水曜はお仕事ドラマの日「家売るオンナの逆襲」を分析。篠原涼子から北川景子に受け継がれたフォーマット

新型コロナウイルス感染症の拡大で延期が決まった「ハケンの品格」。仕事ができて無表情でアンドロイドのようなヒロインが主役のお仕事ドラマは、その系譜が脈々と受け継がれています。なかでも大前春子(篠原涼子)に近い印象を受けるのは「家売るオンナ」の三軒家万智(北川景子)。今回は、アンドロイド型ヒロイン三軒家万智を通して、2つのドラマを考察します。
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13年ぶりに新シリーズがスタートする「ハケンの品格」(日本テレビ 水曜夜10時)。2007年に放送されたこのドラマのシーズン1、そして2005年放送「女王の教室」(日本テレビ)が今につながるフォーマットを築いた気がする。仕事ができて無表情でアンドロイドのようなヒロインが主役のお仕事ドラマ。「家政婦のミタ」(日本テレビ)、「家売るオンナ」(日本テレビ)、「義母と娘のブルース」(TBS)、「同期のサクラ」(日本テレビ)などは明らかにその系譜だ。

なかでも、大前春子(篠原涼子)に近い印象を受けるのは「家売るオンナ」の三軒家万智(北川景子)である。日本テレビ水曜22時からの1時間は「お仕事ドラマの枠」と言っていい。「ハケンの品格」と「家売るオンナ」、どちらもシリーズを通じこの枠を定位置にしていた。

キャリアウーマンvsワーキングマザー

本稿で取り上げたいのは、2016年放送「家売るオンナ」の続編として制作された2019年の「家売るオンナの逆襲」である。シーズン1と違い、逆襲のほうにはLGBTやネットカフェ難民等を取り上げる社会派ドラマの側面があった。なかでも注目は「キャリアウーマンvsワーキングマザーの対立」をテーマに据えた7話だ。

働く女性の活躍をアピールするため、テーコー不動産が立ち上げた「ウーマンプロジェクト」。メンバーには三軒家の他にキャリアウーマンの朝倉雅美(佐藤江梨子)と2人の子どもを育てるワーキングマザーの宇佐美サキ(佐津川愛美)も選出された。そして、両者は揉めてしまう。打ち合わせの途中で「息子のお迎えがある」と席を立つサキ。そのことを知らされていなかった雅美は、見るからにピリピリし始める。しかも、新しい住まいを探す2人は気に入った物件が被ってしまった。

サキ 「この間取りって子育て世帯向けですよ!?」
雅美「私みたいに産まない女の生き方だって認知されるべき!」

多様性とは自分の生き方を理解させることではなく、人それぞれに考え方の違いがあると理解すること。2人は権利を主張するばかりで、多様性を理解していなかった。

家を使って客の悩みを解決する三軒家

雅美の物件探しを担当する三軒家はサキに言い放った。
「あなたは育児を持ち出せば周りがひれ伏すと思っていますね?」(三軒家)

そして、三軒家はサキに別の物件を紹介する。それは、彼女の夫の職場から3分の場所にある一軒家だ。実は、サキの夫の職場は託児所を設置する予定があった。「お子さんの送り迎えは旦那様にお任せすればよい」というのが三軒家からの提案だ。夫が職場の託児所新設の事実を知らなかったことが、子育てを他人事と捉える男の意識を端的に表している。なぜ、女性だけが仕事と育児の両立を求められるのか?
「女性に仕事と家事を両立させるためのプロジェクトならば、そんなものはくたばってしまえばいいのです」(三軒家)
サキは三軒家から家を買うことにした。

三軒家の仕事の仕方が、この7話に詰まっている。彼女は客が抱える悩みや問題の解決を第一に考える。そのときに活用するのが家だ。三軒家から家を買ったということは、抱えている悩みが解決したという証しでもある。
そう考えると、彼女の決め台詞「私に売れない家はありません!」がより勇ましく聞こえてくる。「お仕事ドラマの枠」歴代作品の中でも、今作は仕事の意義を特に強く訴えるドラマだった。

本当に無感情なロボットか?

今では珍しくなくなったアンドロイド型ヒロイン。なかでも、三軒家はロボット成分が特に高い。喋り方は機械的だし、笑顔は決して見せない。感情もパッと見は非常にわかりにくかった。

そんな彼女の夫は、同じ職場で課長を務める屋代大(仲村トオル)だ。逆襲では2人の仲が危うくなる瞬間があった。ストイックな三軒家は屋代のためにハンガリー料理やエチオピア料理などおいしい食事を全力で用意する。それが屋代にとってはトゥーマッチなのだ。「もっとシンプルな料理が食べたい」と贅沢な悩みを抱える屋代。さらに、三軒家は仕事を理由に帰宅が遅くなりがちな妻でもあった。
三軒家に不安を感じる屋代の前に三郷楓(真飛聖)という女性が現れ、屋代の浮気疑惑が持ち上がる。三軒家は夫に直談判した。

「浮気をやめていただけないでしょうか。私が愛しているのは課長だけです! でも、相手の気持ちはどうすることもできません……」(三軒家)
今にも泣き出しそうな顔で夫に気持ちを伝える妻。三軒家史上、最も感情的な場面である。

アンドロイド型ヒロインがお仕事ドラマの主人公になるケースは多い。確かに多いが、実はそんな簡単な話ではない。本当にそのヒロインが無感情なロボットか否かは、ドラマを見ていればちゃんとわかる。三軒家役の北川景子は、感情の揺れを絶えず微妙に表情に出していた。見るからに感情豊かな役より、もしかして難易度は高かったかもしれない。

お仕事ドラマの主役=アンドロイド型ヒロイン、篠原涼子もハードなフォーマットを作ったものである。勤務時は無愛想な大前春子も、親しい人の前では笑顔を見せる人間味のあるヒロインだった。

「家売るオンナの逆襲」
脚本:大石静
主題歌:斉藤和義「アレ」(スピードスターレコーズ)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:西憲彦
出演:北川景子ほか
https://www.ntv.co.jp/ieuru_gyakushu/

huluにて配信中
https://www.hulu.jp/ieuru-gyakushu

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。