ポール・スポーツ世界チャンピオン 山口麻里奈さん(29歳)

練習不足で本番泣くくらいなら、練習中に泣きたい。

ポール・スポーツ世界チャンピオン 山口麻里奈さん(29歳) 4メートルのポール2本を使って、規定の技や事前に提出した技の点数を競うポール・スポーツ。競技人口は世界に100万人いると言われ、オリンピックの公式種目入りを目指すなど世界的にも注目のスポーツです。7月15日にスペインで開かれた世界大会で、前人未到の2連覇を成し遂げた女性が、日本にいます。「まだ勝った実感はありません。ちょっと失敗したところもあったので、パーフェクトな演技をすることが次の課題です」――早くも次の舞台を見据えて前を向く彼女が描く未来とは。

勝負の世界の方が私は好き

 ポールダンサーって、ストリップでしょう? というような偏見は、私は言われたことありません。なんで、そんなに肩ごついの? とかいじられたりはしますが(笑)。

 ポールダンスとポール・スポーツの違いですか。ポールダンスは、きらびやかな衣装を着て、音楽やお客さんにあわせて臨機応変に踊るエンターテインメントの要素が強いもの。一方、ポール・スポーツは事前に提出した技をきっちりと踊り、点数を競い合う勝負の世界。つま先の緩みや膝の曲がりなど、美しさを欠く動作にも減点が課せられます。確実にこなさないと点数がもらえなので、ごまかしがきかないんですよね。その”勝負”が、私は好きなんだと思います。

 ポールダンスと出会ったのは、4年前。東京に遊びに行ったときに、クラブでゴーゴーダンサーがセクシーに踊っているのを見た時でした。これを本気でやったら、どこまでいけるのかなと思ったんです。ネットで検索して、ポールダンスの大会があることを知って、「出たい」と思うようになりました。

 それから、すぐにポールダンス教室へ。小2から12年間バレエを習っていたこともあり、柔軟を必要とする技は、ある程度こなすことはできました。レッスンとは別にずっと個人練習もしていて、5カ月後に韓国で開かれたポールダンスの大会「ミスポール」に出場。結果、優勝しました。全然実感なかったですね。その時はセミプロで出ていたので、次はプロで出たい、と次の目標が決まりました。

「絶対勝つ」から「できれば勝ちたい」へ

 この後もいくつか国際大会に出場するのですが、忘れられない大会があります。それが2015年のフランスでの大会です。大会の4カ月前に亡くなった大好きなおばあちゃんへの思いを込めて、曲も「レクイエム」に。衣装も自分で縫ってつくりました。「絶対勝つねん」と、通し練習は毎日3回。何回やってもノーミスになるまで仕上げました。

 でも、本番で、普段なら絶対に失敗しないところでミスをしてしまいました。その時に思ったんです。「どれだけ練習しても、勝てない時は勝てないんだな」と。ノーミスに仕上げて本番に向かうのは最低限。それでも失敗してしまうかもしれない。「絶対勝つ」から「できれば勝ちたい」に考え方変わりました。

おばあちゃんの遺影とともに=本人提供

百発百中してこそ「プロ」

 昨年のポール・スポーツの国内大会は落ち着いて出られました。国内大会で優勝し、世界大会に出られるだけでうれしかったのですが、予選4位になってしまうと欲がでるもので「表彰台にのぼりたい!」って思いました。結果、優勝。信じられなかったですね。

 世界大会では、優勝候補と言われていた方のポールが滑って、技がうまく決まらない、ということもありました。これが、ポールの難しいところで、自分の力じゃどうにもならない「ポールのコンディション」っていうのもあるんですよね。だからこそ「滑っても大丈夫」と思うところまで練習することが大事なんだと思うんです。

 世界でトップをとろうと思うと、失敗も覚悟で難易度の高い技をたくさん入れてくる選手もいるんですよね。その気持ちもすごくよくわかる。大技をいれないと点数とれないんで。だけど、私はずっとバレエをしてきたので、百発百中してこそ「プロ」みたいな意識があるんですよね。自分の上達率を見ながら「諦める」というところも出てくる。本番でできなかったら、そこまで持って行けなかった自分が悪い。だから、練習不足で本番泣くくらいなら、練習中に泣きたいと思っています。

勝てるとこまで勝ちたい

 マイナースポーツなので、ポール一本で食べていくのは難しいです。私は週に2日は看護師、2日はポールのインストラクターとして働いています。休みの日はずっと練習。実家に住んでいるので、稼いだお金はほぼすべて大会の遠征費に消えています。遠征費の捻出は大変ですが、自分のやりたいことをさせてもらえて、ありがたいと感じています。

 占い師さんには50歳で結婚して、富を築くって言われているので将来のことは心配していないです。勝てるところまで勝ちたい、今はそれだけです。

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
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