中村倫也と武田真治がバッチバチの「美食探偵」3話 本当に狂っていたのは誰だ!?

新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言下、予定通りスタートした東村アキコ原作の「美食探偵 明智五郎」。御曹司であり、美食家探偵が殺人鬼の真相とハートに迫ります!第3話は、フランス帰りのシェフ・伊藤(武田真治)の話。黒幕"マグダラのマリア"(小池栄子)との関係は?

「この街の人間は狂ってる……」

フランス帰りのシェフ・伊藤(武田真治)は、日本の美食事情を嘆いていた。しかし、本当はどっちが狂っていたのかな、どっちもだったのかな? それとも……? 「美食探偵 明智五郎」第3話は、そんなお話。

被害者は、"なんとなく力を持ってしまった男"

激安立ち食いフレンチレストラン『めっちゃフレンチ』に押されて、伊藤の『メゾン・ヴェリテ』は窮地に立たされていた。そんななか、グルメレビューサイト『食べリポ』内で名の知れたレビュアー・ぐるめ大名(中村靖日)が『メゾン・ヴェリテ』を訪れる。伊藤は精一杯の料理を提供するも、ぐるめ大名は伊藤の料理を「フツー。というか古い」「立ち食いフレンチの方が全然マシ」「再訪はナシ。二度と行きません」とこき下ろした。

SNSでたまたまフォロワーを手に入れてしまった人間が、自分に正義があると勘違いし、無責任な発言をしてしまうことは、業界を問わずよくあることだ。本当に博識なわけでもなく、ただなんとなく、勢いがついただけなのに、人々に大きな影響を与えてしまう。『メゾン・ヴェリテ』は、翌日2組のキャンセル客を出してしまう。

こうしてドラマで丁寧に描写されると、発信したぐるめ大名の愚かさももちろんだが、それに踊らされる側の人間もだいぶ浅はかであることがよくわかる。ネットや口コミなど、あいまいな情報には本当に気を付けたい。知らず知らずに絶対やっちゃってるから。

ちゃんと刑事だ上遠野警部!

後日、『メゾン・ヴェリテ』でグルメ大名がパンを喉に詰まらせて死んでしまう。伊藤がぐるめ大名に必死に水を飲ませようとしていたという目撃証言と、日本では食べ物を喉に詰まらせて死ぬケースが少なくないことから、警察は事故として処理した。事件の黒幕である"マグダラのマリア"(小池栄子)の思惑通りだ。しかし、詰まったパン・ド・カンパーニュは、通常小さく切って提供されることから明智五郎(中村倫也)が疑惑を抱く。美食家ならではの視点で事件に切り込んだ。

「あー嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ! こうやって地味な事件が埋もれて行くんじゃ!」

一方、上遠野警部(北村有起哉)は、普通の会社員であるぐるめ大名が、平日のランチに3500円のコースを選んでいたことを不審に思う。上からの指示に従わず、独自に捜査を続けた。普段はおちゃらけている上遠野が、しっかりと刑事をやっていることが嬉しい。しかも、かなりの熱血タイプだ。この分だと、上遠野警部が活躍する回も期待できそうだ。

殺しの動機は、料理へのプライドじゃない?

伊藤の料理人としてのプライドが起こした事件に見えるが、少し違った捉え方もできる。確かにぐるめ大名はネット社会に置ける悪だが、実のところ伊藤は自分の意志で殺人をしていなかったのではないだろうか。事故だとしても人が死んだ店に客がよりつくわけはないし、本当に料理や自分の店を大切に思っていたら、別の場所で殺しをしていたはずだからだ。

"マグダラのマリア"と伊藤の接点は、13年前のパリだった。当時のマリアは、まだ殺人鬼として覚醒前で、普通のどこにでもいる主婦だった。それでも修行中だった伊藤は、マリアに心を奪われる。日本に帰っても、マリアに褒められた古典的なフランス料理『ロッシーニ』(牛フィレ肉のフォワグラ乗せ)を、日本人の舌に合わせることなく作り続けていた。

そんなマリアとの大切な思い出であるロッシーニを、あろうことか「立ち食いフレンチの方が全然マシ」とこき下ろされたのだから激昂して当然だ。普段から感じていた日本の美食事情へのわだかまりも重ねて、伊藤は、マリアに言われるがまま、自分の店でぐるめ大名を殺害した。

伊藤は、「誰かにこの料理の味を否定されたら?」と明智にカマをかけられた際、「殺します。例えば、自家製のパンを口に押し込んで」と正直に答えてしまった。事故に見せかけて誤魔化そうとしていたのに。

少しずつマリアに狂う明智

匿名のぐるめ大名を特定した方法、まるで事件全体をなぞらえるような"見せかけ"を利用したトリック、殺しの美学が詰まった少々不確かな殺し方、後ろにマリアがいること、すべてを明智に見透かされた伊藤は、「俺はマリアのしもべだ」と胸を張った。伊藤は、マリアに狂っていたのだ。伊藤は、料理の味を否定されたのではなく、マリアを否定されたように感じていたのではないか。

今回も明智は、「証拠不十分」として伊藤を警察に突き出さなかった。しかし、ハッキリと自供しているのだから、伊藤を逮捕することはできたはずだ。

「彼女(マリア)に出会って、あなたの中で未知のあなたが生まれたんじゃないですか? よくわかりますよ。まさにこの僕がそうだから」

そんな伊藤のセリフのように、明智も少しずつマリアに狂い始めている。探偵が犯人を追い詰める緊張感バッチバッチのシーンは、いつのまにか一人の女を取り合うケンカみたいになってしまっていた。

今夜放送の第4話では、姑による"キッチンハラスメント"に苦しむみどりを仲里依紗が演じる。予告動画の短い時間でも、仲里依紗が「ストレスで苦しむ主婦」にハマっているのが十分に伝わってきた。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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