映画『食べる女』:白河桃子「食事やセックス、体温が上がることを大切にしたい」
縁あって集う女性たちその関係性に憧れる
登場する女優陣が豪華で、出てくる料理も彩り豊か。しかもみんなまあ何とおいしそうに食べること。観ているだけで元気がわいてきます。何より年齢も職業も生き方もバラバラな女性たちが、おいしいものを食べて本音を言い合うコミュニティーに惹かれました。女性同士の理想的な関係であり、憧れです。
本作は縁あって集う8人の女性たちの人生と食が、あたかも縦糸と横糸で織物を紡ぐように描かれています。女性たちはそれぞれいろいろなものを抱え、懸命に生きています。その中の誰か一人が自分のロールモデルになるというより、一人ひとりの中に少しずつ自分と重なる部分があり、逆に反面教師になる部分もある。自分を投影しながら楽しめるところが面白いです。
そんな中、印象的だったのが小学生の少女ミドリちゃん。彼女が自分の意思をはっきりと示すシーンがあります。よく私は女子学生に「自分の幸せを自分でデザインできる女性になってほしい」と言うのですが、この少女はすでに自分の人生を自分らしく突き進み始めている。そこが素晴らしい。もう一人少女が出てくるのですが、彼女たちが居ることで、本作が単に今の時代の話にとどまらず、未来に開かれている気がして、より一層魅力的に感じられました。
経済的に自立していても恋愛に保守的な女性たち
登場する女性の中には経済的に自立しているにもかかわらず、こと恋愛には保守的なタイプもいます。リアルに言うと今は、恋愛していない女性の方が多数派です。「恋愛は面倒だし、傷つくのもイヤ」と多くの女性が思っている。男性も傷つけられてまでコストをかけて恋愛したくないと消極的。
一方で、「婚活」という言葉が生まれて10年経つのですが、結婚は多くの女性にとって今なお「幸せ標準セット」の一つ。第一線で活躍しているキャリアウーマンでさえ「あまり稼ぐと結婚できなくなる」と気にしたりします。と言いつつ「当たりの結婚はしたいが、ハズレの結婚は嫌」というのが本音。恋愛は面倒だからしたくないし、結婚も条件に合わないならしたくないと合理的に考える人が増えているわけです。
無駄に思える恋愛にこそ人生のうまみがある!
そんな風に合理的に生きようとする風潮に作者は疑問を感じているのかもしれません。本作からは「もっと本能を取り戻しなさい」というメッセージが聞こえてきます。バカみたいに男に振り回されたり、別れた元夫に執着したっていい。確かに無駄かもしれない、でもそこにこそ人生のうまみや楽しさがあるのだからと。そして「もっと思うがままに生きて、おいしいものを食べたり、好きな人とセックスしたりと体温が上がるようなことを大切にしなさい」とエールを送ってくれているようにも思えました。最近、なにかモヤモヤしている、迷いがあると思う人にこそおすすめの映画です。(談)
<プロフィール>
白河 桃子さん
しらかわ・とうこ/東京都生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」ブームを起こす。ライフキャリア、働き方改革を中心に執筆・講演活動を行う。『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など著書多数。
<ストーリー>
東京の古びた日本家屋の一軒家。家の主は雑文筆家で古書店を営む敦子(トン子)。女主人はおいしい料理を作って、迷える女性たちを迎え入れる。それぞれに孤独を抱えながら、それぞれに違う形の幸せを模索する日々を送る8人の自由な女性たち……。彼女たちの日常からの解放は、おいしい食事と楽しい会話。今日も、人生に貪欲で食欲旺盛な女たちの心と体を満たす、おいしくて、楽しいうたげが始まる。
出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO(ORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、眞木蔵人 原作・脚本:筒井ともみ『食べる女 決定版』(新潮文庫刊) 主題歌:「Kissing」Leola(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ) 音楽:富貴晴美 監督:生野慈朗 配給:東映 PG12 ©2018「食べる女」倶楽部
『食べる女』公開中