最終話「科捜研の女」凍りつくマリコの怖い目、不死身の土門が「どもマリ」の信頼関係を強固に

沢口靖子主演「科捜研の女」第20弾がスタート。1999年に始まり、今回また現行連ドラ最多シリーズの記録を更新しました。沢口靖子演じる榊マリコは科学を武器に、凶悪かつハイテク化する犯罪に立ち向かう法医研究員。いよいよ最終回。どもマリの絆はやっぱり強固だった!?

12月17日放送「科捜研の女」(テレビ朝日 木曜夜8時)の第9話、Season20最終話は、科捜研メンバーのリモート会議という見慣れてないようで少し見覚えのある画面からスタートした。本編としては新機軸だが、ルヴァンCMのおかげでリモート会議には既視感がある。
ルヴァンの匂いに引きずられてほのぼのした気持ちになりかけたものの、土門薫(内藤剛志)がログインした途端、それどころじゃないと温度がいきなり変わった。

土門の危機を知ったマリコの目が怖い

あまり「どもマリ」と騒ぎ立て、2人の関係性を囃すのもどうだろう? と思ったこともあった。しかし、どもマリの絆はやっぱり特別だ。それを強く印象づける最終話だった。

はっきり言って、土門は不死身である。電車に轢かれたのに生きて帰ってきたことさえあるくらい。囚われの身でリモート会議に参加した彼を見ても「ああ、大丈夫。平気、平気」と思う程度に筆者の神経は麻痺していた。
しかし、彼が何らかの事件に巻き込まれているとわかった瞬間から、榊マリコ(沢口靖子)の目がすごく怖いのだ。でも、熱くなっているわけじゃない。むしろ、その逆だ。人間らしさがなくなり、凍りつく目つきに変わった。冷たい炎と表現するべきか? ついでに言えば、土門と一緒に安在志津枝(南野陽子)が監禁されているとわかった瞬間、ムッとした彼女の表情の変化も見逃せなかった。こうして、マリコはいつものテンションではなくなっていく。

「私たちにできるのは、犯人や本当の監禁場所を探すこと。絶対、見つけてみせる……!」(マリコ)
こんなマリコは久々だ。体温は低いまま、言葉に強い力がこもっている。マリコが「絶対」と言うと、絶対そうなりそうな説得力もある。

土門も同じことを思っているらしい。土門と志津枝の居場所を特定するため、マリコは風丘早月(若村麻由美)にパソコン越しの“リモート検視”を依頼した。
「解剖は資格が必要ですが、体表所見や解剖ギリギリのことならできるはずです」(マリコ)
志津枝に、風丘の指示に従って監禁場所にある坂西敏也(山本道俊)の遺体を調べろと言い出したマリコ。マリコは平然としているが、なかなかなことをさせようとしているな……。

志津枝 「この人、なんかすっごい怖いこと言ってる……」
土門 「榊のしつこさは人間離れしてるからな(笑)。それでも、答えにたどり着くまでは絶対に諦めない。観念したほうがいい」

土門から散々な言われようのマリコ。とは言え、マリコを信頼する土門のノロケにも聴こえてしまうから2人の関係性は一筋縄ではいかない。あと、土門も無意識に「絶対」の2文字を口にしていた。危機的状況にいると、どもマリはいつも以上に以心伝心だ。

ただ、少しマリコが冷静さを欠いているか? 「絶対」と口にした彼女の激情に、足元をすくわれかねない不安を感じたのも事実。

風丘 「気負いすぎない。無理しない! 土門さんが監禁されてるからいつもより事件にのめり込んじゃうかもしれないから、忠告!」
マリコ 「そんな、私は……」
風丘 「土門さんは、絶対に無事に見つかる! もちろん、私はそれを願ってる。でも、一番それを信じてるのは……土門さん本人。さっきも言ってたじゃない。『榊のしつこさは人間離れしてるからな。それでも答えにたどり着くまでは絶対に諦めない』。土門さんはマリコさんを100%信じてる! だから、いつものマリコさんで頑張って。肩、凝りすぎだから」

マリコの“絶対”を信じる土門と、“いつもの”マリコを信じる風丘。風丘とのやり取りで、本当に“いつもの”マリコに戻ったのがはっきりとわかった。何て神展開だろうか。

誰にも崩せないどもマリの信頼関係

リモート中に志津枝に襲われた土門。ようやく監禁場所を突き止めたマリコらが足を踏み入れると志津枝は死んでおり、土門の手は血だらけだった。土門が志津枝を殺した、そう思われてもおかしくない状況だ。しかし、土門は冷静だった。

土門 「お前なら必ず答えが出せる。榊、俺を鑑定しろ!」
マリコ 「わかった。必ず、真相を見つけてみせるわ」

マリコに全てを委ねた土門。このやり取りにおいて、土門→マリコの信頼感はわかりやすい。一方、マリコは「必ず、土門さんの無実を証明するわ」ではなく「必ず、真相を見つけてみせるわ」と言い切った。マリコは土門が志津枝を殺したと微塵も思っていない。「真相=土門は無実」という方程式が最初からでき上がっている。だから、当たり前のように「真相を見つける」と言ったのだ。土門以上にマリコの感情がこぼれ落ちる会話に聴こえた。
真相へ辿り着こうとするマリコの熱い心。そして、疑うに十分な状況証拠を前に土門を信頼したマリコの冷静な心。どもマリの信頼関係が窺える、かなり印象的な反応だったと思う。

しかし、執拗に土門を疑う者もいる。監察官の中塚弘文(長谷川初範)は、襲いに来た志津枝を土門がナイフで過剰防衛したと推測するのだ。
「自分がやっていないことは自分が1番わかっている。なおかつ、榊たちがそれを信じてくれてる以上、必ず答えにたどり着くはずだ」(土門)

中塚の堅いガードをくぐり抜けた科捜研は、取り調べ中の土門の元へマリコを送り込んだ。「土門が坂西を殺した可能性がある」と嘘の理由を伝え、中塚の許可を取り付けたのだ。
「それっぽい理由をよくでっち上げたもんだ。監察官の目は節穴じゃない。お前と俺の関係も、当然把握してる」(土門)

「お前と俺の関係」って何!? いちいち言い方がセクシーだ。でも、本当に周りは2人をどう見ているのだろう? 信頼し合う同僚なのか、それ以上の関係なのか。屋上でしょっちゅうイチャついてるし、京都府警で2人は評判になっていると思うのだけど……。
まあ、土門が言ったのはそんな話じゃないと思う。「土門さんの無実を証明する!」と奮闘するマリコと、そんなマリコを信じて託した土門。どもマリの信頼関係がすごくいい。

それは信頼関係ではなく、呪いの言葉だ

真犯人は、京都府警が導入を予定するウェブ会議システムの開発会社・営業担当の椎木智里(佐藤玲)だった。

12年前、投資詐欺事件の被害に遭った椎木の父・佐山芳正(や乃えいじ)は事件の首謀者・檀野昭伸(ハリウッドザコシショウ)を襲おうとし、それを阻止したのが土門だった。そして、佐山は拘置所で自殺した。また、志津枝には詐欺グループを手伝っている時期があった。
すい臓がんで余命6カ月だった志津枝は、自分の計画に協力してほしいと智里の元を訪れる。「自らの命を智里の復讐に使ってほしい」と依頼したのだ。2人は監禁部屋で土門を気絶させ、その間に智里が持つナイフに志津枝は自らの腹を刺した。土門に罪を着せる偽装工作を決行したのだ。

志津枝 「お父さんの仇、取りたいんでしょ!?」
智里 「でも……」
志津枝 「迷ってる暇ないはずよ。さあ!」

こうして、自らの命を絶った志津枝。本人は贖罪のつもりかもしれない。でも、全てが判明した今、智里は殺人者になってしまった。結局のところ、命が短いと悟った志津枝が智里を巻き込んで復讐を焚き付けただけの話である。つらい過去を乗り越え、IT会社で働きながら前向きな人生を送っていた詐欺被害者の娘を志津枝は操った。これが贖罪になるはずがない。「罪を償えた」と志津枝は満足しても、智里はこれからも生きていく。決して、佐山はこんなことを望んではいなかったはずだ。残される者が幸せにならなければ、それは贖罪にはならない。

マリコ 「彼女のしたことは決して許されることじゃない」
智里 「そんな! 私にとって志津枝さんは……」
マリコ 「彼女がしたことで最も許せないことは何だかわかりますか? 誰かを恨むことや憎むことを選ばず、無垢に生きてきたあなたに罪を犯させてしまったことです。そんな命の使い道は間違ってる!」

息を引き取る寸前、志津枝は「私の命をちゃんと使ってね」と言い残した。「最後までやり遂げろ」と、呪いの言葉を掛けていたのだ。志津枝と智里の間にあったのは信頼関係ではない。当人たちはそう思っていたかもしれないが、そうではなかった。

土門 「因果な商売だ。これまで色んな奴の死を見てきた。だが、命の使い道なんてことを考えさせる奴は初めてだった。もし、自分がその立場になったらどうするのか、つい考えちまう」
マリコ 「何度も死にそうになっても蘇る土門さんでもわからないんだ」
土門 「俺のこと、ゾンビか何かだと思ってんのか?」
マリコ 「フフフ……。私は、人の命の使い道は本人が決めるんじゃなくて、その人が生きている間に一緒に過ごした人や時間が答えを出してくれるもの……そんな気がするわ」
土門 「それがお前の答えか。榊らしいな」

まっすぐな言葉を口にするマリコ。もう、いつものマリコだ。一方、「俺のこと、ゾンビだと思ってんのか?」と笑った土門。でも、実際にゾンビ並みに不死身である。いつもまっすぐなマリコと、いつも不死身のゾンビ土門。およそ年1ペースで命の危機にさらされる彼の運命を、科捜研ファンは「死ぬ死ぬ詐欺」と呼ぶ。でも、この詐欺の落ち着く先はいつも果てしなく前向きだ。
マリコは土門の無事を信じていた。命の使い道は本人が決めるのではなく、一緒に過ごした人が答えを出してくれるもの。難しいテーマを取り上げた、いい最終話だったと思う。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
福井県出身。平成生まれ。キモ癒しイラストレーター&YouTuber。 YouTubeチャンネル「ワレワレハフーフーズ」
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