「麒麟がくる」全話レビュー14

【麒麟がくる】第14話 密を避けた道三と信長の対面、光秀くんは密です!

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第14話は斎藤道三(本木雅弘)と婿・信長(染谷将太)の初対面のシーンから。光秀の役割とは?もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

道三に殺されるかもしれない

大河ドラマ「麒麟がくる」第14回「聖徳寺の会見」(演出:大原拓)は、美濃の蝮こと斎藤道三(本木雅弘)と婿・信長(染谷将太)と息子・高政(伊藤英明)の物語。実の息子より優秀な他人のほうが良いという無情が描かれた。

前半は信長と道三の初対面。信長は、妻であり道三の娘である帰蝶(川口春奈)にいろいろお膳立てしてもらい、300人もの兵士を連れ、へんな着物を着て、亡き父・信秀(高橋克典)が好きだった瓜をかじりながら登場する。会見場所・聖徳寺につくときちんとした装束に着替えて道三を煙に巻く。この作戦、試合に遅れてくる宮本武蔵みたいなものか(違う?)。

そうでもしないと道三に殺されてしまうかもしれない。帰蝶の前の夫は毒殺されているし、美濃の守護代・土岐頼芸(尾美としのり)は大事な鷹を惨殺されて怯えて逃げてしまった。ただ殺るだけでなく様式美に彩られた武将・道三。信長に何をするかわからない怖い顔で座っている。

道三と信長は「密」を避けた距離(2メートルくらい空いてたと思う)で対面。ただし、道三の背後にいる部下たちは「密」だった。主人公・光秀くん(長谷川博己)はその中にいる。相変わらず光秀くんは観察者である。

信長と道三の会話は、ストレートに本音をぶつけあうのではなく、微妙にひっかけ問題な感じで進む。うっかり地雷を踏んだら道三に殺されるかもしれない。なんとか道三に気に入られるように信長は慎重に綱渡りをするように会話を続ける。この感じ、「クイズミリオネア」みたい(古い?)。

尾張一のたわけでござります

着替えた装束を「帰蝶が着ていけと譲りませんので」
「(お義父上の好みの色と聞くが)まことにお好みの色でございますか」と尋ねると、
道三は答えない。この沈黙がこわい。

信長は汗をかきかき、今回の会見を「最も喜び最も困り果てたのが帰蝶」で「私は山城守様に(道三のこと)討ち取られてしまうのではと」と心配していたことをはっきり伝える。

「今日の私は 帰蝶の手の上で踊る 尾張一のたわけでござります」

帰蝶は今回まったく登場しないが、まるでその場にいるかのよう。この会見の鍵は帰蝶が握っているという印象で、信長は帰蝶の話ばかりする。帰蝶とどれだけうまくやってるかアピールし、父・道三の気持ちを安心させようとしているのだろう。でも堂々としているようで信長はめっちゃ汗をかいている。

主要な家臣がいないと指摘されると、前田利家(入江甚儀)と佐々成政(菅裕輔)を呼び「家を継げぬ食いはぐれもの」されど「一騎当千」だと紹介。

「食いはぐれ者は失う者がございませんゆえ。闘こうて 家をつくり国をつくり 新しき世をつくる。その気構えだけで戦いますゆえ」

道三がそうであったように、さしたる家柄でないながらのし上がってきた者同士であることを強調する信長。

信長のやり方がまるで自分がやって来たことのように響いたようで、道三は「信長殿はたわけじゃがみごとなたわけじゃ」と満足そう。
そのあとの道三と信長の会話がニクイ。

信長「それは褒め言葉でござりますか」
道三「褒め言葉かどうかは帰って誰ぞにお聞きなされ」
信長「そういたしましょう」
道三「うむ それがよい」

帰蝶に免じて殺さないよ〜ということを言葉に出さずに伝える。はっきり言わずに会話の妙を楽しむ、これも頭脳プレーだなあと思う。

抑止力としての光秀くん

帰蝶は立派に「人質」としての嫁の責務を果たしている。もともと、弱小国の美濃と尾張が組んで列強諸国からの攻撃を防ぐ目的で帰蝶が嫁に行っているわけだから。

信長と道三は笑いあい、光秀もにんまり。

信長と道三の会話を緊張しながらじっと聞く光秀くん。ひたすら受け身なのだが、実は人知れず役に立っているような気もした。というのは、その後、家に帰って、母・牧(石川さゆり)と妻・煕子(木村文乃)に、会見の話をして聞かせると、ふたりは大事(戦)にならなかったことを共に喜び、「帰蝶が離縁されて戻ってきたら大変」と笑うのである。
帰蝶が光秀を好きなことを、牧も煕子も知っていてからかう。
ここ、たわいない話のようで、重要な気がした。光秀が煕子と結婚したことで、帰蝶は諦めざるを得ないとも考えられる。もしまだ独身だったら帰蝶は光秀のところに戻ろうとして信長と道三の和議は崩壊したかもしれない。光秀くん、案外と抑止力として役に立っているんではないだろうか。

中盤、駿河に駒(門脇麦)、東庵(堺正章)、菊丸(岡村隆史)、藤吉郎(佐々木蔵之介)が集まってくる。
駒をめぐり菊丸が藤吉郎をライバル視するふうに見えるところがあるが、菊丸は徳川と繋がっていて、藤吉郎は豊臣で、やがて闘うことになると思うとちょっとおもしろい。

「十兵衛答えよ」

さて、後半は道三と息子・高政のターン。
すっかり信長を気に入った道三は、信長の窮地に援軍を出すことにする。だが、高政は、そんなことしたら今川の敵と思われるからと猛反対。
「したたかで無垢で底しれぬ野心が 昔のわしのようだ」と信長を買う道三に、高政は面白くない。

ここでもまた光秀は傍観者。不安な顔で見守っている。このとき、光安(西村まさ彦)と光秀が同じ角度で斜めに傾いた形で高政を見ているのが面白い(29分53秒頃から)

傍観者かと思いきや、道三と高政、どっちの意見に賛同するか「十兵衛答えよ」と道三にふられて息を飲む。ここでは、光秀は高政側についてしまう。
「十兵衛!」光安の声が裏返る。

可能性がまだわからない信長に肩入れする道三をいまいましく思う高政。
「この国は潰れるぞ」

ところが、天文23年1月、村木砦の戦いで信長ははじめて鉄砲を使い、目覚ましい活躍をする。
勝どきの声をあげるときの信長の目がやばい。仲間が死んで嘆きながらも、戦いに身を投じていかざるを得ない人間の心の変化を染谷将太が鮮やかに演じている。

それを山の上から静かに観察している光秀。信長の活躍にちょっと笑ったりして。
狂気に転がっていきそうな信長の変化に対して、傍観者たる光秀はまだ透明で客観性をもった顔をしている。本来、いまの光秀のように、道三の考え、高政の考え、信長の考え……とあらゆる立場の者たちのことを冷静に考える判断する、こういう状態が大事。いつまでもこういう表情でいてほしいと願うが、未来の本能寺の変のことを思うと、光秀も戦いにまみれ、いつか透明性を失ってしまうのだろうか。

高政のダメなところ

この戦いのあと、高政の母・深芳野(南果歩)が長良川のほとりで水死。
結局、深芳野が生んだ高政は、道三の子なのか、土岐頼芸の子なのか、真相を墓場までもって行ってしまった形となる。もっとも深芳野は道三の子だと言っていたけれど。

高政は、土岐頼芸にそそのかされて、自分は高貴な土岐家の血を受け継いでいるという気持ちになったまま。そういう気持ちもわからなくはない。高政も可哀想で、帰蝶は本妻(小見の方)の子で、自分は側室の子。道三は帰蝶ばかりかわいがっているように見える。挙げ句に婿まで。居場所がないのである。

自分のアイデンティティが見いだせず、亡骸を前に「私を守護代に───」と道三に迫る高政。母の死よりも守護代になりたい気持ちが先走っていて、そこがこの人のダメなところだと感じてしまう。でもそれは拠り所のない哀しみの現れだ。
一方、道三は、深芳野の死を深く悲しんでいる表情をする。本木雅弘の演技は、怖い時は怖いけれど、愛情深い人に見える。おそらく、信長の亡き父・信秀も信長が自分に似ていると思っていたようだし、織田信秀、信長、斎藤道三は「麒麟がくる」では生き方、戦い方に確たる信念がある者として描かれている。だが、高政にはそれがない。そして本人、それに気づいていない。悲劇である。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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