「M 愛すべき人がいて」田中みな実の狂気を見ないと“許さな~~~い!”3話まで配信中

女優としてもノリに乗っている田中みな実の『M 愛すべき人がいて』の演技が話題です。レコード会社の専務・マサをアユに取られないために嫌がらせし放題!そんな田中みな実の演技にハマッてしまったあなたにオススメしたいもうひとつのドラマとは?
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狂気を感じるほど男を愛する女・田中みな実

姫野礼香「私の大切なもの奪わないでね。そんなことしたら私、許さな~~~い!」

フリーアナウンサー・田中みな実が、今期も女優として大活躍している。4月18日(土)に放送がスタートした土曜ナイトドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系・ABEMA)。ノンフィクション作家・小松成美が歌手・浜崎あゆみの半生をもとに執筆したフィクション小説(幻冬舎)に、さらにオリジナルのフィクション要素を加えたドラマだ。

『M 愛すべき人がいて』小松成美/幻冬舎

フィクションにフィクションを重ねているため、「純粋に浜崎あゆみの半生を描いたドラマ」というよりは「歌手・アユを漢気でトップスターに押し上げた俺・マサの物語」という方向の脚色が色濃く出ている。そのせいか、アユ(安斉かれん)側の登場人物(祖母やライバルたち)よりも、レコード会社「A VICTORY」の専務・マサ(三浦翔平)側の登場人物たちのキャラクターがかなり濃く浮世離れしている。

特に、田中みな実が演じるマサの秘書・姫野礼香は、右目に木と皮紐でできた眼帯をしており見た目のインパクトが強い。マサが所属アーティストのアユに入れ込んでいくことが気に入らず、アユのライバルや事務所の社長らをけしかけてはアユに怪我を負わせたり、芸能界にいられないようにしようとしたりと、やりたい放題に嫌がらせをする。秘書の仕事として大丈夫なのか。

礼香の話の中で、マサには妻がいることが明かされている。しかし、その妻は一度も登場せずに第3話で離婚した(それも礼香が言っていた)。安定的なパートナーは知らぬ間にいなくなり、「狂気を感じるほど俺を愛する女(礼香)」と「俺が人生をかけて入れ込んだ女(アユ)」、そして「俺の才能を求める女たち」しか出てこないのも、このドラマがアユではなくマサのストーリーであることを物語っている。

水野美紀「ここにいるよ~!」田中みな実「許さな~い!」

礼香「私のこの目はね、あの人に奪われたのよ」
アユ「奪われた?」
礼香「だからあの人約束してくれたんです。一生私の目になる、って」

第3話、礼香の右目が見えない理由にマサが関係しているとアユが知る。商品であるアーティストに怪我をさせたり、仕事中にマサの膝の上に座りマサの口に押し付けたマスカットを自分で食べたりと、礼香の秘書としての仕事ぶりは心配だ。それでも解雇できないのは、その右目の対する負い目があるからだろう。

それ、ドラマ「奪い愛、冬」(テレビ朝日系)で見たやつ! 2017年に放送された「奪い愛、冬」では、水野美紀が演じるが好意を抱いている相手の信(大谷亮平)を自分に縛りつけるため、「信のせいで」脚に大怪我を負っていた。脚本は「M 愛すべき人がいて」と同じく鈴木おさむが担当している。

「奪い愛、冬」が放送された当時、の狂気めいたキャラクターが話題となっていた。信を繋ぎとめるためには、主人公・(倉科カナ)が怪我をしてもいい、死んだって構わないという勢いで嫌がらせをする。神出鬼没で、キスをしてしまった信と光の前にクローゼットから飛び出し「ここにいるよ~~~!」と叫んだシーンは、怖い! ヤバい! 狂気! とSNSでかなり盛り上がっていた。

礼香は、の狂気を踏襲したキャラクターだ。美人で柔和と思いきや、急に表情が変わり目をかっぴらいて叫ぶ。ストーリーよりも、目まぐるしく変わる礼香の表情を見ているほうが「急展開」感を味わえる。

礼香「私の大切なもの奪わないでね。そんなことしたら私、許さな~~~い!」

まだまだ右も左もわからない田舎娘のアユをにらみつける礼香。の再来だ。

いまはまだ、アユの才能に気づいているのはマサしかいない。でも、礼香の顔をここまで変えさせてしまう。認めてはいないものの、礼香もアユの引力に気づき脅威を感じているといえるかもしれない。

水野美紀がを演じていた当時、ここまで振り切れる水野美紀がすごいと称賛されていた。田中みな実もまた、振り切れる女である。礼香は突然合宿所に現れるなど、すでに神出鬼没ではある。しかし、ここまで来たら「クローゼットから飛び出して『ここにいるよ~~~!』」以上のホラーを見てみたい。

第4話以降の放送日はまだ発表されていないが、次回の放送が楽しみ。

スマホ視聴を意識した「M」の画面づくり

「M 愛すべき人がいて」は、礼香やトレーナーの天馬まゆみ(水野美紀)らのキャラクターから目が離せない。一方で、現在のところ浜崎あゆみ本人がドラマについて言及していなかったり、アユの書いた歌詞の文字が宙を舞う、アユとマサが何かを達成すると虹がかかるなど、演出がやや安っぽかったりと、正直「大丈夫か?」と思わずにいられない部分もある。

ただ、演出についてはひとつ気づいたことがある。普段はテレビ画面で見ていたのだが、あるときスマートフォンのアプリやパソコンの画面でドラマを見る機会があった。大きなテレビ画面では、出演者のバストアップや顔のアップが多いなと感じていたシーンも、スマホの小さい画面で見るとスッキリとして見やすいと感じた。

本作は、テレビ朝日とABEMAの共同制作ドラマだ。テレビでは1度しか放送できないが、ABEMAでの配信は今後もずっと見ることができる。テレビよりも、小さいスマホの画面で見るのにちょうど良い画づくりが意識されているような印象を受けた。テレビで見たときは「それはどうなの」と思ったアユの歌詞の文字が宙を舞うシーンも、スマホで見ると印象が変わりちょっときれいだなと感じた。

とはいえ、それだけでは本作の心配な点をすべてクリアにできるわけではない。浜崎あゆみの名前を匂わせて宣伝しつつ内容はマサの物語になってしまっていること。このドラマをノンフィクションだと感じてしまう人が出てきかねないこと。存命で実在の人物をドラマにするにあたって、どれだけの配慮がされているのかは見る側も疑問を持ち続けなければいけないと思う。

キャラクターが際立っている田中みな実をはじめ、本作が初のドラマ主演・出演となる安斉かれんにとっても、ある意味で代表的な作品となるはずだ。浜崎あゆみはもちろん、彼女たち出演者のキャリアにとっても良い影響を残せるような作品になっていってほしい。

第4話の放送は未定だが、ABEMAでは伊集院光と古市憲寿が副音声でコメントをしている特別版が公開されている。また、「奪い愛、冬」の続編で水野美紀主演、小池徹平、松本まりか出演の「奪い愛、夏」もABEMAで配信中。今作で田中みな実の演技にハマっている人には、「奪い愛」シリーズの水野美紀の狂気もおすすめです。

土曜ナイトドラマ「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系・ABEMA)
https://www.tv-asahi.co.jp/m-ayumasa/
AbemaTV配信

金曜ナイトドラマ「奪い愛、冬」(テレビ朝日系)2017年
https://www.tv-asahi.co.jp/douga/ubaiai

ABEMAオリジナルドラマ「奪い愛、夏」(AbemaTV)2019年
https://abema.tv/video/title/90-1290

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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