本という贅沢。04

女子が生きるために必要なことは全部「素ちゃん」が教えてくれた

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。4月のテーマは「自己肯定感」。自分を好きになるためのヒントがつまった一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。04

女子が生きるために必要なことは全部「素ちゃん」が教えてくれた。

『星へ行く船』(新井素子/出版芸術社)

のっけからワタクシごとで失礼します。というか、今回は最初から最後まで大変ワタクシごとだけで失礼します。

先日、仕事仲間の30歳の女性に「さとゆみさんは、どうしていつもそんな風に自信に満ちあふれているんですか」と、聞かれました。
多少、トゲがあったような気がしたのは気のせいかもしれない。「自信に満ちあふれている」が「根拠のない自信に満ちあふれている」と聞こえたのも、気のせいかもしれない。

まあ、それはいいとして、その時、私の口をついてすらすらっと出てきた答えは「あ、それはね、新井素子さんを読んで育ったから」でした。

私たちの世代(42歳です)の男子が『ドラゴンボール』に努力と友情と勝利を学んだとしたら、女子は新井素子さんに、「自分は自分のままでいいんだよ」を心から信じられる力を授けてもらったのです。

これは大げさでもなんでもなく、中学生の時、クラスの女の子のほとんどが、新井素子さんの本を読んでいました。

中でも、一番人気があったのはこのSF小説『星へ行く船』シリーズ。私たちは、ここに登場する、強くてまっすぐで楽天的で、女子であることを存分に楽しむ女子たちに、勇気をもらいました。

「あ、女の子って、生きてるだけでもいいんだ。存在してるだけでも、こんなに祝福されているんだ。だったらやりたいことをめいっぱいやんなきゃ損じゃない?」ということを、私たちは新井素子さんに教えてもらったのです。

言うならば、私の「根拠のない自信」と「折れない心」を育んでくれたのは新井素子さんであり、このシリーズに登場する女性たちだったかもしれない。

あゆみちゃんに、誰も通ってない道を歩いてもいいと教えてもらったし
レイディに、自分以外に大切な人を持つ覚悟を教えてもらったし
麻子さんに、どんな仕事に対しても矜持(きょうじ)を持って臨むことを教えてもらいました。

私がこのシリーズをむさぼるように読んでいたのは中学時代のこと。

それほど荒れていた学校ではなかったけれど、入学早々、先輩に目をつけられた私は、げた箱に、左手で書いた(筆跡を隠そうとしたんだと思う)「お前、消えろ」的なカミソリレターをもらったのだけれど……。

そんな時でも病んだり、自分を嫌いになったりしなかったのは、このシリーズの中に「あなたの友達があなたを好きだと言っているのに、どこの誰だか知らない人の言葉であなたが落ち込むことは、あなたを好きな友達に対して失礼だ」というメッセージがあったから。

このメッセージは、今でも私の幹となっていて、SNSでいろんな流れ弾に当たるこのご時世でも、人の評価に一喜一憂せずに生きていられるのだと思います。

上段 集英社コバルト文庫から発売されていた『星へ行く船』シリーズ。 下段 出版芸術社から2016年〜2017年にかけて発売された『星へ行く船』シリーズ決定版

高校を卒業して、北海道の田舎町から東京に出てきた時、最初は8畳一間の風呂なし下宿に住んだのですが、この本だけは大事に抱えて来ました。

その後、蔵書が増えすぎて泣く泣く整理をした後にも、すぐに後悔して、古本屋で再び買い戻しました。何度も何度も読みました。
自分が落ち込んだ時だけではなく、くじけそうになった女友達を励ます言葉も、今考えたら全部この本からの引用だった気がします。

この本に出会った時に中学生の少女だった私は、文章が人に与える力にほだされてライターになりました。

同世代の女性編集者やライターさんたちの中には、新井素子さんの小説を読んで出版業界を目指した人が随分多く、「素ちゃん育ち」の彼女たちは、もれなく人生を謳歌している人たちばかりで……。

もうこのシリーズ、女子の自己肯定感を育てる書として、教科書に載ってもいいんじゃないか! と、思っていました。

そう、そんなことを思っていた時に、決定版が発売になったというではないですか!!!

これを機に、あなたも素ちゃんワールドの住人になりませんか?

  • 新井素子さんは全ての書籍にあとがき(かなり長い)を書かれる作家さんで、それを読むのもファンの楽しみのひとつです。

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ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美