「ハケンの品格」3話。やりがい搾取のカレーと副業を模索する社員。アルバイトの献身は美談ではない

新型コロナの影響でようやく始まった、13年ぶりの「ハケンの品格」新シリーズ。スーパー派遣・大前春子が前シリーズでも働いていたS&F社に戻ってきました。ところがS&F社は、今にも沈みそうな10年前の価値観の会社に。副業を模索する社員に、朝4時起きでやりがい搾取のカレーを作るアルバイト。どちらにも共感する春子が取った行動とは?

やりがい搾取の上に成り立っていた絶品カレー

7月1日に、篠原涼子主演「ハケンの品格」(日本テレビ、水曜夜10時)の第3話が放送された。

オープニングでS&Fの正社員たちが話し合っていたのは、老後の生活に2000万円必要と言われる「2000万円問題」についてだ。給料は大して上がらず、働き方改革で残業代も稼げない彼ら。老後に備え、会社に秘密で副業をする方法を模索し始めた。

正社員と対象的な存在は、社食で22年間カレーを作り続けたアルバイトの牟田(六角精児)である。経費節減であっさりクビを切られた彼は、毎朝4時起きで安い食材を仕入れ、3時間半玉ねぎを炒めるために誰よりも早く出勤していた。S&Fの社食が誇る絶品カレーは、牟田の献身の上に成り立っている。コストを抑えるだけでなく、20年以上も上がらぬままの時給。報われない待遇でS&Fに尽くし続けた。結果、正社員は440円、派遣社員を含めた一般客は770円という安価でこのカレーは提供された。

春子「このカレーは無理なカレーです。掛かる時間と手間を考えたら、真っ赤な赤字です。本当はそんな値段じゃ出せないカレーなんです。安いバイト代でも文句1つ言わず22年。あなたたちがクビにした牟田さんの犠牲なくしては作れなかったカレーだったからです」
社長 「わからんな。単なるバイトがどうしてそんなことをする?」
春子「バイトが自分の仕事場を愛しちゃいけませんか?」

3話で描かれたのは副業を意識して業務をないがしろにする正社員と、薄給に不平を言わずこだわりのカレーを作り続けたアルバイトの対比だ。
「牟田さんはバイトでも何でもいいからずっとここで働いていたかった。勤務時間中に副業にうつつを抜かすそこら辺の社員と比べるのもおこがましい!」(春子)
どちらも褒められた話ではない。牟田に関してもだ。彼が作っていたのは、やり甲斐搾取のカレーである。賃金を一向に上げず、不満を言わぬアルバイトに付け込んできた企業に大きな問題がある。美談でも何でもない。しかも、牟田は使い捨てられたのだ。

S&Fに解雇された牟田は後に再雇用を打診されたが、それを断ってカレー屋台を出店した。賢明である。どう考えても今のほうが実入りは多い。しかも、彼の屋台は人気店として繁盛しているのだ。

この話にはオチがつく。カレーマニアの間で人気のブロガー・プージャの正体は大前春子(篠原涼子)だった。つまり、春子は派遣社員だけでなくアフィリエイトでも報酬を稼いでいたということ。仕事に全力で取り組む牟田と春子に共通点は多いが、将来の不安から副業を検討する正社員に対しても、彼女は密かにシンパシーを覚えていたはずだ。

ここからが本番! 大泉洋が遂に登場

はっきり言って、3話のピークは次回予告だった。「あの男が凱旋!」というテロップとともに東海林武(大泉洋)が登場したのだ。
「課長に就任しました東海林武です」(東海林)

チラッと一瞬映っただけで、ドラマの雰囲気が今までと全く違って見える。安心感! やっと、本番が来たという感じだ。予告だけで「東海林」の3文字がTwitterのトレンドワード入りしたのだから、彼に対する期待感は半端じゃない。

春子 「その髪の毛、雷に打たれたんですか?」
東海林 「打たれてねーわ!」

予告ですでに面白い。余計なことを極力言わない春子なのに、東海林には叩く小学生のような憎まれ口。屈折した愛情表現にしか見えない。東海林を好きなのがバレバレである。
ぶっちゃけ、前シリーズが面白かった理由の大半は2人の掛け合いにあった。次回から最終回まで、東海林にはずっと出続けてほしいと願うばかり。

宮部社長を「救世主」と信じる東海林

1つ気になっていたことがある。社長の宮部蓮三(伊東四朗)が不快過ぎるのだ。第1話で、東海林は宮部をこう評していた。
「あの人は間違いなく救世主だ。あの社長がいれば、必ずS&Fは息を吹き返す」
今のところ、そんな様子は微塵も窺えない。それどころか、古い価値観で会社を沈没させる疫病神に見えるのだ。新展開があるのだろうか。宮部には別の顔がある?

宮部は春子の存在を苦々しく思っている(ように見える)。東海林は入社してすぐから、ずっと宮部のお気に入りである。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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