私たちはいつまで“ガール”でいられるのか?
●本という贅沢。07
この書籍の単行本が発売になったのは2006年1月のことなのだけれど、私が読んだのは2008年3月のこと。
どうしてそんな昔のことをくっきり覚えているかというと、これを読んだのが、ある雑誌の取材で出張に向かう飛行機の中だったから。そしてその時、隣の席に座った編集さんが、バッグから同じ本を出して読み出したので、「うわーーーー!! 私も今、同じ本を読んでるっ!」とカバーを外して盛り上がったから。
『ガール』は、働く30代女子たちの日常を切り取った短編集。
生きるか死ぬかのような切羽詰まった話ではないけれど、でも、私たちにとっては生きるか死ぬかほど重要な、恋愛やら、出産やら、人事異動やら、離婚やら、昇格やらの物語。
同じ本を隣の席で読もうとしていた私たちは、共に32歳で独身でした。
彼女は人気ファッション誌の編集者で、私はフリーのライターで、ともに社会人になって8年目。責任のある仕事も任されるようになったし、自分の企画も通せるようになって、いわゆる社会人として「脂がのってきた」時期でした。
その一方で、彼女は長く付き合った男性と別れて途方に暮れていたし、私は私で、7年続いた18歳年上の夫との結婚生活を終えてバツイチになり、7歳年下の大学院生(!)と付き合い始めたばかりだった。
まさに、この『ガール』に登場する女子たちのように、「32歳、仕事は楽しいし、やりがいもあるけれど、これから一体どうするよ?」のまっただ中だったわけですよ。
私たちは、同じ本を読んでいたという親近感から、その出張中にいろんな話をしました。
子ども、欲しい? 欲しくない?
親、うるさい? そろそろ親にもいろいろ言われるよね。
年下彼氏も悪くないですよ。
でも、この仕事で、年下の男との出会いなんてなくない?
などなどなどなど。
まさに、この『ガール』の中で繰り広げられる赤裸々なガールズトークさながら、私たちは深夜まで盛り上がったものです。
この『ガール』では、働く30代女子が直面する、様々な問題が登場人物たちにふりかかります。
20代の時には考えなくてよかった問題にぶつかる女性たちのエピソードは、強烈にリアリティーがあって、「ああ、Aちゃんは、いまこれに悩んでいるって言ってたなあ」とか、「これって、まさにBちゃんのことみたい」なんて感じでどんどん感情移入していきます。登場人物全員が、「私の知り合いだ」と思えちゃうんですね。
でも。
ひとしきり、友人たちの顔を思い浮かべた後、はたと気付くわけです。
「あ、これ、全部私のことだ――」って。
そう、女って、立場が変わればオセロがひっくり返るように、昨日の彼女が今日の私になるんですよね。
ライバルが親友になったり、足を引っ張ると思っていた人が、自分の背中を押してくれたり。
それを作者の奥田さんは、こんな言葉で語っています。
「女同士は合わせ鏡だ。自分が彼女だったかもしれないし、彼女が自分だったかもしれない」
初めてこの本を読んだ時から10年たって、さらにいろんな経験をした今。
この言葉は、「本当にその通り!」と、腹の底から共感する言葉になりました。
女子が社会で働いていくときに、女子との付き合いは避けて通れない。そして、女子との付き合いが快適か不快かによって、仕事での幸福度って変わります。
だったら、それを楽しめるようになれた方がいいし、もし女子同士の付き合いに疲れたなら、一歩下がって俯瞰(ふかん)できると楽になるかもしれない。
そう考えると……。
この本は、働く30代女子のビタミン剤みたいな存在だな。そう思います。
ちなみに、あの日飛行機で隣に座った編集さんとの付き合いは、かれこれ17年目になりました。
今ではお互い、ワーキングマザーで、仕事で一緒になるたび、気のおけないガールズトークを楽しんでいます。
いや、もちろんもう、ガールとは言えない年齢だけれど。
『ガール』魂でつながった友情は長く続いているのです。
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