西村宏堂の“Out of the Box!”

【西村宏堂の“Out of the Box!”#02】納得できないルールに心折れず、自分らしく前を向くには?

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQでもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに、人生の素朴な疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムです。タイトルの"Out of the Box"には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。 仕事、人間関係、恋愛、結婚、出産など、人生の各場面や岐路を前に、私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、世間の常識や枠にとらわれない宏堂さんならではの視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。

●西村宏堂の“Out of the Box!”#02

こんにちは、西村宏堂です。
第1回目の連載にたくさんの反響があったと聞いて、ほっとしています。
新型コロナウイルス感染症が拡大して、私たちの生活は一変してしまいました。
私も自宅で過ごす期間、たくさんのことを考えました。
新しい常識を私たちはどう受け入れていくべきなのでしょうか。
不安な日々は続きますが、今はただいっしょに前に進むことを考えましょう。

さあ、今回はどんな相談が届いているのでしょうか?

  • ●相談 #02
  • 入社した会社のルールになじめません。古い体質の会社なので、女性はブラウスとスカートのオフィスファッション。女性というだけで、お茶くみのような雑用や会議の議事録作成を当たり前のように頼まれます。能力や個性以前に「女子」としてカテゴライズされ、本来の自分を評価されていないと感じます。
  • さらに、始業前にはラジオ体操に強制参加。退社時間も周りを見ながら、上司より先に帰るのもはばかられる雰囲気です。新入りなので、チームになじむために我慢していますが、納得できないルールに心折れず、自分らしさを出していくにはどうすればいいでしょうか。
    宏堂さんは社会のルールとどのように付き合ってきましたか?

●宏堂さんのアンサー

納得できないルールに従わなければならない。そんな場面、人生にはたくさんありますよね。

学校や職場など、私たちが暮らす社会のコミュニティには、さまざまな規範やルールがあります。いろいろな人の集まる場が無秩序にならないために、意味のあるルールはたしかに必要なもの。しかし、中には理不尽な決まりごとや時代遅れの慣習が残り続けているケースも少なくありません。

「なぜ?」「ちょっと待って! 理不尽じゃない?」
そんな疑問が心に湧き上がっても、自分を押し殺さなければならなかった経験や、抗議の声を上げても「ここではこうやるものだから」「つべこべ言うな」「とにかく、これが慣例だから」なんて答えが返ってきた苦い記憶を持つ方はきっと多いのではないでしょうか。

納得できないルールと付き合いながら、憤りや息苦しさをどう御していけばいいのか。守るべき規範は守りつつも、自分らしく前を向くには?

今回は、私が今までの経験から学んできた"社会のルールと付き合うためのヒント"をお伝えしたいと思います。

まずはルールに従ってやってみる

僧侶になるための修行時代、私が経験したのは、何から何まで規律が決められた生活でした。一日のタイムスケジュールから服装、所作にいたるまで規律尽くめ。そんな修行時代を乗り越えた私からの最初のアドバイスは「まずはルールに従ってやってみる」こと。

ガッカリしちゃいましたか?
でも、ちょっと待ってください。「とりあえず、ルールに従ってみる」というのは「いつまでも自分を押し殺して、憤りや息苦しさに耐えていくこと」ではないのです。

 

後で振り返って、はじめて気づくこともある

慣れないルールに縛られると、最初は嫌に感じるかもしれません。
でも「これはこういうものでしょ」と分かったつもりでも、後で振り返ると、その時には見えていなかったことや成長してはじめて分かることも多いのだと、私は経験から学びました。

「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、まずは自分の価値観を脇に置いて、“省エネモード”でもいいから我慢してやってみることも大切です。

 

時間が経てば、状況は変わる

だんだんと仕事や環境に慣れてくると、自分や周囲の状況もおのずと変わってきます。

自分の意見を主張するには“タイミング”が大事。たとえ同じ内容の主張であっても、信頼や実績を積み、発言力が増したタイミングなら、耳を傾けてもらいやすくなりますし、以前とまったく違った反応を得られることだってあります。

 

規律尽くめの僧侶の修行時代に学んだ、ルールとの付き合い方

朝から晩まで規律尽くめだった僧侶の修行時代、私はいくつかの秘訣を学びました。

◆自分に近い感覚の人を探し、言葉を交わす
どんな集団にも保守派と先鋭派がいるように、いろいろな考えの人がいるもの。なるべく自分に近い感覚の人を探して、心にある疑問や意見を語り合ってみてください。話が通じる人との会話は心を安らげてくれます。

◆得意なことに力を注ぐ
人からほめられること、努力するのがそれほど辛くないこと、「これなら楽しい」と感じられることを見つけて、持てる力を注ぎましょう。得意な分野でポイントを稼ぐことができれば、自分を見る周囲の目が変わってきます。

◆苦手なことは謙虚に学びたいという姿勢を見せる
一方、苦手なことは謙虚に「教えてください」という姿勢を見せて助けを求めましょう。得意なことに励んでポイントを稼いでいれば、苦手なことがあるからといって厳しく非難する人は少なくなります。

◆決められたルールの中で“自分らしいこと”を見つける
たとえば、私は性別を問わず使えるジェンダーレスな数珠を身につけたり、お風呂で好きな歌を歌ったりと、少しでも“自分らしくいられること”を見つけて、心の支えにしていました。自分の個性を大切にすると、息苦しさがふっと和らぎますよ。

我慢の多い“新人時代”を乗り越えるには

新入りとして我慢の日々を送っている──そんな相談者さんのお話に、私は厳しい師匠のもとでメイクを学んだ修行時代を思い出しました。謙虚に学ぶ立場である弟子にとって、師匠の言うことは絶対。時には理不尽なことでさえ黙って飲み込むしかない場面もありました。そうした日々に私が心がけていたことがあります。

◆言われたことをすぐにやる“スピード”
◆役立ちそうなことを先回りしてやっておく“想像力”
◆苦手なことや失敗をカバーする“機転”
◆イライラを解消する“息抜き”

たとえば、早起きが苦手な私はうっかり遅刻してしまいそうなとき、気を利かせたふりをして師匠の好きなコーヒーを買ってから仕事場へ向かいました。結果、師匠に感謝され、遅刻扱いも回避。また、「そんなことまで私の仕事?」と感じるようなお使いの帰りには、おいしいおやつで息抜きをしたことも(笑)。

新人時代は苦労が多いですが、いつまでも続くわけではありません。謙虚な姿勢を大切に、時には機転と息抜きをうまく取り入れて、どうぞしたたかに乗り越えてください。

 

理不尽なルールには“自分らしい小さな抵抗”を

それでも、あまりに理不尽なルールや押しつけの価値観には、憤りを覚えるものですよね。

私は、性別や年齢、国籍、職業などで人を乱暴にカテゴライズして、個々の事情や反応を見もせずに、まとめて押しつけるような価値観が大嫌い。

理不尽だと思ったら、心の中まで従順である必要はありません。
ユーモアや反骨心をもって“自分らしい小さな抵抗”をしてみてはどうでしょう?

たとえば、女性というだけでお茶くみを頼まれたら、お茶を思いっきり濃くしたり薄くしたりして「私、お茶淹れるの、別に上手じゃないんですけど」と“無言の主張”を込めてみるとか。あるいは、ジェンダー平等に賛同してくれる同僚や後輩の男性を見つけて「彼の方がお茶を淹れるの上手いですよ」と、男性がおいしいお茶を淹れてみせたっていいかもしれません。

 

これからを変えていく力を、あなたは持っている

今ある社会通念は永遠に続くものではありません。私が伝えたいのは、自分の得意なことを磨いて発言力を増し、チームを育てることで「これからを変えられる」ということ。

古い価値観で凝り固まった人たちを変えるのは、たしかに難しいでしょう。けれど、価値観は時代時代でつくられ、変わっていくもの。

柔軟な頭の持ち主や話の通じる人を味方につけて、後輩や部下の良い面をほめ、気づきを与えて育てていく。相手に主張を押しつけて我を通すのではなく、あなたの行動が「みんなの心身の健康を考えているからこそ」だと伝われば、チームの心は動くと私は思います。

これからを変えていく力を、あなたは持っています。
「リーダーとなる自分たちがこれからを変えられるんだ」と気づいてください。自分たちが変わらなければ、下の世代は変わっていかない。そのことをどうか忘れないでほしいのです。

理不尽なルールに向けられたあなたの憤りこそが、より良い未来をつくる力の源になると、私は信じています。

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1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。日本語、英語、スペイン語を操るメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。独自の視点と経験から「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信。ミス・ユニバース世界大会などでメイクを行う他、ハリウッド女優からも高い評価を得、一般女性やLGBTQ向けのメイク指導にも力を注ぐ。国連、米イェール大学、早稲田大学など講演多数。NHK、BBC、英TIME誌、伊VOGUE誌などに取り上げられ、Netflixの人気番組「Queer Eye」にも出演。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”