西村宏堂の“Out of the Box!”#03

【西村宏堂の“Out of the Box!”#03】人と自分を比べてしまう。友だちにコンプレックスや寂しさを覚えたら?

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQでもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに、人生の素朴な疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムです。タイトルの"Out of the Box"には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。 仕事、人間関係、恋愛、結婚、出産など、人生の各場面や岐路を前に、私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、世間の常識や枠にとらわれない宏堂さんならではの視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。

●西村宏堂の“Out of the Box!”#03

こんにちは、西村宏堂です。
ウィズ・コロナの時代、家にいる時間が増えると、今までできなかったことにチャレンジできますね。
私もYouTubeを始めてみたり、私なりの新しい楽しみ方を模索している最中です。
あなたは何か始めたことはありますか?おすすめのことがあれば、ぜひ教えてください。

さあ、今回はどんな相談が届いているのでしょうか?

  • ●相談 #03

    最近、一緒に食事したり、出かけたりする人の顔ぶれが変わってきました。一緒に過ごす時間が増えた職場の同僚とは日常の会話ネタには困りませんが、本当に自分を分かってくれるのは学生時代からの友だちだと思います。

    ただ、久しぶりに彼らと会うと、みんな自分に合った仕事や恋人を見つけて輝いているように見えて、何となく落ち込んでしまいます。どうすれば、人と比べずに「自分は自分」と思えるようになるでしょうか。自分自身が抱えるコンプレックスや嫌な部分を飼い慣らせたら、友情も持続できますか?

●宏堂さんのアンサー

気心知れたはずの友だちと久しぶりに話してみたら、何だか距離を感じる。自分には手の届かないものを手に入れていて、羨ましさがこみ上げる。相手がまぶしくて、自分の心がギュッと小さくなるような、そんな気持ち──きっとみなさんの中にも覚えがある方は多いのではないでしょうか。

今回のご相談、私はすごく共感できるなと思ったんです。

たとえば、仕事で親しくしている人と楽しい時間を過ごせても、だからといって何もかも正直に話せるわけではないし、仲の良い友だちから恋人や結婚の話を聞けば、「ああ、自分は遅れているのかな」と感じて寂しくなったこともあります。

私と違って、女性はおしゃれやメイクをしても「変態」と呼ばれないし、好きな人との子どもを産むことができていいな──なんて、羨ましく思ったことも。

人と自分を比べてしまって苦しいときは

人はつい、誰かと自分を比べてしまうもの。相手がまぶしく見えて、劣等感や寂しさや焦りを抱きそうになったとき、私はこんな風に考えるようにしています。

◆まぶしく見える相手にも悩みがないとはかぎらないと気づく

すてきな恋愛や結婚、かわいい子ども、輝かしい仕事など、自分に手の届かないものを手にした誰かの姿は、キラキラ輝いて見えますよね。
でも、そんな相手が幸せばかりで悩みがないとはかぎりません。
「隣の芝生は青い」という言葉があるように、どんなに順調に見える相手だって、他人には見えない苦労や心配、悩みがあるのが世の常。想像力を働かせましょう。

◆精一杯歩んできた自分のがんばりや選択を肯定する

まぶしい相手を前にすると、自分の存在が色あせて見えるかもしれません。
でも、今まで歩んできた軌跡を振り返ってみれば、その時々のベストを尽くしてきた自分がいるはず。時には迷ったり、失敗したり、疲れて休んだりしながらも、あなたは自分なりにがんばってきた。自分の精一杯の歩みを責める必要なんてないのです。

◆“足りないもの”より“持っているもの”に目を向ける

手に入らないものを悶々と数えるより、自分が持っているものに目を向けてみませんか? 
見方を変えれば、自分の境遇や個性、立場ゆえの強みがきっと何か見つかります。
たとえば、私なら、子どもを持つ人生のかわりに、日々のエネルギーやお金、時間を思う存分、仕事や好きなことに注げます。「それはそれでいっか」「かえってラッキーじゃない?」と思えば、気持ちが楽になります。

◆波があるのが人生

人生にはバイオリズムがあります。ハッピーなときがあれば、不調や不遇のときもある。
上手くいかないからといって、誰かと自分を比べて腐らないこと。相手や機会への"感謝"とポジティブな気持ちを忘れずにいれば、やがてまた良い波がやってきます。

 

無理して友情をキープしなくてもいい

心が通い合った相手は一生の宝物。いつまでも変わらずに親しくいたい──そう考えるのは、もっともかもしれません。

でも、私は無理して友情をキープする必要はないと思っています。

なぜなら、人も関係も変化していくものだから。人生の流れの中でお互いが変化すれば、おのずと付き合う相手も変わっていく──それが自然な姿ではないでしょうか。

昔からの友だちであっても、もし一緒にいて「なんだか無理をしているな、苦しいな」と感じるなら、しばらく距離を置いてみたっていいと思います。それで永遠に関係が切れてしまうわけではないのだから。大切な人であれば、お互いの状況が変わったときにでも、また連絡をとればいいのです。

変化がなければ、人生は短くなってしまう

何かを手放したり、変えたりすることは怖いと感じるかもしれません。でも、同じことばかりしていたら、人生はすぐに過ぎ去ってしまいます。

子どもの頃って、一日や一年がとても長く感じましたよね。その理由のひとつは、毎日が新鮮な驚きに満ちているから。私が耳にした脳科学のお話によると、大人でも慣れないことに挑戦しつづければ、一年をより長く感じることができるそう。逆に言えば、変化が少ないほど、人生の体感速度は上がり、つまりは人生が短くなってしまうのです。

 

新しいことや変化こそ、人生の醍醐味

せっかくの人生がいつの間にか、味気なく過ぎ去ってしまわないように、私はいつも新しいことに積極的に挑戦するようにしています。

今回の相談者さんのように、変わっていく友だちの姿にモヤモヤしてしまうなら、思い切って何か新しいことに挑んでみてはどうでしょう?

大胆に新たな環境へ飛び込んでみるもよし。日常の中で新しい分野の勉強やスポーツ、楽しい趣味をはじめてみたり、難しい仕事に挑戦したり、行ったことのない場所を訪ねてみたり──たとえ小さなことでもいいから、自分に"変化の種"をまいてみる。そうすると、人でも場所でも仕事でも、これからのあなたをつくる出会いが待っているかもしれません。

何かを変えたいと工夫したり、思いがけない出会いがあったり、誰かに影響を受けたり、驚いたり、ときめいたり──新しいことや変化を味わうことこそ、人生の醍醐味だと思いませんか?

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2020年7月28日発売

正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ

LGBTQであり、僧侶であり、メイクアップアーティストである西村宏堂の初エッセイ!他人と違う自分を受け入れ、自分の好きな自分で正々堂々と生きていく方法を提案する一冊。

著者:西村宏堂
発行:サンマーク出版
価格:1,430円(税込)

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”