「麒麟がくる」全話レビュー17

【麒麟がくる】第17話 「逃げて、逃げて、生き延びて」やっぱり間に合わない光秀くん

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第17話は、斎藤道三(本木雅弘)と息子・高政(伊藤英明)の因縁の父子対決。そしてやっぱり間に合わなかった光秀くん。それぞれの生き方と誇りが交錯します。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

第17話で押さえておきたいこと。
・後の世に高政の不名誉伝説という毒を残して死ぬ道三
・揺るぎなき誇りを大事にする光秀
・逃げて、逃げて、生き延びよと光秀に言い残す光安

おもしろやこの宿は

弘治2年(1556年)、長良川をはさんでの、斎藤道三(本木雅弘)と息子・高政(伊藤英明)の因縁の父子対決。この川は、高政の母にして道三の側室・深芳野(南果歩)が亡くなった川でもあり、ますます因縁深さが強調されるというもの。浪漫溢れる、大河ドラマ「麒麟がくる」第17回「長良川の対決」(演出:大原拓)。

道三軍2千対高政軍1万2千越えと、圧倒的に高政が有利。その状況を遠く尾張で心配する帰蝶(川口春奈)。せっかく伊呂波太夫(尾野真千子)に頼んで逃げる道を用意したにもかかわらず、言うことを聞かない父・道三に苛立ち、「負けとわかった戦に巻き込まれるのは愚か」と写経している。いたたまれず助っ人に向かう義理堅い信長(染谷将太)を横目に「みな、愚か者じゃ!」と写経をくしゃっと丸めて苦い顔をする。帰蝶は、このドラマの中で最も生き残ることを第一に考えている人だと思う。

娘・帰蝶の心配を顧みず、道三は戦いを前に「おもしろやこの宿は♪」とお茶毒殺のときの歌を歌っている。

「おもしろや この宿は 縦は十五里 横は七里 
薬師詣でその道に 梅と桜を 植え混ぜて」

勝手に妄想すると、梅が側室の子の高政としたら、桜が正室の子・帰蝶かも。いろんな人がいて、誰がどう育つか、どう生き残っていくかわからないという、15回で言っていた「力があればうまく生き残れよう 非力であれば道は閉ざされる わしの力でどうこうできるものではない わしはいずれ消えてなくなる」という運任せにも通じているような気がしないでない。

流れに任せて泰然としている道三に対して、姑息な作戦を巡らせている高政軍。
「殺すな、生け捕りにせよ」と高政が言うと、側近の稲葉良通(村田雄浩)は「親殺しは外聞が悪うございますからな」と悪人顔。この人、前から何かと高政を焚き付けていていやな感じなのである。土岐頼芸(尾美としのり)から道三、そして高政へ風を読んで鞍替えしていく調子のいい人物である。

 

そなたの父の名を申せ

道三軍は兵がどんどんやられていく。道三はひとり長良川を渡り、高政と一騎打ち。
長槍という密に配慮した距離がとれる武器をぶん回して戦うふたり。
このときのふたりの会話がとても興味深い。

道三「ならば聞く、そなたの父の名を申せ」
高政「黙れ! 油売りの子!成り上がりもの蝮の道三」
道三「父の名を申せ」
高政「わが父は、土岐頼芸様」
道三「この期に及んでまだ己を飾ろうとするのか」

「父の名を申せ」と言われたあとに高政は「蝮の道三」と言っている。これまた深読みかもしれないが、高政は道三の子だとわかっていながら、土岐頼芸の子供だと対外的に言い張っていることを、ふたりだけがわかる会話を交わしているのではないだろうか。
わかっていても土岐頼芸の子として通すと言い張る高政に「おぞましき」とか「醜き」とか散々な言い方で高政を挑発する道三。以前も信長のことを「気に入った」とやたらと強調して言うなど高政を刺激してばかり。これはイジワルなのか、それとも、息子を鍛えようとしていたのか、どっちなのだろう。とにかく道三は「力があればうまく生き残れよう 非力であれば道は閉ざされる わしの力でどうこうできるものではない」の精神で、どうこうできるものではないながら、何かしらきっかけを作ろうと動き続けていたように思う。自分が殺されたら、親殺しの汚名を高政に着せることができる。うまくして、高政を殺せば、それはそれで良しという、どっちに転んでも自分のプライドは貫けると計算しているようで、さすが成り上がってきた蝮だけある。帰蝶が以前、「できることはすべてやり、あとはその場の勝負」(14回)と言っていたのはやはり父譲りだったのだろう。

 

石川さゆりに歌ってほしい

この戦いにまったく間に合わなかった光秀くん。ほら、やっぱり間に合わない男だった……。ちなみに信長は途中で邪魔が入ってたどりつけなかった。
「罠にはめられた」と悔しそうな高政に、「揺るぎなき誇りが道三様にはあった」がそれが「土岐様にもお主にもない」と言い放ち高政に与しない意思を伝える。
がっかりした高政は明智城を攻撃。
光安(西村まさ彦)は「逃げて、逃げて、生き延びて、明智家の主として再び城をもつ身になってもらいたい」と光秀に明智家の旗印を託す。

このときの光秀のものすごく悲しい顔。本当に純粋な哀しみに感じさせる長谷川博己。
いつもの「はっ」もすごく悲しそうだった。
一方、母・牧(石川さゆり)は城に残ると言い張る。このときの石川さゆりの立膝のかっこよさ。
農民として美濃に残る伝吾(徳重聡)は「今日は旅に出てくださりませ」と説得。このとき、伝吾といっしょに光秀たちにひざまずく農民たちのなかで下手(向かって左側)に位置する女性(ものすごーく俯いて肩を震わせている)と子供(光秀や牧の顔を一生懸命見ている)の演技が一瞬の出番に爪痕を残そうとしているように感じた。そんなエキストラたちの演技を見ているうちにも敵が近づいてくる。放たれる火矢の数々。
遠くで明智城が燃えている。「城が燃える〜」と石川さゆりに歌ってほしい。
光安は燃えちゃったのか……。西村まさ彦、「真田丸」の「黙れ小童」の決め台詞みたいなものは今回なかったが、そういうのがなくても、若い光秀と明智家を守って来た実直な人物の気苦労を、出過ぎす引っ込み過ぎず、なんともいえない分量で感じさせていた。名優だなあ。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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