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【真船佳奈】#7後編 スプレーアートの本場でついに本気出す【ぼっち旅】

英語力に不安の残るまま、「スプレーアート体験」の英語ツアーに参加した真船さん。後編では学級崩壊がはじまり、ボブマーリーのつもりが、結局あの芸人の似顔絵に仕上がりました。

●#7 本場のスプレーアートを体験したらとんでもないことになった件〈後編〉

ここに来て先生の遅刻が響く

しばらく練習をした後、ボブは携帯の画面を見せながらウーピーに何かを言い始めた。
どうやらバンクシーの絵を見せながら「もっと本格的な技術を習得したい」と言っているようなのだ。
講師は笑いながら「この体験レッスンじゃ時間がないから、そこまではできない。それステンシルを使っているし…」的なことを言っている。
それもそのはず、先生の遅刻のせいもありまだ数字を塗っただけなのに1時間が経過。レッスン時間の2/3が終了しているのだ。
第一、4千円でバンクシーの技術を学べると思うなよ!

すると彼は、「もう僕は習得するのを諦めた、先生が描いた絵が見たいよ」みたいなことを言い出す。
「こういう絵かけないの?」と、また別のアートを見せた。
(いいから早く練習させてくれよ)と思っていたが、ウーピーはニヤリと笑い、私たちが一生懸命描いた唯一の作品(数字)の上に大作を書き始めた。

あ、先生、我々が一生懸命塗った数字が……

10分後、素晴らしい作品が出来上がった。
ボブは大変満足そうである。マリーもニコニコと作品を見ている。
ウーピーもやっと実力を披露できて嬉しそうだ。
よかったよかった、じゃあレッスンに戻ろうよと思いかけたその瞬間、ボブがまた新たなウォールアートの写真を提示した。

これは完全にまずい流れである。

ボブに異変が「これは完全にまずい」

見せていたのは「ボブ・マーリーの壁画」であった。
彼らの名前が「ボブ」と「マリー」だからなんだろうか。うるさいわバカ!
お手本の絵をみたところめちゃくちゃ時間がかかりそうなのでウーピーも流石に断るだろうと思っていたのに、腕をブンブン回し始めているではないか。独壇場じゃねえか。これは完全にまずい。

そこからしばらく、私たちはボブ・マーリーの制作過程を見守りつづけた。いつの間にか戻ってきたホームレスのおじいさんもボブ・マーリーを見ている。

(あんたの彼氏の責任だよ、なんとかしてよ)とマリーたんの方を見たら、完全に飽きた彼女はずっと携帯ゲームをしていた。

あんた、ボブ・マーリーじゃなくて彼女をもっと見てやんなさいよ、と不安になる。
ボブも彼女の異変には気づいてはいるが、完全にウーピーを乗せてしまった以上、もう戻れない。

1時間後、大作が完成した。

間寛平である。

ウーピーは自らの手で作品を仕上げた達成感で大興奮している。
その隣で画面を見せ続けただけのボブも凄まじいやったった顔をしている。
お前、なんもやってないだろ!
私とマリーたんは、心無い拍手を送るのでいっぱいだった。

急にやってきた自由時間

時間がないことに気づいたウーピーから突然「好きな絵を書くように」という指令が下る。
あんた、そんな急に戦場に放り出されても、こちとら銃弾の込め方すら習っていないのよ!
オロオロしながら、3人順番こに絵を描いていく。

なんなら、もう描く場所ないやん。

平和を壊さないスペースの使い方に悩むジャパニーズな私を差し置いて、ボブがスプレー缶を取った。
そして、先生がさっきあんなに苦労して描いてくれた夕景の海の上にスプレーをぶちまけていった。

「こっちの方が海っぽいぜ!」
あんた、さっきまでの敬意はどこいっちまったんだよ。

ボブの暴走に続けとばかりに、私も赤のスプレーを手に取り、絵を書く。
「This is Fish」
この講座で発した最初で最後の英語だ。

マリーたんも、彼氏によくわからないものを見せつけられ続けたストレスからなのだろうか。スプレーから絵具が出ただけでキャッキャしていた可愛さはどこへやら、先生の描いた絵の上に無言で青い魔方陣を描いていった。

こうして最後は先生の力作を破壊し尽くすという学級崩壊状態で講座は終わった。

先生にも思うことはあるみたい

こうした反乱により、盛大なゴミを作り上げたボブとマリーは、「じゃあ、バイナラ」と去っていった。
その場に取り残されたウーピーと私は、片付けをし始めた。
「この作品いる?」と聞かれたが、首を横にふった。
さて帰るかという時に、先生の携帯画面に映る萌えショタキャラに気づいた。
え?とじっと画面に見入ってると、先生が何やら語り始めた。
多分、「日本のゲームが大好きで大好きで、こういう絵を書くのが夢なんだよね」というようなことを言っており、好きなキャラの絵を見せてもらった。

見たこともないキャラクターである。
先生のウォールアートの方がよっぽどうまいのだが、彼女は彼女で思うところがあるんだろう。
最後に強制的にインスタをフォローさせられて講座は終了した。

そんなわけで、最後の最後まで何言ってるかわからなかったけれど、
脳内アフレコでだいぶ楽しむことができた。
日本語のツアーではなかなか味わえない体験が安価でできるのでオススメである。
「サム子のウォールアートを持ち帰ってくる」と約束していたにも関わらず、ただのゴミを作ってしまったことは申し訳ない限りだが、
サム子のウォールアートだったら、どっちにしろゴミだったとも思うのだった。

  • サム子 in NYではなく、マンガ家の意地を見せてもらいました(?)
  • 次回はぼっち旅を盛り上げる最強アイテムをご紹介します。次回は1月6日配信の予定です。
テレビ東京社員(現在BSテレ東 編成部出向中)。AD時代の経験談を『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』(朝日新聞出版)にまとめ、2017年に漫画家デビュー。ツイッターアカウントは@mafune_kana
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