映画『食べる女』:中江有里「誰かのまねでなく自分はどう生きたいか考えたくなる」

小泉今日子が主演し、沢尻エリカや鈴木京香ら豪華女優陣が共演している映画『食べる女』。個性的な8人の女たちが「おいしいごはん」から始めるささやかなレボリューションが描かれる。9月21日(金)からの公開を前に、女優・作家の中江有里さんが本作の魅力を語る。

ままならないのが人生。だからこそ愛おしい

 この映画は自由で孤独な8人の女性の群像劇。それぞれの物語が少しずつ重なり合いながら展開していきます。最初は女性たちみんなが謎めいた感じなのですが、次第に個性が色濃く、はっきりと浮かび上がってきます。その色合いが一人ひとりあまりにも違うので、観賞後、8本のショートムービーを楽しんだような心持ちになりました

 しかも、女性たちは皆「ままならない」ものを抱えて生きています。例えば、ちゃんと恋愛したいのになぜかいつも男に都合良く利用されてしまったり、夫とは別れたのにその人の子を妊娠し、一途な愛を貫こうとしたり。でも、人生って本来「ままならない」もの、なかなか思い通りにはいきません。それでもたまに自分の思いがかなったりするとそれがご褒美みたいに思えるから生きていける。

 彼女たちもまさにそんな感じ。もがきながらも、時々訪れる「ご褒美」とおいしいごはんを糧にして何とかやっています。考えたら私も同じです。日々悩んだり傷ついたりといろいろな思いを抱えながらも、寝て起きて食べて前を向いていくしかないと心のどこかで思っているところがあります。と考えると、女性は前向きにしか生きられない生き物なのかもしれませんね。

何が食べたいかで自分の内面を感知できる

 小泉今日子さんが演じる敦子さんは、仕事よりも食事を作るのに熱心。私も同じように書く仕事もしていて、忙しくなると食をおろそかにしがちなので、彼女のその姿勢に感服。確かに食べることはただおなかを満たすだけでなく英気を養うものです。それと人間は、何を食べたいか、何を取り入れたいかで自分の内面を感知できるところがある。そういう人間として大事なことをちゃんと分かっている女性なんだなと思いました。

 そんな敦子さんが作る料理はどれもおいしそう。みんなで食べるシーンは見ているだけで楽しい気持ちになりました。と同時に好きだったのが、卵かけごはんを一人ひとりが食べるシーン。私はいい卵と炊きたてのごはんがあるとつい食べたくなります。しかも一人で。すごく短い時間の中、シンプルなんだけどひそやかにぜいたくをしているような感じがいいんです。こんな風に卵かけごはんを食べることがあるなぁって思いながら見入ってしまいました。

観ている私たちは9人目の主人公 

 本作を彩る個性的な8人の女性は誰一人似ていないこともあって、つい自分はどのタイプだろうと重ね合わせて考えがちですが、実は観ている私たちは9人目なんだと思います。誰かの生き方をまねするのではなく、では、自分はどうしたいのかを改めて考えてみる。そんな9人目の私たちを後押ししてくれるのがこの作品。最近、ちょっと元気がないかもしれないなという方には特にお薦めしたいです。(談)

<プロフィール>

中江有里さん/1973年大阪府生まれ。89年デビュー。数多くのドラマや映画に出演。著書に『わたしの本棚』『ホンのひととき 終わらない読書』など。現在、新聞や雑誌でエッセーを連載するほか、NHK「ひるまえほっと」の“中江有里のブックレビュー”の担当、フジテレビ系「とくダネ!」のコメンテーターなどでも活躍中。

<ストーリー>

東京の古びた日本家屋の一軒家。家の主は雑文筆家で古書店を営む敦子(トン子)。女主人はおいしい料理を作って、迷える女性たちを迎え入れる。それぞれに孤独を抱えながら、それぞれに違う形の幸せを模索する日々を送る8人の自由な女性たち……。彼女たちの日常からの解放は、おいしい食事と楽しい会話。今日も、人生に貪欲で食欲旺盛な女たちの心と体を満たす、おいしくて、楽しいうたげが始まる。

出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYOORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、眞木蔵人 原作・脚本:筒井ともみ『食べる女 決定版』(新潮文庫刊) 主題歌:「KissingLeola(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ) 音楽:富貴晴美 監督:生野慈朗 配給:東映 PG12 ©2018「食べる女」倶楽部

 

『食べる女』

http://www.taberuonna.jp/

9月21日(金)全国ロードショー