最高にマイペースな結婚をしよう!

【真船佳奈】#4 今年末こそ大掃除したい恐ろしき自虐癖

telling,の人気企画「ぼっち旅」シリーズの作者で現役テレビ局員の真船佳奈さんの結婚式までの道のりを、ご本人によるリアルタイムドキュメンタリー形式で追っていく連載「最高にマイペースな結婚をしよう!」。今回は年末ということでちょっと脇道にそれ、真船さんが結婚前に「大掃除」したいものを挙げてもらいました。それは、ズバリ「自虐」。自虐ネタの名手(?)である真船さんが結婚を機に決意したこととは――?
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こんにちは。いやもう気づいたら年末やんけ。8歳の夏休みテンションで「宿題やらなきゃ~」と思っていたのに、30歳の冬やんけ。時空どうなってんの。

今回のテーマは「年末に大掃除したいもの」。
と言っても、「部屋中に散らばってモルモットの如く丸まっている汚いパンツ」などリアルに掃除したいものを書き連ねてもしょうがないので、今年中に整理したい感情の話をしたいと思う。
(「次回は結婚式場選ぶ話〜」って言っといて思いっきり嘘ついてすいません)

結婚を機にどうしても捨てたい自虐癖

私が今年中に大掃除したいもの、それは「自虐癖」である。
数年前に私はテレビ局のADとして働いていた。当時は汚いキツイ苦しいの3K職業。その上びっくりする程ポンコツだったため、毎日のように怒られていたし、(自分はダメだなあ)と自責して生きていた。現実を正面から受け止めていたらどうにかなりそうなので、失敗を自ら面白おかしく語ることによって自分を守ってきた。

その自虐はだいぶ私を守ってくれたし、結局はそれが作風となって漫画家デビューすることもできた。
人をいじる笑いが苦手だが、自分はいくら削っても誰も傷つかない。

さらに、自虐は人間関係を円滑にする効果もある。
女子同士の「褒めあいの空気」に巻き込まれそうになったら、「私のセーターみて!毛玉だらけ!筋子かってくらいブツブツしてんの!」と求められてもいない自虐をかます(※本当に毛玉だらけだった)。

私が主催したある合コンの時は、盛り上げようとするあまり開脚大回転をして伝説となった。
あれが人生最大にスポットライト当たったときかもしんねえってくらい、伝説のストリッパー最後のステージかってくらい大回転したよ。
「身を削ってるね」と笑ってもらえたら鰹節のように削られた私の半生が昇華する気がした。

自分の股関節の柔軟性に気づいた合コン

さて、いいことだらけの自虐であったが、困ったことが起きた。
自分のことを文章化するときも自虐が呪いのように消えないのだ。

ぼっち旅の連載を始めたときには彼氏もいなかったので、自虐全開で頭のねじを吹っ飛ばした記事を書いたところ、バズった。
「このまま独身を貫いて!」とご意見もいただくようになり、そうだよね、独身のやぶれかぶれの自虐節じゃなきゃ読まないよね…と思うようになった。

その後彼氏ができ、結婚まですることになった。
諸手をブンブン振って「よっしゃ今日も頭おかしいこと書くでーーーーー!脳みそぶっ飛ばすで!」みたいなテンションでもなくなってきた。
夫は私が何を書いたって文句を言わない、むしろぶっ飛んだものを期待している側の人間だが、私がだんだんと文章で無理をするようになった。

本当は私、夫のことがだいすきなんだよおおおおおおおお!でも、そんな偽りなきくそノロケを面白く描く自信がないいいいい!

夫の寝顔を見ては「え?!ラッコ?!子犬ちゃん?!ねえどっち?!どっちなのよ!!!」とパニックを起こすほどに可愛いと思っているし、夫の帰宅がうれしすぎて自作ダンスを踊って待ち構えたりもする。夫の髪の毛に鼻をつっこんで「ファーゴ!ファーゴ!」と頭皮のにおいをかぐのが好きだし、外出時は「お金払ってもいいんで手をつながせてください…」とお願いをし、結局払わないという詐欺行為の常習犯でもある。

ちなみに、夫からはめっちゃくちゃにウザがられている

でも、そんなくそみたいなノロケは2008年に戻って前略プロフィールに書き綴ってくれってみんな思ってるはず!アメブロランキング4億9500位だろ!自分が幸せアピールで「おもろくな!」って思われるのがすごく怖いいい!!!!!

いつの間にか開脚大回転よりも幸せを公言するのが恥ずかしくなってしまっていた。どんな逆転現象。
いいことだらけだと思っていた自虐行為は知らず知らずのうちに私を削り取って消費させていた。

そんな中、先輩の佐久間さんと対談をする機会があり、悩みをぶちまけた。対談の後、先輩から「これ聞いてみて、大事なこと言っていると思う」と紹介されたのが、漫画『腐女子のつづ井さん』(私も大大大好きな作品)の作者つづ井さんが、自虐について語ったラジオ番組だった。

ご存じ『腐女子のつづ井さん』では、2次元や3次元の推しを愛す主人公と発想力が無駄に豊かすぎる友人達との日々が描かれている。推しの声を発するために、鼻にイヤホンを突っ込んで口から再生させたり、推しキャラの身長の高さを示した付箋を壁に貼り妄想にときめく日々などヤバくもめちゃくちゃ面白い紙一重な日常だ。

最初は「彼氏いないですエヘヘ」的な笑いが多かったけれど、最近は「それでも超幸せ!」という内容が増えてきて、より魅力的な作品になっていた。

実はその背景には、自虐をやめるという強い決心があったという。

ラジオの中でつづ井さんは本当は幸せな日々を送っているのに、「彼氏いない独身女性が幸せであるはずがない」という周りの攻撃を受け、先回りして自虐することですり減っていた、とおっしゃっていた。

本当はとても幸せなのに人の気分を良くするためにへりくだって、消費されて。
それは同じような女性を「いじってもいい」という土壌を作ることにもなっていたかもしれないし、自分と楽しい日々を過ごしている友人たちにも、読者にも申し訳ないことをしていた、と。

いや、もう私超涙…
語彙力…って感じだけど、もう超涙。

私も自虐は自分以外誰も傷つけていないと思っていたけれど、そうではなかったなあと。

謙遜が美徳とされる日本人の我々は実によく、知らず知らずに自虐をしている。

「お子さん優秀ですね」と褒められたら、たいていの母親は「いやいや、やんちゃで…」と謙遜するし、子供もそんな自虐を聞いて育つ。
「きれいだね」と言われて素直に受け取る女は裏で「調子乗ってる」と言われているのを見るし、ただの自慢話に視聴率がないことも学んでいく。

そうやって育って、「結婚」という一種のわかりやすい幸せを手に入れると、「幸せなんですね、へえ~よかったね(おもろくな!)」と思われそうでめっちゃ怖い。
他意なく「新婚生活はどう?」と聞かれても(やべえなんか面白い話しなきゃ…喧嘩した話すっかな…)という気持ちになる。そうなってくると本当はめっちゃ大好きな夫のこともけなす場面が出てきて、(はて、私がしたかったことはこれなのかな?)と思うようになり。

なんかこういう自虐の連鎖を一生見てきた気がする

今後の文章には夫大好きオーラがあふれ、「まぢ夫ぴっぴと最強の夫婦だしワラ☆彡」とmixi日記のような表現があふれるかもしれない。そういった表現が、一部の人には違和感を感じさせることもあるかもしれない。

でも偽りなく本当に幸せなことを「幸せ」と発するのが、物書きの端くれである使命でもあるし、周りを大事にしながら仕事をしていくことかと思っている。そしてその偽りのなさが私の文章を通して人々に伝わって、「かわいいね」と言われた子が素直に「ありがとう」といえるような世の中になったらハッピーだな、と思う今日この頃である。

ま、そんなに影響力、ねえんだけどな!(2019年最後の自虐〆)

(次回へ続く)

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【真船佳奈】#3 (役所の)君に届け、結婚届【漫画付き】 【真船佳奈】#5 嫉妬心とうまく付き合うために夫のパンツを作った話〈前編〉
テレビ東京社員(現在BSテレ東 編成部出向中)。AD時代の経験談を『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』(朝日新聞出版)にまとめ、2017年に漫画家デビュー。ツイッターアカウントは@mafune_kana
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