有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」3話。誰かに気にかけられる、その瞬間があることが幸せ

有村架純主演のドラマ「姉ちゃんの恋人」。有村演じる安藤桃子は、高校3年生の時に事故で両親を亡くし、3人の弟たちを養っている一家の大黒柱。桃子は職場のホームセンターで真人(林遣都)と出会い、日常が大きく変わっていきます。過去に大きな傷があるらしい真人に恋をした桃子。恋心を自覚しながらも一緒の仕事が終わってしまい、なかなか会えない日が続きます。二人の恋は進展するのでしょうか。

コンビニ横、親友二人のシーンの絶妙

安達桃子(有村架純)がリーダーとなって進んでいたクリスマスの飾り替えプロジェクト。ハロウィンの夜、全員総出で朝までかかって無事、ほんもののもみの木の飾り付けが完成する。朝方、一緒に帰る桃子と吉岡真人(林遣都)。ファミレスのモーニングでお互いの働きを称え合う。プロジェクトが終わってしまってからというもの真人に会えない日が続き、桃子は自覚した恋心をもてあましてもやもやとした日々を過ごす。

親友みゆき(奈緒)との恒例のコンビニ横でのおしゃべりで、桃子は自分の気持ちをみゆきに話す。真人が好きなこと、真人も自分を嫌ってはいないようであること、けれども一緒に帰った日、別れ際の「また」に「仕事場で偶然会ったら」の意味しか込めていなかったように聞こえたこと。真人のに気づき、それを気にしながらも、そこに惹かれている桃子。

桃子「何かを諦めてる感じがするんだよね」
みゆき「何かって?」
桃子「幸せになること」

このシーン、とにかくこの環境と、二人の服装が絶妙。全国チェーンではなさそうなコンビニの傍ら。色合わせもゴチャゴチャな、どこで買ったのかよくわからない(とくに桃子の服はたぶん近所か、あるいは働いているホームセンターで買ったのかもしれない)格好。そして昼間っからストロングのロング缶。そこで交わされる、どこにでもあるような恋バナに見えて、とても細やかな会話。話し始める前のみゆきの一言が丁寧だ。「ちょっともろもろキツいんだけど、まだ言いたいわけではない」から、桃子の話を聞くのにちょうどいい状態だ、というこの一言で、二人の信頼関係がこちらにも伝わってくる。

真人を絶望から救う桃子のメッセージ

なかなか真人と会えずに落ち込む桃子に、先輩・日南子(小池栄子)が声をかける。配送部の悟志(藤木直人)と出会って恋に落ちた日南子は、桃子と真人とのダブルデートを提案する。桃子と日南子は二人でキャッキャとメッセージを送って、返信を待つ。

このシーンで描かれているのは、文章にするととても陳腐だけれど、人はそれぞれ、同じ時間にさまざまな出来事に遭遇し、それぞれ違う感情を抱いて過ごしているということだ。桃子と日南子は、久しぶりの恋に浮き足立っている。ダブルデートという楽しい予定に思いを馳せ、ドキドキしている。その同じ時間に真人は、過去のつらい出来事を思い出し、拳を握りしめている。

一緒にいない時間に、「あの人は今何をしているのだろう」「何を思っているのだろう」と考えることは、恋のはじまりなのかもしれない。桃子の強引な明るいメッセージが、過去を思い出して震える真人を絶望の淵から少しだけ救った。初めて桃子に絵文字を送るまでに、真人は気持ちを取り戻した。

この作品の魅力は、ここで描かれるのが恋だけで終わらないことだ。過去にとらわれる真人と前向きな桃子との恋愛を中心に据えつつも、日々仕事場で時間をともにしている同僚に対する眼差しも並列に描かれている。1話で語られた「捨てられた椅子に座る」という日南子と桃子の同僚・臼井(スミマサノリ)の趣味。2話では日南子が悟志とバーで出会い、話をはずませるきっかけにもなっていた。今回は、真人からの返信を待つ桃子と日南子が窓から見える歩道に捨てられた椅子を見つけ、臼井に連絡する。そして臼井がまさに捨てられた椅子に座って写真を撮る瞬間を、彼には気付かれないままに見守る。それぞれに違う時間を過ごしている人々が一瞬交わる世界。その孤独と、人が出会い、思い合うことの奇跡。誰かが自分のことを気にかけている瞬間があると知ることは、幸せのひとつの形なんじゃないだろうか。

3話では他にも、真人の母・貴子(和久井映見)が桃子と遭遇したり、桃子のいちばん上の弟・和輝(髙橋海人)の「初恋の人」がみゆきだとわかったり、悟志が突然休む日があることが判明したりと、さまざまな進展があった。2話で妄想のように流れた「肩を寄せ合う二人」のシーンは現実になったのだから、こんなふうにいいことだけ現実になっていけばいいけれど、そうもいかないだろうか。

次回はこちら:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」4話「年を重ねたことを劣化とかいいやがって、冗談じゃないから」

■「姉ちゃんの恋人」

1:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」1話。コロナ禍の今と似ている!2020年の私たちのささやかな幸せ

2:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」2話。家族だからこその気持ちと反対の会話

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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