西村宏堂の“Out of the Box!”#20

家族の重圧に悩む人へ。ディズニー映画の主人公「ミラベル」に学ぶ完璧よりも大切なこと

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんによる連載コラム。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。サードシーズンは、映画や音楽、本、スピーチなど、宏堂さんの感性に触れた旬のコンテンツや名作を紹介。いま立ち止まって考えているあなたへ、 “見えない箱”から自分自身を解き放ち、勇気をもって新しい時代を歩むためのヒントをお届けします。
【西村宏堂の“Out of the Box!”#18】本当の成功とは? プレッシャーに押しつぶされそうな時に忘れがちなこと 【西村宏堂の“Out of the Box!”#19】あなたは自分が自由だと感じていますか? モロッコの友人と語り合った“選択肢のある社会”

新年度がはじまりました。みなさんはいかがお過ごしでしょうか?

私はイギリスから帰国して、逆ホームシックになっています。ロンドンにいるときは、もう少し気楽だった気がします。街を歩いていても「自分が他の人からどう見えているか」ということがあまり気になりませんでした。

ある日、地下鉄で向かいに座った子どもたちは、ヒジャブを被っている子もいれば、肌の色も深いブラウン、黄味がかったトパーズ、明るいクリーム色とさまざま。大人たちの装いも、赤いリップや大きな金色のイヤリング、オレンジのバンダナなど、とてもカラフルでした。

日本に戻ってくると、大多数の人が黒やベージュの服をまとい、肌の色もほとんど一緒。みんな静かにスマホを見ているといった感じ。そんな東京で、私は「自分は好きな格好をしているけれど、周りはどう思っているのかな?」なんて思ってしまいます。

日本人に生まれたからといって、決まった価値観のもと、似たような理想やゴールを追い求める必要はないし、本当は人がどう思おうと関係ないのに、なんだか周囲を気にせずにはいられない空気があるように感じます。

たとえ、似た色の肌に生まれて同じ言語を話していたって、それぞれの心の中に広がっている好きなことや生きたい人生は、カラフルなはずなのに。

家族や周りの期待が重いと感じる人へ

さて、20回を迎えた本連載は、サードシーズンに突入します。
そのはじまりとなる今回のテーマは「家族や周りの期待」。

みなさんは、家族や親族、周囲からの期待や重圧に悩んだことがありますか?

たとえば、家業をつぐこと。親の望む仕事につき、期待された働きを見せること。結婚して子どもをもうけること。生まれや立場にふさわしい(とされる)立ちふるまいや生き方を守ること──。

この世界では、たくさんの人がそうしたプレッシャーを抱えて生きています。私が出会ってきた友人知人たち、そして、住職として生きる私の父も、その子どもとしてお寺に生まれた私自身も、例外ではありませんでした。

今回のコラムは、誰かの期待に応えようともがいている人、そして人を育てる立場にある人たちに向けて、お話ししたいと思います。


映画『ミラベルと魔法だらけの家』にハッとした

先月、第94回アカデミー賞の長編アニメ映画賞に、ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』が輝きました。同作は、南米コロンビアを舞台に、不思議な魔法の家に暮らす少女の活躍を描いたミュージカルファンタジー。

この映画、私はまさに“Out of the Box!”な作品だなと感銘を受けました。舞台、キャラクター、キャスト、ストーリー展開など、あらゆる点で旧来の作品とはひと味もふた味も違ったから。

同作では、ラテンアメリカやコロンビアの文化を背景に、ダークトーンの肌をしたラテン系の登場人物たちがイキイキと描かれます。たとえば、主人公のミラベルは、くるくるの黒髪で背の低いメガネっ子。ギリシャ神話の英雄ヘラクレスのように力持ちの姉ルイーサは、従来なら男性キャラクターが割り当てられていたでしょう。アフロ系の容姿を持ついとこのアントニオも大活躍します。

これまでの物語って、素敵に描かれるのは、明るい肌の色にすらりとした体型のプリンセスやヒーローばかりだったでしょう? そうした物語にずっと疎外感を感じてきた子たちが、今回は「自分にそっくりの子が出てる!」「自分みたいな子も物語の主役になれるんだ!」と大喜びしたという話を知り、うれしくなりました。

ストーリー展開も「王子様のような男性と結婚=めでたしめでたし」という型からは遠く、美しさや女性らしさ、生き方などをめぐって、古い価値観にとらわれない描写が随所に見られます。さらに、声優キャストとしてコロンビア系やLGBTQ当事者らも参加し、その多様性も話題になりました。


「家族の誇りになりたい」ミラベルの感じる重圧

本作は「家族の期待」が大きなテーマとなっています。

主人公ミラベルは、魔法の力を持つ一家に生まれながら、唯一魔法を使えず、才能に恵まれた家族への劣等感を抱えています。自分だって「家族の誇りになりたい」と願うも、一家の長である祖母アルマからは「おまえは何もしなくていい」と言われ、失敗しては失望され、空回りする日々。

一方、ミラベルにはまぶしく見える家族たちも、実はそれぞれに重圧を背負っていることが明らかになります。家族や町のみんなの役に立ち、期待と信頼につねに応え、周囲が望む生き方をしなければ──と。

そうした彼らの姿に、私は身近な人たちの像が重なり、胸がギュッとなりました。

家業をつぐかどうか悩み、絶縁覚悟で家を飛び出した友人もいれば、結婚や孫を望む親のプレッシャーに苦しむ友人もいます。私自身、子どもの頃から「将来は当然お坊さんになるんでしょう?」「いつ頭を剃るの?」などと言われ、とてもイヤでした。

住職として生きる私の父の姿も重なりました。幼い頃、僧侶になるべくして養子に入った父は、今も自分自身にお坊さんらしい(とされる)立ちふるまいや装い、生き方を厳しく課しているように見えます。まるで、周囲の期待やイメージに沿って生きているみたいに。

自分を閉じ込めていたのは自分自身だった

私はミラベルとは違って、小さい頃からつねに「お寺は絶対にイヤ!」と主張していました。そんな私に、父はいつも「自分がやりたいことをやりなさい。それが一番上手くいくから」「西村という家族は私たち3人であって、お寺じゃない。もし宏堂がお寺をつがないなら、誰かにお寺を託して、我々は引っ越せばいいのだから」という言葉をかけてくれていました。

そのように「私が自分らしくいること」を応援してくれる家族の存在があってもなお、私は社会や仏教関係者の目を気にして「伝統的なお坊さんらしさ」に悩まされていました。そんなときに、私は海外で出会った友だちのことを思い出し、こう思ったのです。

宗教によって同性愛者であることを否定されている世界の人たちに、「仏教はすべての人を認めているんだよ」と伝えたら、少しでも気が楽になるのではないか。そして、私が自分らしくいる姿を見せることによって、希望を持ってもらえるのではないか。その姿は、今まで社会がお坊さんに期待してきた姿とは異なるかもしれないけれど、誰かを助けることができれば、私は社会や周りの期待をいい意味で裏切っていける──。「自分らしくいることが、人を助けることになる」と確信したとき、私は自分らしく生きる決意ができたのです。


周りの期待に応えるよりも大切なこと

プレッシャーに苦しむ子どもや大人たちに、私が問いかけたいのは「自分の心を押し殺して、親や周りの期待に応えることで、本当に幸せになれるの?」ということ。

映画では、ミラベルに厳しくあたる祖母アルマの背景も描かれます。
つねに「完璧」を求め、伝統やプライドを大事にする彼女のふるまいは、内戦で夫を亡くし、もう二度と家族を失いたくない──という想いの強さゆえ。家と町を守る決意と責任感、愛情と恐れに、彼女は縛られていたのです。

みんなの背景や状況はさまざまだけれど、家族の言葉に従うことが家族を幸せにするとはかぎりません。大事なのは、みんなが自分の足で立ち、一人ひとりが自分らしく生きられること。それは言いかえれば、幸せになる責任は自分にあるということです。

そして、そのための扉をひらくきっかけになるのが「お互いに話し合うこと」なのだと思います。自分が何を求め、恐れ、どんな想いを抱いているのか。正直な気持ちをみんながオープンに話し合えたら、この世界はもっといい場所になっていくはず。私が思うに、これからの時代は、周りの期待に応えて「完璧」でいるカッコよさよりも、「話し合う勇気」を持つカッコよさのほうが素敵だし、大事になっていくのではないでしょうか。

人を育てる立場にある方は、どうか子どもや若者の言葉に耳をかたむけ、もし自分と考えが違うと感じたときには、自分が何を心配しているのかを伝えてほしいと思います。それでこそ、対話が生まれ、お互いを知るための歩みがはじまるから。

本当に大切なのは、みんなが笑顔でいられることであって、「自分の理想や期待に相手が応えているか」ではないと思うのです。

さて、ミラベルたちがどのように危機に立ち向かったのか。
そして、アルマおばあちゃんが最後にどんな気づきを得たのか。
魔法だらけの家の秘密とは?

ぜひご自身の目でストーリーを見届けてくださいね。

【西村宏堂の“Out of the Box!”#18】本当の成功とは? プレッシャーに押しつぶされそうな時に忘れがちなこと 【西村宏堂の“Out of the Box!”#19】あなたは自分が自由だと感じていますか? モロッコの友人と語り合った“選択肢のある社会”
1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”