教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」17

妊娠したのに、会社が仕事を軽減してくれない…は「マタハラ」認定されるの?

仕事でモヤモヤ、夫にモヤモヤ、人間関係でモヤモヤ。もしかしたら、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線でやさしく解説します。今回のテーマは、妊娠した女性への職場の「マタハラ」について。本当にあった裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」17

体力勝負の介護職。妊娠したので負担軽減を願い出たら……

B子:A子さん、お疲れ様。

A子:B子さん、お疲れ様。また相談があるんだけど、いいかしら?

B子:また来たわね。今度はどうしたの?

A子:今回は私じゃなくて、私の姉のことなのよ。

B子:A子さん、お姉さんいたのね。それでお姉さんがどうしたの?

A子:うちの姉は介護職員として働いているんだけど、4~5カ月ほど前に妊娠していることがわかったのよ。

B子:あら、おめでとう。

A子:ありがとう。それでね、姉は介護職員だから、結構、肉体労働的な仕事が多いの。たとえば、お年寄りの歩行介助とか入浴介助とかね。

B子:確かに、介護の仕事ってけっこう、体力仕事って聞くわよね。

A子:それでうちの姉は会社の上司に妊娠したことを報告して、業務を軽減してもらいたいってお願いしたのよ。

B子:うん、それで?

A子:そしたら妊娠報告から1カ月してから、ようやく上司と面談する機会が設定されてね。姉は上司に対して妊婦さんでもできる業務を列挙して、業務軽減を求めたそうよ。でも、その上司と日ごろから人間関係がうまくいってなかったこともあったのか、結局、業務軽減の措置を取ってもらえなかったのよ。

B子:それひどいわね、お腹が大きいのに、そのまま体力を仕事やらされたの?

A子:姉は体調が悪いときは負担の大きい業務は同僚に交代してもらうとか、何とか自主的に対応していたのよ。

B子:それで、会社側は最後まで何も業務軽減の措置を取らなかったの?

A子:うちの姉もさすがにつらくなって、妊娠を報告してから4カ月目に会社の本部に直接訴えたらしいのよ。そしたらようやく、会社側が勤務時間の短縮とかの業務軽減措置を取ってくれたのよ。

会社は「何もしなかった」だけでも、マタハラになる

B子:結局、会社側は妊娠報告から4カ月目まで業務軽減の措置を取ってくれなかったわけね。

A子:そうなのよ。姉はその間、とてもつらい思いをしたので会社に対して何か文句を言えないのかなって思ってね。

B子:言えるわよ。それは一種のマタハラ(マタニティハラスメント)ね。

A子:会社側は4カ月間何もしてくれなかったんだけど、そのこと自体がマタハラになるのかしら?

B子:なるわよ、そういうのは「就業環境整備義務違反」って言うのよ。

A子:「就業環境整備義務違反」?それってどういうことなのかしら?

B子:会社は雇用契約にともなう義務として、妊娠した社員の健康に配慮する義務を負っているのよ。こういうのを就業環境整備義務っていうの。それなのに、妊娠の報告を受けても業務を軽減するなどのきちんとした対応を取らなかったことは、労働契約上の就業環境整備義務に違反したものと言えるわよ(福岡地方裁判所小倉支部平成28年4月19日判決を簡略化しています)。

A子:なるほど。会社はもとから妊娠した社員に対してそういう義務を負っているから、何も対応しないということ自体が義務違反なのね。

B子:そのとおりよ。ちなみに最近、男女雇用機会均等法の改正で企業にはマタハラ防止措置が義務付けられたのよ(男女雇用機会均等法11条の2)。

A子:さすが、B子さん、勉強になるわ。

B子:A子さんも将来、妊娠したときに備えて覚えておくといいわよ。

A子:私の場合は、まずは乱脈を極める男関係を清算しないと結婚もできないわよ。

B子:A子さん、がんばってね(汗)。

■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
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