本という贅沢。17

ありがたいけど鬱陶しい。矛盾の存在、それは母。

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。8月のテーマは「母と子」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。17

『逃げたい娘 諦めない母』(朝倉真弓 信田さよ子/幻冬舎)

ここ数年、突然、人様の母親の話を聞くことが増えました。

というのも、私は『女の運命は髪で変わる』という本を書いたことがあり、書籍ライターとして仕事をする傍ら、女性向けのヘアスタイルアドバイスをしたり、講演会をしたりしているのですが……
なぜか、その活動を始めた頃から、「自分と母親の関係」を語る人によく出会うようになったのです。

もっと「自分らしさ」を表現していいんですよ。
どんな自分になりたいですか?
可愛くなりたいと言ってもいいんです。堂々と言いましょう。

トークイベントでそんな発言をすると、会場内で突然泣き出す人や、目を潤ませる人が、一定の割合でいます。
そういう人たちから話を聞くと、大抵、母親の話になります。
「おしゃれをすると、母親に、色気づくなと禁止された」
「自分がやりたい髪形ではなく母親の希望を聞いてきた」
「本当はもっと自分の個性を認めて欲しかった」……etc.

髪形の話をしていたはずなのに、話は母親から受けた影響の話になり、自信を持って自分を表現できないもどかしさの話になります。
中には、自分の生きづらさの根源に、母親との関係があったことに気づいて号泣してしまう方もいらっしゃいます。
驚くのは、仕事で活躍しているキャリアウーマンの方に、この傾向が強いこと。子ども時代から「いい子」で「優秀」だった人ほど、自己実現と母親の関係性に悩んでいることがわかりました。

髪形ひとつとっても、これなのです。
進学、就職、結婚、出産……。さまざまなシーンで意見をしてくる母親に対しては、複雑な感情を持っている人が多いのではないでしょうか。

母親との関係性の難しさは、「ありがたさは否めない」とセットであること、ですよね。

大切にしたいからこそ鬱陶しい。
感謝しているからこそ無下にできない。
冷たくする自分に罪悪感を感じてしまう。
だけど、やっぱり私は、母親のものではない。

言葉にしにくいこの感情の発生源を、この本では、3人の33歳の女性の物語を通して、ひとつひとつ丁寧に紐解いてくれます。

単に「あるある!」と感情移入するだけの本ではなく、そういった母親に対して、どう対策し行動すればいいかまでアドバイスされているのは、この本のいいところ。
例えば、この3人が無意識に行っていた「母親分析」をするだけでも、関係性を客観視することができるし、母親の呪縛から逃れやすくなるといいます。

1人じゃなくて、友達と読むことをお勧めします。

  • 本文中で、「母親とどう付き合っていけばいいか」のアドバイスコラムを書かれているのが、信田さよ子さん。もしこの本で、信田さんの「傾向と対策」をもっと読みたいと思った人は、『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』(春秋社)もおすすめです。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美