有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」8話。不意の悪意を乗り越えるための「幸せ」の確認

有村架純主演のドラマ「姉ちゃんの恋人」。真人の過去全てを話し、恋人同士になった桃子(有村架純)と真人(林遣都)。幸せの絶頂の二人の前に、過去の事件で別れたままの元恋人が姿を現します。二人のこれからはどうなってしまうのでしょうか。

しつこいくらい確認される「幸せ」

元彼女・香里(小林涼子)と遭遇した真人(林遣都)。真人は一緒にいた桃子(有村架純)に同席を頼み、事件の日以来久しぶりに香里と話す。真人は香里に「いま、幸せ?」「幸せでいて欲しい、いてくれないと」「競争だね、どっちが幸せに生きてるか」と言葉をかける。

真人が罪を犯すきっかけとなった彼女との再会。真人と桃子にとって最大のピンチが到来したかと思いきや、香里は自分を守るために嘘の証言をしたことを悔いていた。あっけないくらいに過去の傷は洗い流された。

「なんか幸せ、幸せってちょっと重いね、俺」「ちょっとうざいね、幸せ、幸せって」と真人に言わせてまで、何度も何度も繰り返し「幸せ」のことについて確認するようなシーンから始まった8話。この1時間、全編にわたって登場人物たちが自分の幸せを確認し合う。

会社が潰れて転職活動に勤しむみゆき(奈緒)は、誰にも必要とされていないと感じる日々の中で和輝(髙橋海人)の存在に幸せを感じている。改めて桃子と二人で会った真人の母・貴子(和久井映見)は、真人の父について桃子に伝え、ほかにもいろんな話をした。それを振り返って桃子のおじ・菊雄(光石研)や弁当屋の店長・藤吉(やついいちろう)に向かって「私、幸せだなあって思った」としみじみと言う。

とくに今回、桃子は話を受け止める時間が長い。たとえば冒頭、香里に語りかける真人の横で、桃子は無言で話を聞きながら真人の震える右手に視線を落とす。真人は事件以降、事件を思い出すと右手が震えるという描写がこれまでも何度かあった。そのことに桃子は気づいている。そして香里に思いを伝えられた後、真人の右手の震えが止まっているのを目だけで確認もする。

貴子と二人で話すシーンでは、貴子がこれまで一人で抱え続けてきた重荷を受け止めるように、涙目で貴子を見つめる。

桃子は弟や同僚の前では屈託のない女の子に見えるけれど、これまでもきっとこうして静かにいろんなことを受け止め、乗り越えてきたのだろう。そう感じさせる有村架純の受け方。主役でありながら、彼女は今回、終始地味で味わい深い演技を見せた。

すぐそばにある悪意

「幸せ」の言葉を使わないまでも、「幸せ」に関する描写はまだまだある。ある日の桃子たちの朝ごはん。3人の弟たちと桃子が吉岡さんの食の好みや桃子と和輝ののろけ、真人とみゆきを招待するクリスマスパーティーの献立について話し合う日常のシーンがやや長めに描かれている。
日南子(小池栄子)が悟志(藤木直人)に抱きしめられたことを反芻しているうちに関係のないフロアまで行ってしまうシーンも幸せのひとつの形だろう。
このドラマはこういう小さくてコミカルな幸せの時間を1話から重ねてきたし、そういうことが人々の日々を助けると伝えてきた。

にしても、脚本の岡田惠和はどうしてここまでしつこく幸せを描き続けたのか。それはこの回終盤、真に最大のピンチが桃子と真人の二人に訪れるからだろう。

桃子と真人が桃子宅のクリスマスパーティーに向かう途中、河川敷でたまたま足がひっかかってしまった輩に因縁をつけられ、殴りかかられる。真人が罪を犯した過去と同じシチュエーションだ。そのシーンに弟のナレーションが重なる。

《この世界は愛だけで成り立ってるわけじゃないし、いい人だけしかいないわけじゃない。一歩道を曲がればそこには得体の知れない悪意とか暴力とかがあって。それはきっとなくなることはなくて》

このドラマにはとにかくいい人ばかりが出てきていた。真人は暗い過去を抱え、桃子も両親を亡くして3人の弟の面倒を見るというたいへんな状況だけれど、まわりの人々に恵まれて日々を過ごしている。けれど、やっぱりそれだけではなくて、彼らが生きる現実のすぐ隣に悪意が転がっている。それに対抗する手段として、彼らは幸せを確認する、噛みしめる。大切な人がいることで強くなれることを何度も思い出す。

真人は今度は仕返しをしなかった。どこまで暴力が続くかわからないなか、ただひたすら桃子を守って耐えた。香里に「幸せになることから逃げないでくれ」と頼んだ真人が、とうとう過去を乗り越えた。

8話ラスト。仕事中の悟志がフォークリフトに接触しそうになり、警備員(西川瑞)が叫ぶ姿が無音で流れる。その様子を日南子が目撃する。彼が呼びかけた言葉を聞いた日南子は悟志に関する真実を知って驚きの表情でその場を立ち去る。なんとなくそうかもね、と悟らせるシーンはいくつかあったけれど、ここではじめてはっきりと悟志のことが明かされた。でもしっかりと画面を見ていないとわからない状態にしてあるのがちょっといい。警備員の彼は1話からちょこちょこいい出方をしていたけれど、ここに来てまたいい役割を演じていたのがなんだか微笑ましい。

■「姉ちゃんの恋人」

1:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」1話。コロナ禍の今と似ている!2020年の私たちのささやかな幸せ
2:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」2話。家族だからこその気持ちと反対の会話
3:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」3話。誰かに気にかけられる、その瞬間があることが幸せ
4:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」4話「年を重ねたことを劣化とかいいやがって、冗談じゃないから」
5:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」5話。聞いてほしいこと、言えないこと。草野球シーンは林遣都の腕の見せどころ
6:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」6話。観覧車での真人の独白「うまくしゃべれない、ごめん」まで4分13秒
7:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」7話。髙橋海人、緊張と緩和が見事な「はい」

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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