本という贅沢。12

around30。それはあらゆる女子の棚卸しタイム

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。6月のテーマは「恋愛」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。12

『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』(島本理生/幻冬舎)

この連載の6月のテーマが「恋愛」に決まった時、telling,編集長(30代)に「最近出た恋愛本で、おすすめありますか?」と聞いたら、熱っぽい感想とともに送られてきた書名が、この『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』でした。

初めて読む作家さんだったので、私、周囲の友人たちにこの本を知っている? と聞いてまわったんですよね。その時、「とても良かった!」と興奮気味に教えてくれたのは皆around30の女性たちでした。(まあ、n=4なのですが……)
40代の知り合いの中で唯一「この本を読んだ」と言った女性は、「ほほ笑ましくていい小説だよ。30代の子が読むなら面白いと思う」と、謎の上から目線の感想を送ってくれました。

そんな余計な先入観があったからか、読み終えて最初に思ったことは、「ああ、これ30歳で読んだらもっと面白かっただろうな」ということ。そして、鮮明に思い出した。30歳になる時、私たちが、どれだけわちゃついたか……ということを。

そう、同級生たちが30歳になる年、明らかに女子の友人たちは一斉にわちゃつき出したんですよね。私は友人が少ないのだけれど、そんな私に天からどさっと友人が降って湧いてきたってくらい、同年代女子からの飲みのお誘いが続いた。

どんな女子会も、話題はだいたい同じで
「今の彼と結婚?それとも別れる?」問題か、「しばらく恋をしていない」問題か、「仕事と恋愛どっちを優先すべき」問題。

around30は、女にとって揺れ幅マックスの瞬間なのだと思う。30歳を意識した瞬間、突然自分を棚卸しし始める女子が増えるのは、DNAが私たちに警鐘を鳴らしているのかもしれない。
「選択肢は年々減るぞ。まだ選べるうちに選ぶのだっ!」
あの頃、私たちはみんな、天からの声を聞いた気がして、人生最高にセンシティブになっていた。

……って、前置きが長くなっちゃったけれど、そんなaround30の特別な時期に読むと、この本はより深く刺さると思います。

バツイチの訳ありの男性と静かな恋を進める知世。
婚約者のいる彼に振り回される茉奈。
枕営業に腹を立てるフリーランスの飯田ちゃん。
夫や家族への愛を疑い始めた千夏。

映画の予告編のようなドラマがあるわけではない。だけど圧倒的にリアルな日常が描かれているから、自分と登場人物を重ね合わせることができる。似ているところ、違うところを点検して、その差分から自分の「らしさ」を知ることができる。
これこそ、私たちがaround30女子会に求めていたこと。
この本を読みながら私たちは、まるで女子会のように、自分自身の点検と棚卸しをしているんだな、と思います。

そしてリアルな女子会でも、この本の中でも。全員に共通することが、ひとつだけあって。それは「人は、自ら気づいた時にしか自分を変えられない」ということ。

この本の登場人物は、みんな一度ずつ「価値観の反転」を起こします。
4人の女性にそれぞれ、昨日まで信じていたものを手放し、今日から大切にするものを変更する瞬間があるのです。
そしてその瞬間はすべて、人からアドバイスをされた時ではなくて、自分自身が何かを発見した時に訪れました。

around30の皆さんなら、この本を読んでいる最中に何かを発見するかもしれないです。ひょっとしたら、自分が変わるきっかけになるかも……。

  • 最近読んで「30代の頃に読んでおきたかったな」と思った本は、ルミネの広告でもおなじみのコピーライター、尾形真理子さんの 『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』です。まだ間に合うみなさんは是非。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美