安藤桃子監督「やっと、自分の『運転』の仕方がわかるようになってきた」

映画という「枠」を超え、映画館運営や行政イベントの演出など、様々なジャンルでパワフルに活躍する映画監督・安藤桃子さん(36)。後編は、コンプレックスの乗り越え方、映画作りへの思いをtelling,編集長中釜(37)が聞きました。

「チェンジ!」と言われないよう、みそぐ

――桃子さんの場合、20代はこう生きた、だから30代はこう生きていこうとか、パートナーとはこうありたいとか、人生のプランはあったんですか?

安藤: プランというより、自分の中で「絵」が見えた通りに生きてきました。イメージすると「絵」が見えるんです、私。そのイメージに振り落とされないように生きてきました。
もし今「人生で一番何を気をつけてますか」って聞かれたら、「常にみそいでいくこと」って答えます。

――みそいでいく、ですか?

安藤: 言い換えるなら、慢心しないよう、おごらないように、ということです。うちの父(※編集部注:俳優の奥田瑛二さん)が常に「謙虚であること。あとは思うままやれ」って言うんです。「謙虚」とは何かを言い表すのって難しいなと思っていたら、この前、高知市内で「謙虚とは 堂々として過信しないこと」という言葉が何かの旗に印字されてるのを見たんです。確か中岡慎太郎の言葉です。

まさにそうだなと、腑に落ちました。自分という存在はいつでも交代可能な存在でしかないから、いつでも「チェンジ!」と言われる可能性はあります。だから「チェンジ!」と言われないよう、いま自分が「そこ」に立たせてもらっている限り、精一杯、謙虚にやるということです。

高知ではモノづくりがポンとできる

――「そこ」に立たせてもらっている限り……。その言葉で思い出すのは、10月末の「全国豊かな海づくり大会」で天皇皇后両陛下を高知に迎えた式典の演出を、桃子さんが任されたことです。

安藤: 平成最後の「海づくり大会」ということで、県から式典の演出などの依頼を受けました。今上天皇の毎年恒例の地方行事としては最後となるご訪問ということもありましたし、高知県としても、ひと味違うことをやりたい、という狙いがあってのことでしょう。

「まずはCMを作ろう」ということでしたが、なにぶん少ない予算なので、全部手弁当で頑張りました(笑)。友達の旦那さんが制作に入ったり、CMで流れる歌も私が歌って。音響も、知り合いのウナギ屋のおっちゃんに手伝ってもらって、5回くらい歌って「はい完成」。 

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――天皇陛下を迎えるイベントCMが、そんなに手作り感あふれる作り方されたの初めてじゃないですか?

安藤: でも、いいのできましたよ!高知では意志決定が早いから、モノづくりがポンとできちゃうんです。その流れで、「豊かな海の歌」を作りました。私が歌詞を書いて、それを小学校の児童に合唱してもらい、彼らの歌声で、両陛下のお見送りをしました。子どもたちの歌声でお見送りできて、すごくよかった。

――安藤さんの本業は映画監督ですよね?映画の「枠」にとどまらず、トークや音楽など様々な「感性」で多彩に表現し、伝えることができる。うらやましいです。

安藤: すべてトレーニングでできるようになります!最近、高知で「出張桃子塾」という出前授業をしていて、中学や高校に行って、体育館でしゃべり倒すんです。彼らに話をしていて気づいたんですが、例えば話し方にも癖ってあるじゃない?それを意識して直していくと、無意識になくなってる。そういう経験、誰でもあると思うんですよ。

それと同じで、人の思考のパターンとか意識の持ち方も、変えていけるものだと思うんです。

例えば人間って「あんたは頑固だから」とか周囲に言われると、「自分はそうなんだ」とキャラ設定するところがありますよね。本当はそうじゃないのに。だから、「どうせ私は」と自分のキャラ設定に流されずに、「いいな」に近づける具体的なことを、日に1個でいいからトレーニングしよう、と話すんです。

――理想の自分に近づけていくのも、トレーニングでできるということですか?

安藤: うん。もし職場に憧れの人がいて、「自分もこんなふうにバリバリ発言できるようになりたい」って思うとしますよね。その「なりたい」部分に気づくということは、すでにその素質がある証拠なんです。

それを自分でやってみてもいいし、具体的にそういうものがないときは、自分が「幸せだな」と思えることを毎日1個でもやればいいと思う。トイレ行きたい、って思ったら打ち合わせ中とかでも我慢せず行く、みたいなシンプルなことから。

――(笑)。なりたい何かを意識できたら「素質が見つかった」、自分が心地良いことをしたら「幸せだな」って喜べばいいんですね。それにしても「出張桃子塾」、面白そうです。

安藤: 子どもたちには、本当にワクワクすることを見つけてほしいんです。「これやってるとホントに楽しいな」っていうものを知ったら、そこに関係する道を進んでいける。逆にそれを知らずに成長すると、人生は難しくなるんじゃないかと思うんですよ。

外見的にはコンプレックスの塊だった

――どこまでもパワフルですね。両親から受けた愛が、パワーの源ということですか?

安藤: でも外見的にはコンプレックスの塊でしたよ。祖母に「おまえは器量が悪い」ってずっと言われてたので。だからビジュアルに関しては、「自分を知る」しかないですよね。ファッションも髪形も、色々やって、失敗もしました。

でも今は、与えられた「自分」という借り物の肉体を「いかに生かし切るか」って考えたら、すごく楽しい。レンタル中はうんと生かし切らなきゃ。いつか地球にお返しするわけだから。

――視点が壮大ですね(笑)。

安藤: 地球に生きてるんだから、宇宙から自分を考えましょうよ(笑)。でも私、超越なんて全然してません。「壁」は次々と出てきますから。出てくるけど「絶対、超えるぞ」って思ってるから、「壁」を前にワクワクもしてます。

若い頃は悲しいことや苦しいこともたくさんありました。10代のときには、1年くらいトイレでしか寝られない時期もあったし、20代では大失恋で2年くらい抜け殻のようになりました。でもそれがあったから、今の私がある。色々をくぐりぬけて、ようやく最近です、「自分の運転の仕方が分かってきたかな」って思えるようになったのは。

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。