中村倫也「美食探偵」第4話 幸せなはずなのに不幸がよく似合う仲里依紗

新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言下、予定通りスタートした東村アキコ原作の「美食探偵 明智五郎」。御曹司であり、美食家探偵が殺人鬼の真相とハートに迫ります!第4話は、キッチンハラスメントに悩む主婦・みどり(仲里依沙)が主人公。夫からおふくろの味を押しつけられたみどりが出した答えとは?

“キッチンハラスメント”とは、キッチンにまつわるあらゆることで相手に精神的苦痛を与えるハラスメント。「美食探偵 明智五郎」第4話では、”おふくろの味付け”の押し付けに苦しむ主婦・みどりを仲里依紗が演じた。SNSで仲睦まじい夫婦生活を発信し続けているキラキラ主婦なのに、仲里依紗は不幸な主婦役が本当に似合う。

 

なぜみどりではなく、夫から離婚を切り出したのか?

まるでショールームのCMのように爽やかなキッチンのシーンから始まった第4話。色鮮やかな食材たちを真っ白な冷蔵庫にキレイに並べ、みどりは満面の笑みを浮かべている。しかし、それはただの願望にすぎず、実際は夫の母親から送られてくる茶色い手料理が大きな冷蔵庫を埋め尽くしていた。

みどりの悩みは、姑が料理を大量に送ってくることと、夫・和弘(落合モトキ)が、”おふくろの味”を押し付けてくることだ。自分で料理を作りたいみどりにたいして、マザコン気味の和弘は、いかに自分の母親の手料理が素晴らしいかを語る。みどりが「もう嫌!」と料理をぶちまけてしまうと、和弘はみどりを殴り、落ちた料理を食べろと強要した。ここらへんはキッチンハラスメントではなく、完全にDVの領域だ。

「離婚だ。もううんざりなんだよ。頼む、離婚してくれ」

驚いたのは、みどりではなく、和弘から離婚を切り出したことだ。みどりが冷蔵庫の食材を捨ててしまったことがきっかけとなった上記の発言だが、「うんざり」ということは前から離婚を考えていたということになる。和弘は自分のキッチンハラスメントに無自覚で、みどりの行動が信じられなかったのだろう。なんでこんなに美味しくて健康的な食べ物が嫌なんだと。

後のシーンでは、明智が助手の苺(小芝風花)から姑の料理がキッチンハラスメントに当たると聞き、意表を突かれた表情が描かれている。目線によって何が悪で、何が悪じゃないかは全く別だったりする。みどりの目線では最低のDV夫の和弘だったが、和弘としてもそれなりのストレスを抱いていたのかもしれない。

大好きな母親の手料理をみどりに否定されたからなのか、単なる仕事の八つ当たりなのか、それとも描写されていない別の何かが理由の離婚発言なのかはわからない。少なくとも和弘が料理好きなみどりの気持ちを思いやっていればマシだったのは間違いないが、それだけで夫婦仲が破綻しなかったとも言い切れない。視聴者はもちろん、当事者のみどりにさえも知りえない和弘の”言い分”が、今回の事件の悲しみを増している。

「誰かにとっての善意が、誰かにとっての善意とは限らない。だがそれを悪意と受け取るのはどうかなぁ」

後に明智はこんなことを言っていた。

 

みどりとマリアの共通点

追い詰められたみどりを焚きつけたのは、マリア(小池栄子)だった。マリアは、ネットで愚痴をこぼしていたみどりを見つけ、相談に乗っていた。ネットでいちいち人を殺しそうな人間を探しだすなんて、派手な見た目に反してかなりマメだ。

「あらま、もう殺しちゃったの?」

しかし、マリアの予定とは違ったようで、勢い余ったみどりは早々に和弘を殺してしまう。思えば、マリアも夫からいつも同じメニューを作らされるキッチンハラスメントを受けていた。みどりは「この包丁でお料理いっぱいしたかったのに」と嘆いていたが、マリアも1話で「新婚のときにドイツ製の包丁を買ったけど、一度も使っていない」と似たようなことを言っていた。

似た境遇もあいまって、マリアの洗脳がみどりには刺さり過ぎたのかもしれない。驚きながらもマリアは、なんだか嬉しそうだった。

 

人間解体シーンが長くて生々しい

和弘を殺してしまったみどりの元に、マリアによって殺人シェフの伊藤(武田真治)が送り込まれる。ここから和弘の解体が始まるのだが、これがなんとも生々しい。切られる肉の音も恐ろしいのだが、45分の放送に何度も差し込まれる解体シーンが、実際に人間を解体するのに時間がかかることを示している。白いTシャツに飛び散る画的なグロさに加えて、時間の経過を描写することで、解体シーンをよりリアルなものにしている。

血だらけのまま休憩する伊藤は、”人間を解体する気持ち悪さ”ではなく”肉体的な疲労”を苦にしていることが描写されていた。すでに伊藤は、一般的な価値観を失ってしまっているのだ。また、みどりも自分の夫を解体することに慣れかけていた。マリアの美学が2人を支配しているのがよくわかるシーンだ。

 

いつかあなたを明智五郎の目の前で殺す

今回の明智は、和宏が同窓会を無断欠席したことに疑問を思い、周辺を嗅ぎまわって事件にたどりついた。幼いころから美食に囲まれてきた明智が、高校時代に和宏の母親の弁当を食べておふくろの味に初めて触れる過去も明かされた。また、友人を殺され、助手の苺も拉致され危険にさらしてしまったことなどから、いつもの余裕たっぷりの明智とは少し違った表情も見せていた。

一方のマリアは、苺に「いつかあなたを明智五郎の目の前で殺す。それが嫌なら彼と私の前から離れて」とパソコン越しで宣言。殺人鬼と探偵という間柄でありながら、明智への思いを明確にしていく。一般的な恋愛とは程遠いが、お互いのことを思う時間という意味では、より距離が近づいたような形だ。

今夜放送の第5話では、学校でイジメを受けている上遠野警部(北村有起哉)の娘・小春(横溝菜帆)がマリアのターゲットに。給食での集団毒殺計画が画策される。上遠野警部のカッコいいシーンに期待したい。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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