜かりない。

また、ちょっとした小ネタだが、回想シーンで青池の日記帳が開いていた。まだまともな仕事に就けたと思っている頃の日記で、「仕事を頑張ろう」的なことが書かれた中にこんな記述があった。
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今日の夢は最悪でした。超リアリティあったー。
なんか変な人に追っかけられてる夢を見ました。
ちょー怖くて、起きたら泣いてて、汗やばかったです。
逃走中みたいでした……。
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正夢を見ていた青池が切ない。そして、ほんの一瞬映り込むだけの日記帳の書き込みにまで手を抜かないこの制作チームに恐れ入る。

物語をより強くした美村里江の演技

「また汚れてしまった」「どこなら綺麗に生きられるだろう」とつぶやく回想の青池。男に食い物にされ人生を終えた青池だが、最後に見知らぬ弱い女の子を救う。桔梗や麦から間接的に手を差し伸べられた青池が、次へと救いのバトンをつないだかのようだ。ちなみにルビーには「情熱、勇気、自由」などの意味が込められることが多く、「勝利を呼ぶ石」と言われているらしい。たぶん青池は、最後の賭けに勝ったのだ。

4話に説得力を持たせたのは間違いなく美村の演技だろう。薬局で「賭けてみます」と宣言したときの諦めの混じった決意の表情。命が絶えようとする中で「(自分と同じような)弱い女の子を救う」という目的を見つけたときの目の輝き。美村といえば、かつて「トットてれび」(NHK)で向田邦子を演じるにあたり、向田の原稿数百枚を模写し、彼女の筆跡を手に覚えこませたというエピソードがある。ひとつひとつの役に真摯に向き合う美村だからこそ、この、弱い立場にあって強さを失わない女性を演じ切れたのだろう。

なお、星野源が「星野源のオールナイトニッポン」(毎週火曜深夜1時、ニッポン放送)で、この4話について語っていた。そこにこの回のすごさが詰まっているのでぜひradikoで直接聞いてほしい。

「相手の本性を知るには生死がかかった瞬間を見るといい」と言っていた伊吹。今回伊吹は、志摩の「死にたい奴」という本性も知った。バスに乗り込もうとする際、志摩からの「防弾ベスト着用!」の注意に「ガッテン承知の助〜」と答える伊吹。「お前がそう言う時はガッテンしてない時だ」という志摩。最後に「あんなマネ、二度とすんじゃねえぞ」という伊吹に志摩は「ガッテン承知の助」と答えていた。志摩の謎はまだ残っている。

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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