中村倫也「美食探偵」血まみれで海岸沿いをドライブする小池栄子が美しい、必見!

新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言下、軒並み注目の春ドラマの放送が延期されています。その中でも予定通りスタートした東村アキコ原作の「美食探偵 明智五郎」。御曹司であり、美食家探偵が殺人鬼の真相とハートに迫ります!第1話の夫の浮気を疑った主婦が起こした事件。美食探偵はどう解決した?
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中村倫也の見た目は「上の下」

意外にもゴールデン・プライム帯で初めてのドラマ主演となる中村倫也の役どころは、美食家の私立探偵・明智五郎。一流百貨店の御曹司で、ワインレッドのスーツにループタイをぶら下げるなんだか貴族のような男だ。

移動弁当屋の料理人で助手的存在の小林苺(小芝風花)は、明智の見た目を「上の下」と位置付けていた。原作で苺は、「顔はやたらめったら整っている」と表現していたが、ドラマで「上の下」に変えたのは、明智を持ち上げ過ぎず、「カッコいいだけじゃなくてちょっとおかしな男」とキャラ付けしたかったからだろう。原作の明智は超イケメン設定でも、東村アキコによってだいぶコミカルに描かれている。

明智五郎と対立するのは、“マグダラのマリア”を自称する女(小池栄子)。元は平凡な主婦だったが、明智に夫の浮気調査を依頼したことをきっかけに、本来の自分に気づき、殺人鬼へと変貌を遂げる。ちなみに"マグダラのマリア"になる前の本名は明かされていない。

2人は対立関係ながら、苺が入り込めない次元でお互いを理解し合っており、ある意味では恋愛関係だ。まぁ、この2人の恋愛観をキッチリ理解するのは難しいので、「ずっと寂しい思いをしていたマリアは、明智のおかげで自分を解放出来て、変な方向に行っちゃった」ぐらいの解釈でいいと思う。実際、僕もよくわかっていない。

役者で成立させる脚本

第1話は、「殺人鬼であるマグダラのマリアはどのようにして生まれたのか?」というエピソード0的なストーリーだ。

真面目なはずの夫が毎日違う食べ物の香りを漂わせて帰ってくることから、平凡な主婦(のちのマグダラのマリア)が浮気調査を明智に依頼。明智は、夫が若い女の家で毎日1時間のランチタイムを過ごしていることを突き止める。報告後、主婦が作った「鮭のムニエル」を食べ、「これからは本当のあなたを、もっと自由に解き放つべきだ」と声をかける。

しかし、この言葉が平凡な主婦を"マグダラのマリア"へと変貌させてしまう。本当の自分を解き放った主婦は、翌日、夫を殺害。明智はニュースを見て主婦の犯行だと気付き、主婦を高級フレンチレストランへとデートに誘った。

殺人鬼をデートに誘う明智の行動は、本来ならなかなかに理解不能だ。しかし、ワインレッドのスーツを着こなし、キザな立ち振る舞いをする中村倫也がやるとすんなり飲み込める。さっきまで地味な主婦だったくせに、血まみれの服で海岸沿いをドライブして美しく見せる小池栄子もさすが。ここら辺は、役者の力もあって成立する脚本といった感じだ。

崖で正論なんて吐くからそうなる!

「夫婦にとって、セックスと食事はどっちが大切なのかしら?」

実のところ、殺された夫は浮気なんかしていなかった。ただ、料理人を目指す若い女の料理を応援し、毎日試食しているだけだった。しかし、主婦にとってそんな事実はどうもでいいことだった。主婦とはいつも同じメニューの味気ない食事しかしていなかったのに、他の女とは様々なスパイスを使った料理を食べることを、主婦は浮気と定義した。

主婦は、いずれはしなくなるセックスよりも、死ぬまでする食事を他の女と楽しんだことが許せなかったのだ。そして、そんなセックスよりも大事な食について、誰よりも理解してくれた明智に特別な思いが生まれたのだ。

この感情は、一般的にはなかなか理解ができない。崖の上で思いつめた主婦を説得するシーンでは、苺が「旦那さんのこと許せない気持ちはすっごいよくわかるし、人生はいくらでもやりなおせます!」と一般的には良い感じのセリフを叫びあげる。

しかし、そんな言葉が主婦に届かないことを明智は知っている。「黙れー!」と一蹴し、その後崖から落ちそうになる苺に、「崖で正論なんて吐くからそうなる!」ととんでもないセリフを浴びせて助けもしない。追い込まれた人間や、何かを悟ってしまった人間に一般論は通じないことを知っているのだ。明智と主婦は、この時点で苺ら一般的な価値観の持ち主には理解できない次元で分かり合っていた。シチュエーションがサスペンスでベタとされている崖なのも、おかしなことになっている2人を強調したかったからだろう。

第2話からはちゃんと推理シーンも

「美食探偵 明智五郎」は、その名の通り探偵ものだ。ドラマの第1話と言えば、説明書になるよう作品のわかりやすく面白い部分を詰め込みたいところだが、魅力のひとつであるグルメ知識を生かした推理シーンはかなり控えめだった。原作通りとはいえ、なかなかに攻めた仕上がりだったと言える。

第2話からはもうちょっと探偵らしいシーンが増えるだろうし、もしかしたら少し作品全体の雰囲気が変わるかもしれない。シリアスでキザで「上の上」な中村倫也と、コミカルで変人な「上の下」の中村倫也を楽しみたい。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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