本という贅沢。19

自分ファーストで生きる! 正しき親不孝のすすめ

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。8月のテーマは「母と子」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。19

『心屋仁之助 最初で最後の講演録』 (心屋仁之助/かんき出版)

西日本の豪雨の時、水上バイクで120人の人を次々安全な場所に避難させた男性が話題になっていました。
皆さんは、あんなふうに、誰かが人の命を次々と救っているところを、リアルタイムで見たことはありますか?

私は、あります。

それは、昨年の秋のことでした。人間よりも神さまの数の方が多いと言われる(!)島根県にて。1500名入る県民会館に立ち見まで出る中で行われた、心理カウンセラーの心屋仁之助さんの講演会場で。

私はその時はじめて経験したのですが、心屋さんの講演って、壇上で心屋さんが話した言葉に続けて、会場の人たちが一斉にその言葉をリピートする時間があるんです。参加型講演とでも言えばいいんでしょうか。
そこで私たちが声にする言葉は、自分がそれまで言いたくても言えなかった言葉の数々。小さい時に母親からかけてもらいたかった言葉。タブーだと思って押し殺していた言葉……。それらを口に乗せることによって、自分が自分の深いところに閉じ込めて蓋をしていた感情を昇華させるんです。

例えば
「やりたくないよ」「できないよ」「なんでわかってくれないの?」「悲しませてごめんなさい」「怒鳴らないで」「ねえ、かわいいって言って」
といった、幼少期の心の叫び。
例えば
「親孝行しなくてもいい」「お母さんを助けなくてもいい」「人を裏切ってもいい」「子供を産めなくてもいい」「人に迷惑をかけてもいい」
といった、禁止され抑圧された心の声……などなど。

これらの言葉は心屋さん曰く、足裏マッサージと同じなんだとか。
自分に傷がある言葉にぶちあたった時だけ、瞬間的に心に激痛が走ります。その言葉を口にした瞬間に、どばっと涙が出てきたり、笑いが止まらなくなったりして、自分の感情が崩壊するのです。
この感覚は、今までに経験したどんな感覚とも違いました。自分で思ってもいなかったところに深い傷があり、「絶対に口にしてはいけない」と思っていたタブーを口にすることによって、自分の心がふわっと殻を破り、文字通り救われていくのです。
周囲を見渡しても、みんな泣いたり、笑ったり、大忙し。最後にはぐちゃぐちゃになりながら、みんな一様にすっきりとした顔をしていて。会場には、救われた魂たちがたくさん羽をはやして飛んでいるように見えたほどです。

1500人が一斉に同じ言葉をリピートする様子は、心屋さん自身が「何かの宗教みたいでしょ」と笑っていましたが、こんなふうに心や命が救われるのであれば、宗教と呼んでいいと思う。壺とか売ってるわけじゃないけど。

この本は、私がその魂たちが救われるさまを目撃した、まさに島根会場の講演録。CD付きが、こちらです。

心屋さんが言うには、幼い時、母親がご機嫌だった人は、その母の笑顔を曇らせたくないと思って頑張る。幼い時、母親が辛そうだった人は、その母を笑わせたいと思って頑張る。結局、母親を喜ばせようと頑張って、生きている人が多いのだそう。
そういった人たちは、自分の人生を生きているようで、実は「おかんの人生」を生きている。だからこそ、親不孝をして、親のために生きることを辞めることが自分を取り戻す第一歩だと書かれています。

この「言えなかった言葉を口に出す」ことの効用は、先週のコラム『毒親の棄て方』でも触れられていました。
「自己啓発本は苦手」という人、いると思います。わかります。私もそうでした。でも、もしも。一生懸命頑張っているのに、真面目に生きているのに、なんだか辛いなと感じるなら。騙されたと思って読んで(or聴いて)みてください。

  • 本の中では「頑張ること」「我慢すること」「私がやろうとすること」をやめることで、人生が一気に変わることが書かれています。頑張り屋さんのtelling,の読者の皆さんにはぜひ読んでほしいです。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美