「麒麟がくる」全話レビュー16

【麒麟がくる】第16話 道三「偽りを申すものは必ず人を欺く。そして国を欺く」

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第16話は、いよいよ斎藤道三(本木雅弘)と息子の高政(伊藤英明)の戦がはじまりそう……もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

小鳥を愛でる気のいいおじさん

大河ドラマ「麒麟がくる」第16回「大きな国」(演出:一色隆司)は斎藤道三(本木雅弘)とその息子・高政(伊藤英明)の戦がいよいよはじまりそうで、明智家としてはどちらの側につくべきか、光安(西村まさ彦)と光秀(長谷川博己)の困惑が描かれる。

光秀の父親・光綱が亡くなってからずっと弟の光安が明智家の後見人として若い光秀と未亡人の牧(石川さゆり)の面倒を見てきた。光安は小鳥を愛でる気のいいおじさんなのだが、道三が隠居してしまい、その後を高政が継いでいることが気に食わない。それでも明智家存続のために踊って見せる。この「踊り」はダブルミーニング。腹芸と同じ意味合いだろう。現代の勤め人と同じで、美濃という土地で生きるには守護代にへつらわなくてはいけない。上司といい感じの関係性ができていたとしても、上層部で組織替えが行われた場合、また一から関係性を築かなくてはならない。光安が高政の前で踊る表情、ふと光秀を見る表情、苦渋に満ちていた。雇われものは辛いよ。

光秀くんは正直者だから、おじさんのようなことはできない。とにかく戦を回避しようとする常識人。まず、帰蝶(川口春奈)の元へ話に行くが、頼るようにと弟・孫四郎に向かわせたら光秀がけんもほろろに突き放した挙げ句、高政に殺されたことを怒っていて話にならない。光秀くん、「リア王」の末娘コーディリアのように、おべんちゃらやそれこそ腹芸が使えないからほんと損である。でもそこがいいのである。それがこの物語の主役たる所以なのだと思う。

 

雪を花に例えているのです

光秀を追い返した後、帰蝶と信長(織田信長)が話をする。このとき、信長、用意周到に間者に探らせていて、高政のほうが兵は多く、道三に勝ち目はないことを知っている。でも信長はいま加勢にいけないので「まず御身を守ることが肝要ぞ」と言う。道三は少ない数でなぜ戦さをしようとするのかわからないと首をひねり「わからぬこの歌も」と続ける信長。古今集の「冬ながら空より花の散りくるは」をなぜ冬なのに花が? ととぼける信長に、帰蝶は「雪を花に例えているのです」とイラッとなる。教養がなく見える信長。その点、光秀くんは歌に造詣は深い。やっぱり光秀のほうがいいと帰蝶がこのとき思ったかは定かではない。信長も本気でわかってないのではなく話を誤魔化したかったんじゃないだろうか。という疑問はさておき、光秀くんは「ときは今 あめが下知る 五月かな」という和歌を“本能寺の変”の前に詠み、この歌に何か想いが込められているのでは? とも言われている。いまから和歌の伏線を張っているのかもしれない。「麒麟がくる」では、掛詞を使ったり直截的でない表現をしたりすることが多いことはレビューで何度か書いていて、これには狙いがあるのかなという気がしている。

 

負けるとわかっていても義理堅い

光秀くんが悩んでいると、高政は土地替えをすると言い出す。光秀に自分についてほしいし、いまより広い土地を与えると一見美味しいことを言うが、光安を隠居させろと言うなど光秀にとってあまりいい話でもなさそうである。
高政は土岐源氏の血を継いでいることを利用して国衆の信頼を勝ち得ていた。道三は成り上がり者として美濃の者たちから評判がよくないのである。兵の差はそこにあるのだろう。

光秀「なるほど賢いやり方だ」
高政「言葉に少々毒があるな」

幼馴染ながらふたりの間に距離ができていく。

光安は飼っていた小鳥を放ち戦う覚悟を決めた様子。当然ながら道三につくつもり。負けるとわかっていても義理堅い。光秀は2日待ってくれと道三に会いに行くと、帰蝶の命を受けた伊呂波太夫(尾野真千子)とすれ違う。このときの太夫の不敵な顔が気になる。

道三は光秀に言う。
「人のうえに立つ者は正直でなくてはならぬ。
偽りを申すものは必ず人を欺く。そして国を欺く。
決して国は穏やかにならぬ」

現代にも通じるセリフではないか。やっぱり嘘はいけないよね嘘は。土岐源氏の血を引いていると嘘をついている高政を許せない道三は最後に間違いを正そうとする。

「皆、ひとつになればよい。
さすれば豊かな大きな国となり
誰も手だしができなくなる。

あの信長という男は面白いぞ。
あの男から目を離すな。
信長とならそなたやれるかもしれぬ。

大きな国をつくるのじゃ
誰も手出しにできぬ大きな国を」

遺言のようなことを言い去っていく道三。
光秀は困った……という顔をしつつ、ついに戦う決意をする。

「敵は 高政様」

「敵は本能寺にあり」の前に「高政様」と言う光秀。今後、戦をするたび「敵は……(間を置いて)◯◯」と言い続けるのだろうか。

この回の放送前、NHKでは「さらば、道三」とキャッチコピーをつけたPR動画を頻繁に流していて(これ、面白いのである。光秀くんの「はっ」「はっ」「はっ」を連続で編集していたりするのだ)、私はてっきり16回で道三対高政の闘いがあると思っていたら、本番は次回だった。引っ張りますねー。そしてPRでは煽りまくりますねー。そのせいか視聴率も上がっていた。今後が楽しみなのだが、新型コロナウイルス感染拡大のための緊急事態宣言が延長になったため撮影の目処がたたず、途中で放送が中断されてしまうかもしれない状況だという。誰でも程よく楽しめる噛み砕いた脚本と演技巧者による感情や状況がしっかり伝わる芝居の秀作だけに惜しい。いつまで続くかわからないけれどいまはただ楽しもう。

 

キャラの色分け考察

さて、今回はもうちょっとだけ書いておきたい。
駒(門脇麦)、東庵(堺正章)、菊丸(岡村隆史)たちオリジナルキャラパートのことを。
今川義元(片岡愛之助)の頼れる家臣・太原雪斎(伊吹吾郎)が病死して、その秘密をしばらく公にできないため、東庵たちはしばし足止めを食らう。治療をしていた東庵が毒殺したんじゃ……と疑ってしまうのだが……。
そこへ成長した竹千代こと松平元信が登場(かわいい竹千代じゃなくなって残念)。いつの間にか菊丸と彼は知り合いになっていて(もともと菊丸は徳川派)、美濃情報を語る4人を見ていたら、なんかこの人たち仲間じゃね? と思ってしまった。その証拠がピンク。「麒麟がくる」では風水の五行相剋を参考にキャラの色分けをしていて、光秀は青、信長は黄色、秀吉は白になっているそうなのである。元信はピンクの着物で、東庵がピンクの巻物をしていて、菊丸もうっすらピンクの着物を着ているのだ。五行相剋の青、赤、黄、白、黒にピンクは入らない。だからこそ新たなグループ感があるように思う。このとき駒だけピンクを着ていないが、彼女の代表的な衣裳にはピンクのものもある。そんなこと言い出すと、光秀の妻煕子(木村文乃)も、どピンクなので考え過ぎだとは思うが……。ともあれ東庵は絶対怪しい。それともミスリード要員なのかなあ……。気になる!

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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