高畑充希「同期のサクラ」忖度しないヒロインが問う「組織で個人の主張を通すには?」【水曜日はあのお仕事ドラマをもう一度】
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先々週より連載がスタートしたお仕事ドラマレビュー。今回取り上げるのは、昨年10月から放送されていた「同期のサクラ」(日本テレビ)だ。
ところで、なぜこの連載がスタートしたか。ぶっちゃけ言えば、当初は「ハケンの品格」(日本テレビ)新シリーズをレビューする予定だった。しかし、新型コロナウイルス拡大の影響で放送が延期になったため……という経緯がある。本連載の初回で取り上げたのは「家売るオンナ」(日本テレビ)だった。「ハケンの品格」「家売るオンナ」「同期のサクラ」、3作品とも日テレ水曜22時~伝統の「お仕事ドラマの枠」で放送されたドラマだ。
ヒロインの今後を暗示していた橋本愛のブチギレ
放送当時、このドラマがどんなメッセージを伝えようとしているのかわからず、途中でかなりジリジリしたものだ。とどのつまり、会社(主人公が勤務する花村建設は大手ゼネコン)という組織の中で個人の主張を通すには? を考えさせる作品だったように思う。
空気を読まず、まっすぐな言動を貫く北野サクラ(高畑充希)。彼女は主張する度にペナルティを受けた。土木部希望なのに入社早々人事部預かりになったり、お偉いさんを怒らせて子会社へ出向させられたり。もう、初回からその連続だった。
入社早々、こんなことがあった。新人研修で建築物の模型作りが課題に出されるや、サクラは妥協を許さない。締切前日にもかかわらず、他のメンバーにやり直しを迫るのだ。すると、メンバーの1人である月村百合(橋本愛)がブチ切れる。
「いいかげんにしてくんないかなあ。そっちに振り回される度に今までこっちがどれだけ迷惑してるかわかってる!? どんなときも妥協せず自分の信念まっしぐらみたいなこと言ってっけどさ、組織に入ったらそうはいかないの。上司の理不尽な命令やクライアントのわがままなオファーに従わなきゃならないの。それが大人になって働くってことなの。あんたみたいに生きられる人間なんか、この世に1人もいないの!」
この言葉がサクラのこれからを暗示していた。まっすぐなサクラは空気を読んだり忖度することのない貴重な存在。しかし、このままだときっと彼女は色々な壁にぶつかるだろう。サクラを応援したい気持ちはあるが、百合の言葉にも共感してしまえるところが絶妙だった。
「出る杭は打たれる」の連続だったサクラ
クライアントを怒らせて社史編纂室に異動させられるなど、組織の中で自分のやり方は歓迎されないとサクラは次第に気付いていく。決定的なのは5話だった。花村建設が手掛ける目玉プロジェクトが国の予算の都合で急遽凍結されることに。サクラの同期・木島葵(新田真剣佑)の父親は国土交通省の高級官僚である。花村建設を訪れた葵の父は、プロジェクト凍結について「耐えてもらえますか?」と説明した。葵は父に猛抗議する。
「何のために官僚になったんですか! 高い給料もらって民間に威張れるからですか? 定年が来たら何度も天下りして、その度に莫大な退職金をもらうためですか? この国に暮らす人たちを少しでもいいから幸せにするためじゃないんですか!?」
忖度しないサクラに感化された葵は、自らの思いを父に主張した。その後、葵は土木部へ異動、サクラは子会社に出向となった。わかりやすい懲罰人事だ。自分の主張を貫いていると、出る杭は打たれる。そんな現実をこのドラマはシビアに描写した。
忖度を覚えた者たちが、忖度しないサクラを応援するように
サクラもサクラなりに空気を読めるようになっていく。物事に納得がいかないときに彼女がする「スーッ」と息を吸う癖の回数は見るからに減っていったし、人事部長の黒川森雄(椎名桔平)に「人事部に骨を埋めるか?」と言われたときは気を使って社交辞令を言おうと頑張ったし(でも、嘘が言えないので口ごもる)。良く言えば、サクラのコミュニケーション力は向上した。
北野サクラは「ハケンの品格」の大前春子(篠原涼子)や「女王の教室」の阿久津真矢(天海祐希)から連なるアンドロイド型ヒロインに分類される。しかし、回が進むにつれ、彼女の棒読みの奥で何かが動いているのが伝わってきた。ロボットに血が通う過程が、サクラにとってはイコール成長と捉えることができた。
しかし、言いたいことを必死に我慢し続けたサクラは悪循環に陥ってしまう。貧乏ゆすりが止まらなくなったり、自分らしさをドンドン失っていったり……。そんな彼女に助言するのは、上司の顔色を窺って調整役に徹していた火野すみれ(相武紗季)だ。
「あなたは私みたいになっては絶対にダメ。あなたは10年後も、その先も、ずっとそのままでいなさい。私はもうあなたみたいに生きられないから、あなたのことを応援する。これからも仕事で辛いことがたくさんある。そんなときは私を頼りなさい。どんなことでも相談に乗るから。その代わり、何があってもくじけないで。自分の生き方を貫き通しなさい」
ただ、サクラを後押しするすみれもクライアントに意見したため社史編纂室へ左遷させられてしまったのだが。
「自分を貫くには力が必要」と説く上司と訣別したサクラ
「正直者はバカを見る」な会社人生を送ってきたサクラ。遂には「私みたいに忖度できない人間は東京には合わなかったんです」と、帰郷を決意するほど落ち込んだ。そんなサクラを本社に戻したのは、副社長に出世していた黒川だった。黒川は新しいプロジェクトのリーダーにサクラを抜擢し、強く説いた。
黒川 「お前は自分の主義主張にこだわり過ぎて周りとぶつかり、散々痛い目に遭ってきた。なぜだかわかるか?」
サクラ 「それは……私が頑固で、融通が利かないからでしょうか」
黒川 「違う。お前に力がないからだ。力さえあれば、周りはお前のやりたいことに従う。自分の思う通りのものを作ることができる。俺が応援してやるから、これからは力を持て」
ここで大事なのは「権力を求めろ」という話には終わらないところ。力とは、目的ありきの手段である。
「組織ってのは、問題のあるものは好きじゃないんだ。前例のないものや、発想の違うものを否定し、拒絶しようとする。そのときに必要なのは、そういう奴らを黙らせる力だ。お前がお前でいようとするなら、力を持つしかないんだ、サクラ」(黒川)
「自分を貫け」とサクラの背を押す黒川。しかし、当の自分はゴルフ帰りの社長を発見し、卒なくおべっかを使っている。黒川は空気を読むことが抜群にうまかった。サクラに助言したようなことを心の中にしまったまま、空気を読んで今の地位に上り詰めたタイプが黒川だ。「信念があるなら力を持て」、自分ができなかったことを黒川はサクラに託した。
このドラマでラスボスと目された黒川は、視点を変えると、会社に革命を起こす切れるリーダーだったと思う。しかし、社長を失脚させ、大規模なリストラを敢行する黒川の「目標を達成するには犠牲もやむなし」という考え方は、サクラにはそぐわなかった。力は必要だけれど、その力に血が通っていなければただの独裁となる。サクラはこの方向が自分には合っていないと途中で気付いた。サクラは花村建設を離れ、別の会社で建築に携わる道を選んだ。
個人の意見を仕事に反映させたいと思ったら、どうする? 大きな組織では自分を理解してくれる上司や権力が必要だろう。それが嫌なら小さな組織へ向かうか、もしくは個人で事業を始めたほうがいい。冒頭でも述べたが、このドラマは社会の中で個人の主張を通すにはどうしたら良いか? に主眼が置かれていた。最終的にサクラを含めた同期5人のうち、花村建設に残ったのは葵1人だけである。令和の働き方として、この離職率はかなりリアルだ。
エンディングは同期5人が桜の下に集まり、それぞれが自分の夢を口にするというシーンだった。夢を成就させるドラマは多いけれど、途中で挫折してまた新たな夢が生まれるドラマは今まで見たことがなかった。
「同期のサクラ」
脚本:遊川和彦
主題歌:森山直太朗「さくら(二〇一九)」(UNIVERSAL MUSIC LLC)
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:大平太、田上リサ
演出:明石広人、南雲聖一
出演:高畑充希ほか
https://www.ntv.co.jp/sakura2019/
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