西村宏堂の“Out of the Box!”

【新連載/西村宏堂の“Out of the Box!”#01】新しい環境で“居場所”をつくるには?

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQでもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに、人生の素朴な疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムが始まります。仕事、人間関係、恋愛、結婚、出産など、人生の各場面や岐路を前に、私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、世間の常識や枠にとらわれない宏堂さんならではの“Out of the Box!”な視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。
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はじめまして、西村宏堂です。

連載タイトルの“Out of the Box”には“常識や枠にとらわれない”という意味があります。自分の居場所が見つけられなかった中学・高校時代。内なる心の声にしたがい、夢を追って渡ったアメリカでは日々、山のような課題や言葉の壁に苦しみました。そんなとき、よく教授から言われたのが“Think out of the box!”です。

「こういうものだ」「こうあるべきだ」という世間の常識や一般的な考え方にとらわれて、本来自分が持っている自由な発想や欲求を見失っていませんか?
いつのまにか自分自身を箱の中に閉じ込めていませんか?

少しでも思いあたるなら、そんなときは心の声に耳を傾けてみてください。見えない箱から、自分自身を解き放ってみてください。
この連載を通して、“自分を自由に、楽にするヒント”をお伝えしていけたらと思っています。
さあ、第1回はどんな相談が届いているでしょう?

  • ●相談 #1

    春が苦手です。進学や就職で友人関係やコミュニティが変わるたび、居場所を一からつくらなければならないことが苦痛でした。自己アピールは得意ではないし、長く付き合わなければ、相手の良さなんて分からないと思います。慣れない環境の中で、どのように自分を出していけばいいのでしょうか。

●宏堂さんのアンサー

新しい環境って、不安になりますよね。進学や就職、異動など、春がひとつの区切りになる日本では、春から初夏にかけて憂鬱な気分の方も多いかもしれません。せっかく花々や若葉の美しい季節に、緊張や疲れで毎日グッタリなんてことも。特に今年は、新型コロナウイルスの影響でさらに心身の負担が増している方も多いのではないでしょうか。

かくいう私も、実はとても緊張しやすいタイプです。ミス・ユニバース世界大会のヘアメイクを担当するなど、国内外の大きな舞台で仕事をしているからか、さぞ度胸があるのだろうと思われますが、毎回、新しい現場に入るたびに緊張し、不安になります。初めての場所でみんなに積極的に話しかけて自己アピールするのも苦手。疲れちゃうし、ただそこにいるだけでオロオロしているのに、気さくに話しかけてワイワイ盛り上がるなんて、滅相もない(笑)。

そんな私だからこそ、今までの経験から学んできた“新しい環境で不安に負けずに居場所をつくるコツ”をみなさんにお伝えします。

準備が不安をやわらげてくれる

慣れない環境が不安で憂鬱。そんな方にまずオススメしたいのは、準備をすること。前夜の支度や一日のはじめ方にも気を配ると、安心や余裕が生まれます。

◆身だしなみを整える
ヘアサロンに行ったり、服のシワを整えたり。髪型や服装に嫌なところがないか、鏡の前でチェック。

◆シャキッとするような下着を選ぶ
心が弱っているときは、どうでもいいや、と感じるような着古した下着に手が伸びがち。相手に見えない装いにも、気分がシャキッとするものを選んでみましょう。

◆仕事道具の準備は万端に
たとえば、私ならメイク用の鉛筆をキレイに削って、取り出しやすく入れてあるかを確認します。忘れ物や不足がないかも必ずチェック。

◆お気に入りの持ち物を持つ
好きなペンやときめく靴など、気分が上がる持ち物を連れていきましょう。

◆相手を知る
接する人がいる場合、相手のバックグラウンドを資料やインターネットで調べます。相手が何を大事にしているかを知ると、驚くほど物事がスムーズに進むことも。

◆出かける前に少しの余裕を
一日のはじまりに余裕をもって、気持ちを振り返る時間があると、一日が上手く運びやすくなります。少し早く起きてゆっくり朝ごはんを食べ、気持ちを落ち着けてみて。

 

準備をしたんだという自信が大事

それでも不安ですか?
ミス・ユニバース機構の代表にオススメしてもらった本『The Confidence Code』(Harper Business)にこんな話があります。

男性に比べて、多くの女性はたくさん準備しても「まだ足りない」と感じ、「こんなに準備をしたんだ」と自信を持つのが苦手なのだとか。

できる準備をしたら、あとは「準備をしたんだ」という自信が大事。そして「自信があります」という態度を、たとえ偽りでもいいから見せる。そうすることが本当の自信を呼んでくるきっかけになります。

 

上手く過ごせた自分をイメトレ

さらに不安をやわらげるには、事前のイメージトレーニングにも効果があります。
一日を終えて部屋に帰ってきた自分が「今日は意外と上手くいったな。ああ、よかった。心配するほどじゃなかった」と安堵するところを思い浮かべ、その言葉を紙に書いてみてください。

私の場合、そんな風にイメトレしてから本番を迎えると、心が落ち着き、おおむね書いていた通りに過ごせました。もちろん、時には至らなかった日もありますが、準備した上でベストを尽くす気持ちで臨めば、恐れることはないというのが私の経験則です。

 

緊張することをポジティブに捉えよう

それでも毎回緊張してしまう私に、友人がこんな言葉をかけてくれました。
「緊張するのは大事に思っているから。どうでもいいと思っていたら緊張しない。緊張するのはがんばりたいと思っている証拠なんだよ」

緊張するのは真摯な気持ちの表れ。がんばろうと思えているなら、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて、肩を叩いてあげるようにしています。

そして、準備とともに大切なのは、“感謝”。
相手や機会への感謝の気持ちを持つと、人は緊張がやわらぎ、安心に変わるそうです。

 

現場に入ったら、とにかくベストを尽くす

さあ、いざ現場に入ったら──私がメイクの師匠に教わったのは、ベストを尽くすこと。
「とにかく一生懸命、ベストを尽くす姿勢を見せなさい。そうすれば、嫌に思ったり、批判的に見たりする人は少なくなる。新入りは“この子、本当にできるのかな”という目で見られる。だから、何より一生懸命やることが大事」

自分のがんばりが“正しいがんばり”かは分からなくても、その本気の姿勢を周りの人は見ています。

ミス・ユニバース世界大会で学んだ、新しい人との付き合い方

周りは面識のない人ばかり──どうしよう!
そんなとき、私はいつも3つのことを心がけています。

◆みんなに挨拶をする
◆相手の名前を覚えて、名前で呼びかける
◆相手を本心からほめる

さまざまな国から人が集まるミス・ユニバースの世界大会でも、この3つのアプローチは効果大でした。挨拶して、名前を呼んで、ほめる。とてもシンプルですが、いずれも相手に良い印象を与えます。

アメリカで暮らしてきた私が感じるのは、日本人はほめ合うのに慣れていない人が多いこと。「そのピアス、素敵ですね」といった小さなことでも大丈夫。ただし、思っていないことは口にせず、本心だと伝わる言い方が大切です。

 

自分を出そうと焦らないで

新しいコミュニティに入ったら、自己主張しなければ。そう焦っていませんか?
私は、無理して自分を出す必要はないと思っています。

振り返ってみると、アメリカでは、声を上げなければ困ることがたくさんあって、“自分を守るために自己主張する力”を鍛えられました。交渉相手はルームメイトだったり、隣人だったり。仕事でもそうした場面はあります。必要に迫られて交渉し、行動することでやっと道が開かれてきた。でもそれは、「空気を読む」「和を乱さない」「忖度する」「以心伝心」なんて言葉がある日本とは違う世界の話。

日本で大事なのは、伝え方だと感じます。
「あなたを大事に思っていて尊敬しているからこそ、言いにくい。でも、お互いにハッピーでいることがチームを一番良くしてくれる。だから、言いますね」と最初に伝える。相手への敬意が伝われば、言いたいことや言いにくいことも伝えやすくなるのではないでしょうか。

 

人とつながるということ

新しい環境に入ると、すぐに「友達をつくらなきゃ」「コミュニティに属さなきゃ」というプレッシャーがあるかもしれません。でも、焦らないで。

嘘をついて仲良くなったり、楽しくないのに一緒にいたりするくらいなら、独りでいる方がマシ。私は幼い頃からそんな価値観で生きてきました。つまらないから、寂しいから誰かに頼るなんてイヤ。自分の本当の心の声に耳をすませば、そんな答えが返ってきませんか?

周りの人と合わないのであれば、自分が先へ進むために、今できることをする。そして、時間がかかっても、話を聞いてくれる人や話が合う人を見つけられたなら、それは宝物です。

人とつながるというのは、ただつるむこととは違います。一緒にいなければ、手をつないでいなければ、関係が切れるわけじゃない。メールや通話でもつながれる。本当に心が通う人を見つけられたなら、そのつながりが居場所となって、あなたが歩むための大きな力になります。焦らずに、時間をかけてでも、そんな人をぜひ探してみてください。

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”