『科捜研の女 -劇場版-』京都撮影所潜入記。振り返るとそこに沢口靖子がいた!
同一人物による主演、同曜日、同時間帯放送として最長記録を保持する「科捜研の女」(テレビ朝日)。1999年がスタートだから、放送開始20周年を突破した長寿作品である。
このドラマシリーズが初の映画化を果たす。『科捜研の女 -劇場版-』が9月3日に公開されるのだ。
振り返ると沢口靖子がいた
昨年12月上旬、紅葉が見ごろの京都に筆者は向かった。東映 京都撮影所にてメディアを対象とした劇場版の撮影現場見学が実施されており、そこに参加してきたのだ。
いざ、スタジオに足を踏み入れると、眼前に広がるのはずっと見ていたあの光景!
入口に「S.R.I. 科学捜査研究所」と書かれたあのセットである。これだけ歴史の長い作品だと、こちらの思い入れも海のように深い。「ここはマリコがいつも鑑定しているあの部屋!」「あれは宇佐見さんがいつも降りて来る階段!」と、視線の角度を変える度にアガるのだ。
ちなみに、セットに置いてある機材は全て本物。中には4,000万円もする計測器があったりする。リアルにここは科学の部屋だった。
そんなこんなで室内を一通り見終えたら、我々は1度退出。セット裏の暗がりで待機しようかというタイミングで、背後から声がした。
「皆様、今日はありがとうございます」
「ん?」
振り返ると、そこにいたのは沢口靖子さんだった……。いきなりマリコ! 不意をつかれたスターからのご挨拶に、軽く会釈するしかない筆者の挙動不審ぶりが情けない。正直言って、これだけで京都まで来た甲斐があった。
医学の専門家が見ても納得のクオリティを目指す
スタジオを行ったり来たりしていると、思わぬ場所に解剖室のセットがあるので驚いた。「ここが風丘先生がいつもマリコに無茶振りされている場所か……」と、思わずしみじみ。
この日は解剖シーンの撮影も行われており、風丘先生役の若村さんがメスを入れる角度や切り方を細かくレクチャーされている姿が印象的だった。実は法医学関係者の方が監修を務めているそうで、演者&スタッフ一丸で、医学のプロが見てもおかしくない解剖シーンを目指していることを初めて知った。毎回の撮影でここまでやっているのだ。只事じゃない作品なのだと再認識する。
テレビではできない劇場版ならではの挑戦
マリコ以下、科捜研メンバーが勢揃いしたこの日行われたのは、台本3ページ分を費やして各々が論を交わすワンカット長回しのシーンだ。この試みについて、中尾亜由子プロデューサーは以下のように説明してくれた。
「テレビだとわかりやすくするために細切れにし、顔のアップ多めでいかなければいけないところですが、劇場版だと画面が大きいので長回しでも成立する。テレビでなかなかできない挑戦をさせていただいています」(中尾プロデューサー)
またここが、いつも以上に科学的でマニアックな用語が飛び交う場面だった。役者陣の緊張感は見るからに高い。そんな中で際立ったのは、スタジオに響く沢口さんの声だ。正義の匂いの強い彼女の声質は、主役感漂いまくり。自分の耳で直接聴き、そんなことを今さらながら痛感した。
マリコと沢口靖子は諦めないタイプ
撮影終了後、白衣を着た沢口さんによる囲み取材が行われた。
――シリーズ20年にして初めての映画、劇場版ということなんですけど、まず率直なお気持ちをお聞かせください。
沢口: まさか、「科捜研の女」が映画でできるとは思っていませんでしたので、夢のようなお話だと喜んでおります!
――元々、東宝シンデレラ出身でいらっしゃる沢口さんにとって久しぶりの映画出演となります。昔からのファンからすると映画というホームグラウンドに戻って来てくれたという感慨があるのですが、ご自身はいかがですか?
沢口: 大きなオーディションで選んでいただき、映画でデビューさせていただいたんですが、今思いますと女優として意識がまだまだ低く、素人同然のお恥ずかしい状態だったなあと思っておりまして(笑)。全くの素人の状態で本当に無我夢中でやっていたので、「ホームグラウンドと言えるのかなあ?」という感じはするんですけども(笑)。しばらく、映画でのお仕事もご縁がなかったんですが、今回すっかり馴染んだ「科捜研の女」という作品でまた登場させていただけることになり、恵まれたチャンスをいただけたなあと思っています。
――すっかりご自分のものにされたマリコという役だと思うんですが、映画化に関して新たなアプローチやチャレンジされたことはありますか?
沢口: 表情の変化です。いつもは事件解明にまっしぐらなマリコなのですが、今回は特に長年の「科捜研の女」ファンの皆様に喜んでいただける出来事が起きます。その時々で見せる表情の変化を意識してみました。
――「科捜研の女」20年の中で様々なキャストさんとの出会いがあったと思いますが、現在の科捜研チームのチーム感をどのように受け止められていますか? また、今回のメインゲストである佐々木蔵之介さんの印象もお聞かせください。
沢口: 今の科捜研チームは、緩急両方の味を兼ね備えた息の合ったチームです。佐々木蔵之介さんは今回初めてご一緒させていただいたんですけど、迫力があって飲み込まれそうになりました(笑)。普段お会いするときは関西弁で面白い方なのですが、役に入るとグーッと迫ってくるものがありました。
――20年同じ1つの役を務めるというのはそうないことと思いますが、どういう感覚なのでしょうか? 愛着ですとか、もしくは「もしかして日常に影響を及ぼすのか?」ということを。沢口さんにとってマリコはどういう存在なのか、改めて教えてください。
沢口: 私にとってマリコは分身のようでして、かと言って私とマリコとは別人物で、脚本から生まれて皆さんに育てていただいた存在です。普段、マリコの影響を受けているなと思うことは、深く物事を分析してしまう。……フフフ。友だちと会ってるときにも、「役の影響じゃないの?」って言われたことがありますね(笑)。
――沢口さんにとってマリコの魅力はどういうところですか?
沢口: そうですね、マリコの魅力は……私の作品に向き合う原動力にもなっているんですが、いつも前向きなところと諦めない姿勢です。エジソンのように1万回失敗しても真実を見つけようとする精神ですね。
――沢口さんも諦めないタイプですか?
沢口: そうですね、はい。
――今まで、長いキャリアの中で色んな役を演じてこられて、その中でも「科捜研」は代表作の1つだと思うのですが、今回の作品は沢口さんの女優人生にとってどういうものになるでしょうか?
沢口: それはもう代表作の1つですし、この映画は私の節目になることは間違いないです。
――今後、どういう形で「科捜研の女」を発展させていければいいと考えていますか?
沢口: この20年、科学が進歩するとともに作品の内容も進化をしてきました。同時に、普遍的な人間関係など“人間”を描く。そこをうまく両立させながら作品が進化していければいいなと思います。
2021年という時代に「科捜研の女」は映画化する
「科捜研の女」は科学を扱う作品である。そして、劇場版が題材にしたのは細菌だ。脚本を作る上でコロナは意識しなかったのだろうか? この日行われた囲み取材において、中尾プロデューサーはこんなコメントを残している。
「コロナは意識していますが、安易に煽ったりしないのが、この番組の責任ではないかと思っています」(中尾プロデューサー)
一足先に試写会で劇場版を鑑賞した筆者からすると、取り扱われる科学と仕掛けられたトリックは映画館で見るべきスケールの大きさである。特に、ここ1~2年で我々の菌、ウイルスに対する意識は物凄く変わった。『科捜研の女 -劇場版-』はそういうタイミングに上映されるのだ。
【ストーリー】
京都、ロンドン、トロント……「助けて」と叫びながら高所から飛び降りたのは、全員が科学者だった。だが、犯罪に繋がる物的証拠はゼロ。各地で自殺として処理されようとしていたが、京都では榊マリコ(沢口靖子)をはじめとする科学捜査研究所のスペシャリストたちと捜査一課の土門刑事(内藤剛志)、解剖医の風丘教授(若村麻由美)らが何かがおかしいと察知し、半ば強引に捜査を進めていた。
そして、1人の男にたどりつく。帝政大学理学部生物化学科の教授・加賀野亘(佐々木蔵之介)。未知の細菌を発見し、世界中から脚光を浴びる天才科学者だ。だが、この男には鉄壁のアリバイが存在した……。
『科捜研の女 -劇場版-』