考察「美食探偵」最終回 明智とマリアの過ごした空白の時間を今も考えている

新型コロナウイルスの影響で撮影が中断していた、東村アキコ原作の「美食探偵 明智五郎」も最終回。前回、奈落の底に落ちた明智が生きていた!衝撃のラストとSNSでも話題になった最終回、どう考察する?

「美食探偵 明智五郎」の最終回が6月28日に放送。こういっちゃあなんだが、このドラマが視聴率毎回20%超えの社会現象ドラマだったとしたら、この先ずっとみんなが考察し続ける、そんな最終回だったと思う。

明智とマリアは、落ちた穴の底で何をしていたんだろう

謎の穴に飛び降りて行方不明になっていた明智(中村倫也)とマリア(小池栄子)、実はマリアが用意していた命綱で生き延びていたことが判明する。帰ってきた明智が苺(小芝風花)に「疲れている」と話していたことから、落ちたあとの2人に何かあったはずなのだが、これが全く見当がつかない。すごく重要な気がするのに。

ただ、マリアには変化があったように思う。今までのマリアは殺しに美学を持っており、明確な悪以外手にかけなかった。しかし、今回初めて無差別殺人事件を起こす。十分にタガが外れた生き方をしてきたマリアではあるが、ここでもう一線超えてしまったのだ。もしかしたら、飛び降り後の明智とのやり取りが影響しているのかもしれない。

シェフ伊藤がマリアを裏切った理由

苺と明智を招いた山小屋での最後の晩餐会。宣言通りマリアは明智の目の前で苺に毒を注入するのだが、シェフ(武田真治)が注射器のトリカブトをすり替えていたことで、苺はことなきを得る。では、なぜ従順だったシェフがマリアを裏切るような真似をしたのだろうか。

「これが君の望んだ人生か? 原宿のマエストロ」

一つは、直前の明智の言葉があったから。自分が人生をかけて作り上げた料理の味を理解する明智の言葉がシェフに刺さったのだ。また、明智をマリア側の人間と認めていたことから、明智の大切な苺を殺すことに抵抗があったのかもしれない。

二つ目は、マリアの暴走だ。シェフは、マリアに従順だが決して犬ではない。無差別殺人をするなど、一線を超えてしまったマリアに賛同できなかったのかもしれない。これを明智は、「ここにも希望があった」としている。明智が変えたい、救いたいと思っているマリアのすぐそばで、希望を見つけたのだ。

武田真治、火をも操る熱演

そしてもう一つ考えられるのが、「苺のムース」だ。

この直後、突入してきた上遠野警部(北村有起哉)にマリアが包丁で襲いかかる。それを高橋刑事(佐藤寛太)が躊躇なく発砲し、マリアは脚を撃たれてしまう。それでも怯まないマリアを止めようと高橋刑事がもう一度発砲すると、シェフは体を張ってマリアを守った。

上遠野を守るために躊躇なく発砲した高橋刑事が、考える前に体が反応した感があってメチャメチャ良かったのだが、何よりも武田真治が神懸かっていた。

撃たれたシェフに、明智がトリカブトの件について感謝を語る。すると起き上がったシェフは、口から耳の方に向けて血を流し、明智の肩を掴む。警察から当てられた強いライトが、シェフの白い肌と赤い血を映えさせる。

「デザートが仕上がってないんだ。苺のムースなんだ。うまいぞ」

これは強がりではなく、シェフの本心だ。死を悟りながらも、自慢の苺のムースを完成させたい、食べさせたい。そんな思いでシェフは起き上がり、厨房へ。その途中で、いつものように一服しようとタバコを咥えた。しかし、風に当てられたライターの火がタバコを避ける避ける。死ぬ間際の最後の力を振り絞ったライターが、まるで言うことを聞かない。それは、何事も思い通りに行かなかったシェフの人生のようだ。

無念、シェフは再び倒れ込んでしまう。シェフがトリカブトをすり替えた理由は、シェフが舌を認める明智と苺に、自慢の苺のムースを食べさせたかったからなのではないだろうか。

明智はマリアを殺したのか?

シェフが撃たれた後、白いバンで突入してきた桃子(富田望生)の計らいで、マリアと明智は2人きりになる。場所は、第1話でマリアが海に落ちた、あの崖だ。

「もう一度、神様が奇跡を起こしてくれたら、私を愛してくれる?」

一度崖から落ちながら、生き残ったマリアのセリフだ。警察や苺が駆けつけた時には、マリアはもういなかった。

苺は「明智さんがマリアを殺した」と推測していたが、あながち間違ってもいない気がする。おそらく明智は、飛び降りるマリアを救おうともせず、見殺しにしたのだろう。もう一度起きる奇跡にかけたのか、死ぬことがマリアの最後の自由だと考えたのかはわからない。明智は、マリアを救うことはできなかった。

だが、マリアが最後に見たのは明智やファミリーと楽しく暮らす夢。最後の最後でマリアは、自分の本当の願いに気づいた。明智はマリアを救うことはできなかったが、変えることはできたのだった。

受け取り手が考える“余白”が多かった最終回。僕としてはギリッギリでハッピーエンドだとは思うけど、みんなはどうなんだろう。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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