本という贅沢。15

料理だけじゃない。これは生き方を教えてくれる本

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。7月のテーマは「女を磨く」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。15

『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』(有元葉子/SB クリエイティブ)

嫉妬しかない。
書籍の企画・執筆に関わっている身として、これほどジェラシーを感じる本は、ありません。歯ぎしりしながら読んでいたら、治療中の歯が欠けて歯医者に駆け込んだくらい、嫉妬した。
私が毎日良い子にして、一生懸命世の中に役立つことをして、いつか書籍の神様が降りてきたら、こんな本を作ってみたい。
そんな要素がぎゅぎゅっとつまっている一冊だったなあ。ふぅ。

というわけで、今日は作り手目線でこの本を語りたいと思います。
まあ、聞いてほしい。

本作りの業界では、「いい書籍とは、読者に態度変容を起こさせる書籍」と、よく言われます。言い換えるならば、本を読んだあと(読んでいる最中)にいてもたってもいられなくなって、思わずそこに書かれていることを試してしまう。そんな書籍。
例えばビジネス書だったら、次の日から仕事のやり方を変えたり、ダイエット本だったら、その日から1日20回スクワットするようになったり。
そういった、実質的な「行動の変化」を促してくれる書籍は、実はそこまで多くありません。
皆さんも心当たりあると思いますが、大抵の本は、「やる気が出た」「明日から頑張ろう」どまり。だから人の態度や行動を変えさせる本は、それだけで価値が高いと言えます。世の中で売れている本のほとんどは、この「態度変容を起こすことに成功している本」です。
これが、“Aクラス”の書籍です。

でも、私は「態度変容を促す書籍」以上に価値が高い書籍があると思っています。
それは「人生観をがらっと変えてしまう書籍」です。
「パラダイムシフト」なんて言われたりもしますが、本を読む前の自分と、本を読んだ後の自分が別人になる書籍。この本に出会わなければ、私は違う人生を歩いていたと確信する本。細胞が入れ替わる本。
これは、“Aクラス”の書籍以上に希少価値が高い。毎日本を読んでいる読者でもそうそうお目にかかれない、“Sクラス”の書籍と言っていいでしょう。

そう。この『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』が、この“Sクラス”の書籍に当たります。

この本は、料理の作り方について書かれた本です。
この本を読んだら、レシピを見ないで料理を作りたくなって仕方なくなります。実際私も速攻でキャベツ買ってきて、たっぷり水にさらしてから、炒めた。今までと全然違う味がしました。おいしーーー! ここですでに読者の中では、態度変容が起こっています。

そしてさらに数日後、はっと気づくんですよ。
「レシピを見ないで作れるようになる」というメッセージは、単に料理だけの話ではないということに!

「レシピを見ないで作れるようになる」ためには、素材について、調理法について、本質を理解しなくてはなりません。
例えば、「炒める」とは「野菜の水分で火を通す調理法だ」とわかれば、炒める前にキャベツに水分をたっぷり含ませる理由がわかります。理由がわかれば他の野菜を炒める時にも応用がききます。
そして、「レシピを見ないで作れるようになる」という態度で毎日を過ごすことは、「本質を理解し、その都度自分の頭で考えて対処する」という態度で生きることだと気づきます。

この瞬間、この本は、料理の本であるだけではなく、生き方の本になります。
そう考えると、タイトルに「料理」という言葉が一切ないのも、味わい深い……。

レシピに頼らない人生を生きたいあなたに、是非。

  • この本同様、態度変容ののちパラダイムシフトが起きるタイプの書籍に、ミリオンセラーになった近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)があります。この本もやはり“スーパーSクラス”、です。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美