「ハケンの品格」前シーズンを徹底考察。コロナ禍で派遣切りも。あの一匹狼はどう出る?

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、働き方が変わりつつあります。一方で、在宅で働けるのは社員だけという声も。コロナ禍の派遣切りも進んでいるといいます。篠原涼子主演「ハケンの品格」が大流行したのは13年前のこと。新「ハケンの品格」放送前にシーズン1を徹底的に考察します。
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全話平均20.2%、最終回は26.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した「ハケンの品格」(日本テレビ 水曜夜10時)の新シリーズが今春よりスタートする。本来は、今日(4/15)開始予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になり、今週来週の2回は「スーパーハケン・春子(篠原涼子)の歴史を振り返る春子の歴史に迫る特別編」(公式サイトより)が放送されるようだ。そこで、2007年(13年前!)放映のシーズン1を振り返ってみる。

「ハケンの品格」は「Doctor-X 外科医・大門未知子」のプロトタイプ

脚本は「Doctor-X 外科医・大門未知子」(テレビ朝日)等を手掛ける中園ミホだ。「Doctor-X」と同じく、オープニングには田口トモロヲのナレーションが流れていた。
「驕れる正社員は久しからず。今や派遣なしに会社は回らない」

確かに回らなかった。老舗食品商社「S&F」は、篠原涼子演じる主人公・大前春子に頼りっぱなしだった。クレーン車の免許や助産師等の資格を生かし、その場で起きるトラブルを次々に解決してきた彼女。時には代議士3人を当選させたウグイス嬢のスキルや、魚市場で働いて習得したマグロ解体の技術で絶体絶命のピンチを救うこともあった。会社のエレベーターが故障し、「昇降機検査資格者」の技術まで持ち出してきたときは笑うしかなかった。ここまで多くの資格を持つ人材と言えば、パッと思いつくのは大前春子と堂本光一くらいである。

周囲の正社員は、春子を頼りにし始める。「あのスーパー派遣社員に任せれば失敗はない」と。まさに「私、失敗しないので」の大門未知子(米倉涼子)と同じタイプなのだ。「ハケンの品格」は、フリーの一匹狼を描く「Doctor-X」のプロトタイプと呼べる作品である。

小泉政権の規制緩和を憂う小泉孝太郎

ドラマは正社員と派遣社員、どちらの立場にも共感できる作りになっていた。

嘱託社員の小笠原繁(小松政夫)の契約が切られそうになると、“アンチ派遣”の東海林武(大泉洋)は「小笠原さんを切るなら派遣を切ろよ」と激昂した。しかし、パソコンを使えない小笠原は会社のお荷物になっており、彼が自分の待遇に甘えていた側面は否定できない。春子の「派遣は3ヶ月に1度、リストラの恐怖に晒されるんです」という言葉は、派遣社員全員の気持ちを代弁していた。

未熟な派遣社員だった森美雪(加藤あい)は、最終的に契約更新を断った。自らが立ち上げに関わるプロジェクトが軌道に乗り、職場でようやく人間関係を築くことができた彼女。しかし、美雪は紹介予定派遣を利用して正社員を目指すと決意するのだ。9話で美雪は「契約があと3週間だと考えると何も手につかない」と漏らした。今回は大丈夫だったとしても、次の3ヶ月後に更新できるかはわからない。安定した雇用形態を求める彼女が選んだのは正社員の道だった。

春子は職場での人間関係を頑なに築こうとしない。意図的に周囲と壁を作っていた。派遣社員になる前、銀行に勤めていた頃は明るく、職場のムードメーカーだったという。しかし、他行との合併時に春子はリストラに遭った。その後に働いた魚市場は肌に合っていたが、今度は雇い主の都合で1年で首を切られた。「ずっとここにいれるかと思っていた。みんなと別れるなんて嫌だ」と泣き出す春子は、クールを装う“スーパー派遣社員”の姿とあまりにも違う。
「3ヶ月以上の契約はしない」と頑として譲らない春子。それ以上の期間働くと、別れが辛くなることを知っているからだ。密な人間関係を築いたとしても、自分にはいずれ別れが来る。だから、始めから仲良くしない。誕生日を祝われてもそっけなさを崩さず、1人になってから後でこっそり泣いたりする。ツンデレを自らに課したのは、派遣社員の宿命が理由だった。

「会社はホーム、社員は家族。派遣は赤の他人」が信念の東海林は、春子の存在が疎ましくて仕方ない。「俺は家族と仕事がしたい。どうしてこうなった」と荒れる東海林に、小泉孝太郎演じる里中賢介が答える。
「アメリカの市場原理を導入したからですかね。市場原理=自由競争=規制緩和……」
雇用の規制緩和を行い、派遣社員を増やしたのは小泉純一郎政権である。その息子が、父が行ったことを悩ましく思っている構図がエグすぎる。最終話で里中はS&F会長・宮部(大滝秀治)に「我が社はもっと派遣を導入すべきかと思うかね?」と問われ、「その答えは、まだ僕にはわかりません」と答えた。

派遣社員が増えると、メリットもあるしデメリットもある。正社員と派遣社員、両者の立場からこの問題を考えさせるつくりは、フェアだったと思う。

コロナの影響で大量の派遣切りが行われたばかり

前シリーズが終わり、「ハケンの品格」は続編を期待された。いかにも続きがあると匂わせる終わり方だったし、製作サイドもそのつもりだったと思う。その後、篠原は出産をし、落ち着いた時期が来ればシーズン2が始まるものとファンは思い込んでいた。
そして、2008年。リーマン・ショックの影響で大量の派遣切りが起こった。当時の状況とドラマの内容がそぐわないため、続編が見送られたという話も耳にしている。

13年越しの新シリーズ放送が発表された現在、正直、派遣社員の立場は当時より遥かに厳しい。さらに、新型コロナウイルスの影響で日本経済がどうなるか全くわからない状況だ。ハウステンボスが数十人を一斉に派遣切りした事実も明らかになったばかり。労働形態がムチャクチャになりそうな不安に日本が覆われている。
タイミング的には最悪かもしれない。でも、逆にタイムリーと言えなくもない。派遣社員のリアルを真正面から描くとしたら、シーズン2はとてつもない生々しさを孕むことになるだろう。

「ハケンの品格」
日本テレビ 水曜夜10時
脚本:中園ミホ 他
演出:佐藤東弥、丸谷俊平
チーフプロデューサー:西憲彦
主題歌:鈴木雅之「Motivation」(EPICレコードジャパン)
出演:篠原涼子ほか
https://www.ntv.co.jp/haken2020/

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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