安藤桃子監督「○○しなきゃ、という他人の言葉の奥にあるのは、愛だと思う」

映画という「枠」を超え、映画館運営や行政イベントの演出など、様々なジャンルでパワフルに活躍する映画監督・安藤桃子さん(36)。32歳で高知に移住して結婚、出産し、昨年は離婚も経験したけれど、シングルマザーとなってもその勢いは増すばかり。迷い多きミレニアル女性たちがパワフルに生きるすべを、telling,編集長・中釜(37)が聞いてきました。

周囲から「○○しなきゃ」 それは愛だ

――お会いできて光栄です。今日は、「年齢や“こうあるべき”という世の中の常識にとらわれずにどう生きるか」をうかがいに来ました。

安藤桃子(以下、安藤): 先日、ドキュメンタリー映画の名手である太田敏監督にお会いしたら「きみってすごいKYだね!」って笑って言われたんです。その場にいたみんなからも「超KYだよね」って突っ込まれまして(笑)。そしたら監督が「でも、鏡がなかったらみんな自分の年齢なんて意識しないし、空気も読まないと思う。みんなずっと“小学生”のままだよね」って。そうだなあ、と。

人間って、鏡ができたから自分の姿を認識してきただけ。でも今はスマホの自撮りもあって、過剰に「自分は何者か」を意識しちゃうんですよね。

――たしかにそうですね。自分を“見る”機会が増えて自意識が強くなるのと同時に、30歳くらいになると「結婚」「出産」などいろいろな「○○しなきゃ」が気になって仕方がないんです。「あなたの好きにしていいよ」と世間が多様な生き方を認めてくれるようになっても、自分の中では、「やっぱり○○しなきゃダメかな」とモヤモヤが消えない。そういう「○○」の壁を「どう超えればいいんだろう」って、みなさん悩んでいます。

安藤: はい!(と元気よく手を上げる)
最近、「○○しなきゃダメよ」っていう周りからの助言について、気づいたんです。「いい加減結婚したら」とか、「子ども産むなら早くしないと」とか、つい「うるせーっ!」って思ってしまうけれど、助言してくれる人の本音を「翻訳」しないといけないな、と。

というのも、私も「言われる」ことが多いんです、あちこちから。正直、これまでそれなりに腹立ててきたけど、最近、その奥に、「こうしたらもっと幸せになると思うけど、どう?」っていう気持ちがあるんですよね。

――腹は立つけど、その奥にあるもの……。

安藤: うん。自分がそれを言う立場になってわかったんです。今、娘が3歳なんですけど、「ハル、かゆくても、おてて搔いちゃダメよ」と言うと、ハルはムキになってガシガシ搔いて彼女なりに抵抗してる。そのとき、親としての私がふっと気づいたんです。「かいちゃダメ」って言うのは親の「愛」ですよね。「こうした方が、我が子が笑顔になれる」という願いが「○○しなきゃ」という発言になっていて。言葉の奥にある「愛」を感じることが大事なんだな、と思うようになった。

――たしかに、意地悪では言ってないですね。

安藤: ただ、自分の幸せな道を歩いていれば、周囲からは何も言われませんよね。例えばずっと独身でも「これが最高!」と思って毎日生きてたら、周囲は何も言うことがありません。結局、「言われる」人って、文句が多いんですよ、私も含めて(笑)。そのネガティブな発信を拾って、「○○したら?」と言わせてるワケです。

「愚痴は拾わない」高知人の知恵

――なるほど。それに、いつ気づかれたんでしょうか?

安藤: 近所のおばちゃんに「愚痴は自分を落とすよ」って言われまして。今住んでる高知の人はズバズバ言うんですよ。自分の愚痴に相手が同調した瞬間に「落ちる」と。

――負のスパイラルの始まりになってしまうんですね。

安藤: 高知の人って、大人な人ほど、会話の中で愚痴を拾わない。若い子が「仕事が大変で~」って言っても、「あっそう。まあ一杯飲もうや」。飲みながら「で、何したいの?」とか聞かれて「こうありたい」「目標はコレ」とか前向きな語りに転じていく。だから「愚痴は拾わない、発信しない」って意識してたら、結構楽になってきました。

――とはいえ……、お聞きしてもいいでしょうか。昨年、離婚なさいましたよね。ご両親は東京で、ご自分は働きながら高知で子育となると、大変で愚痴を言いたくなったりしませんか?

安藤: 高知に、ノリちゃんという仲良しの女性がいて、彼女は働きながら一人で4人の子どもを育てているんです。実はこのノリちゃんに、うちの娘も一緒に育ててもらってる感じで。彼女に「4人も一人で育てて大変ね」って言ったら、「増えれば増えた分、遊んでてくれるし、喧嘩でも相手がいるからほっとける」って返されて、確かにそうだなと。すごく助けてもらってるし、そういう言葉を日々聞いていると、愚痴は遠くなっていく。

――仮想の親戚みたいな存在って、有り難いですよね。私自身も東京に暮らすシングルマザーで実家は鹿児島なので、ご近所の皆さんにサポートしてもらいながら子育てをやれている状態です。まさか自分が離婚するとは思わなかったですし……。

安藤: ですよね。私も「お互い100歳まで仲良く暮らしていく」イメージでしたから。人生、何があるかわかんないよね。楽しくやってるけれど、何も愚痴がないとかありえないから、上京したときの電車の中とか、知り合いの誰にも聞かれないところでブツブツ言ってます。降りる前には、スッキリ(笑)!

――斬新な愚痴の言い方、いいですね(笑)。周りや「○○するべき」を気にするのが、馬鹿らしく思えそうですね。

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。