本という贅沢。

30代のトップランナーたちが推す働き方バイブル

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。5月のテーマは「仕事」。モチベーションがあがる一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。05

30代のトップランナーたちが推す働き方バイブル

『自分の仕事をつくる』(西村佳哲/ちくま文庫)

仕事がら、経営者やプロジェクトのリーダーの方にインタビューする機会がよくあります。
彼らに「人生で影響を受けた本は?」と聞くと、50代以上の人は歴史小説(例えば『坂の上の雲』※1など)や経営者本(例えば『生き方』※2)を挙げる人が圧倒的に多いのですが、30代となると、男女問わずこの本を挙げる人が、一番多かった。

西村佳哲『自分の仕事をつくる』。
15年前に書かれた本です。
この本を読んで起業した、NPOを立ち上げた、地方に移住した、地方から東京に出てきた、といった人にこれまで何人も出会いました。

ライターとしては、こういう本は必ず読んでおかなくてはいけないのですが、この本に関しては、後述する“ちょっとした理由”で第一印象があまり良くなく、“積ん読”状態になっていたんですよね。

でも、今回のテーマは「仕事」。とすれば、「働き方のバイブル」とも言われ、ミレニアル世代に影響を与えたこの本は避けて通れないということで、やっと読みました。

読んで思ったのは、「あ、この本、今こそ読むべき本だ……」ということ。

というのも、2003年の時点で西村さんが感じた、仕事に対する違和感――
例えば
こんなにモノが多いのに、まだモノを作るべきなんだろうか とか
見栄えだけはいいけれど実際に使う人のことを考えたデザインかな とか
この仕事は本当に誰かの役に立っているんだろうか とか

そういう「仕事に対する違和感」は、当時、敏感なセンサーを持っている人たちだけが感じていたかもしれないけれど、2018年の今となっては、私たちみんなの違和感になっていると思うから。
自分の仕事に矛盾があると、人はちょっとずつ心をすり減らしていく。そのことにみんな気づき始めている。

西村さんがこの本で伝えようとした

「こんなもんでいいだろう、という仕事の仕方は、『自分自身を大事にしていない』ということだから、仕事をする本人自身を傷つける。その商品を手にした人にも『自分は大切にされていない』というダメージを与える」
というメッセージ。
これも、今の時代の方が、より強く私たちに刺さってくると感じます。

もし、今の仕事に疲れていたり、行き詰まっていたりする人がいたら、読むとその疲れの根本的な原因がわかるかもしれない。
逆に、今の仕事が楽しくて仕方ない人は、この先の人生に何が待っているのか、先人たちの道筋をチラ見できるので、よりわくわくするかもしれない。

西村さん自ら言っているように、「いい働き方とは何か」の答えは、この本には書かれていないけれど、だからこそ、誰もが自分の働き方と照らし合わせて、気づきを得ることができる本だと感じました。

  • ところで、どうして私のこの本に対する第一印象が悪かったかというと、「はじめに」にやたらに広告ページが多い雑誌のように、「こんなもんでいい」と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定してダメージを与える。というようなことが書かれていたから。

  • この本に出会った10年前、私はまさに広告ページがやたら多い雑誌の仕事をしていたけれど、でも、私もスタッフもみんな、1ミリの妥協もなく隅からすみまで心を砕いていたし、その仕事を「こんなもん」と言われ「人にダメージを与える」と書かれたことで、心が拒否反応を起こしたんですよね。で、「はじめに」を読んだだけで、ぱたんと本を閉じておりました。

  • ところが! それから10年を経て、文庫版でこの本を読んだところ、まさに私と同じ憤りを感じた読者の方が直接西村さんにメールを送っていて、それに対して西村さんが答えた返事というのが、そのまま文庫版のあとがきになっておりました。私が10年間もやっと感じていたことに対するアンサーをもらえた気持ちになりました。

  • 同じ時代に生きている著者さんの本を読むだいご味は、こんなところにあるなあと、しみじみ思ったものです。

※1 『坂の上の雲』(司馬遼太郎/文春文庫)
※2 『生き方―人間として一番大切なこと』(稲盛和夫/サンマーク出版)

続きの記事<“呪い”をといて「自分専用の幸せ」を見つける>はこちら

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美