「ハケンの品格」13年ぶりなのにアップデートされていない設定。コロナ以降をどう描く?

新型コロナの影響でようやく始まった、13年ぶりの「ハケンの品格」新シリーズ。スーパー派遣・大前春子が前シリーズでも働いていたS&F社に戻ってきます。とはいえ、今どきありえないほどのブラック企業に成り下がってしまったS&Fに、平成~昭和感のあふれる設定。第1話から見えてきた、新「ハケンの品格」が描くべき今の派遣事情とは?

全話平均20.2%、最終回は26.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した「ハケンの品格」(日本テレビ 水曜夜10時)の新シリーズが遂に始まった。初回なのに枠を拡大せず、1時間枠にきっちり収めた第1話。まるで、残業せずに定時で帰る大前春子(篠原涼子)のようである。

「今シリーズにも出る」と大泉洋が明言

なんたって13年ぶりだ。至るところで時の流れを痛感した。春子役の篠原も、里中賢介役の小泉孝太郎も、はっきり言って老けた。だからこそ、再会がリアルに感じられたのだ。S&F社に訪れた春子が里中に言った言葉は痛烈だった。
「どなたでしたっけ? 13年間、3月ごとにあちこちを渡り歩きましたので、いちいち正社員の顔と名前など覚えてられませんが、何か?」
額面通りに受け取れない。何しろ、前シリーズで契約継続を懇願する里中に「派遣で働いてきてそんなことを言ってくれる上司に初めて出会いました」と春子は言っているのだ。きっと、いつもの強がりだろう。

そして、現在は旭川支社に勤務する東海林武(大泉洋)とも春子は再会をする。「とっくり、お前何やってたんだ!?」「このくるくるパーマは何を言ってるんです?」と、憎まれ口を叩き合う往年のやり取りは健在だった。ちなみに、東海林は新社長・宮部蓮三(伊東四朗)のお気に入りだ。ということは、いつか本社に戻ってくる? 大泉は6月22日更新のブログで、「ハケンの品格」に言及している。

「ファンメール見てると、僕に(特別出演)って書いてあるから、一話しか出ないのではないか?と、心配してる人がいたけど、心配しないで、出るから(笑) 3話にだけ出ないけど、4話からは出ます。今撮ってる5話はヤバイくらい出ます(笑) それ以降も全然出ますから、御心配なく!!」

朗報だ。極端な話、春子と東海林の絡みがあれば「ハケンの品格」はなんとかなる。春子と、春子を敵視する(?)宮部の板挟みに遭う東海林は、後半のキーマンになると見た。そういえば、東海林はなんだかんだ情に厚い男だった。

ブラック体質へ落ちぶれたS&F

13年ぶりにしてはアップデートされていない内容が、どうしても気になった。入社式では応援団に扮した先輩社員が圧の強いエールを新入社員に送っているし、会議で正社員にお茶を出すのは女性派遣社員だったし。サービス残業は当たり前のように横行し、3ヶ月ごとの更新にハラハラする派遣社員もいる。里中はかつての活気を失った会社を蘇らせるために春子を呼び戻した。つまり、一流企業だったS&Fは時代の流れについていけず、ブラック企業に落ちぶれていたのだ。

そんなブラック体質の犠牲者になったのは、派遣社員の福岡亜紀(吉谷彩子)と千葉小夏(山本舞香)だ。人事部の上司から執拗に食事に誘われ、ベタベタとボディタッチされるなど、絵に描いたようなセクハラを受ける亜紀。その場面を目撃した小夏は人事部に告発をする。会社は2人を呼び出して監禁状態にし、脅迫まがいの尋問を開始した。

「派遣の君に親切にしてあげたのにハメられたと言ってる」
「そっちから誘ってきたそうじゃないか。挑発的な洋服で『契約更新してください』とか」

派遣社員からのクレームが、いつしか正社員を守り、派遣社員の首を切るための裁判と化してしまった。今どき、こんな会社はありえない。セクハラには敏感な企業が多いなか、こういう対応をしていたら一発アウトだろう。

そんな2人の窮地を救ったのは春子。鍵の閉まったドアをチェーンソーでぶった切って会議室へ入った彼女は、人事部の社員に言った。

「死ぬほど嫌な目に遭った次の日も派遣が笑顔で出勤するのは、生きるためです。生きるために、泣きたくても笑ってるんです。有給たっぷりの皆さんとは違うんです」

正直、現実離れした展開を安っぽく感じることもある。でも、だからこそストーリーは明瞭になり、春子の言葉は際立って重みを増す。29歳になり、不安を抱えて働く亜紀は、春子の言葉に救われたことだろう。

ただ、ちょっとやり過ぎた感もあった。資格を生かしてトラブルを乗り越えてきたはずの春子なのに、今回講じた策はただのチェーンソーである。あれじゃ、ただの乱暴者だ。てっきり鍵師の資格を持っていて、ピッキングの道具を手に「鍵師の大前春子です!」と言ってくれると思ったのに。
七輪で干物を炙っただけでロシア企業と商談が成立したくだりは、もはやファンタジーだ。そもそも、S&Fのブラック体質も現実離れしている。設定の古さ、脚本の粗さにつっこみたくなってしまった。

「ハケンの品格」にはコロナ以降を描く責任がある

新型コロナウイルスの影響で、「ハケンの品格」は2カ月遅れでスタートした。それまでは完全なる売り手市場だったものの、コロナ以降は雇い止めや派遣切りで経済が疲弊している。撮影開始時と現在とでは派遣社員の立場が全く違う。なのに、第1話が描いたのは平成~昭和の世界観だった。

派遣社員がテーマのドラマだ。今を反映した働き方を描く責任が今作にはあると思う。これはマストだ。クランクアップまでにはまだ時間がある。この時代をどうストーリーに組み込むのか、期待して最終話まで追っていきたい。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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