本当にほしいものを知る。

なまめかしく妖艶な表現力で性別問わず見る者の目を釘づけにするポールダンスのダンサーであり、注目のブロガー、ライターでもある“まなつ”さん。彼女が問いかけるのは、「フツー」って、「アタリマエ」って、なに? ってこと。

●telling Diary ―私たちの心の中。

本当にほしいものを知る。

 あれがほしい! これがほしい! もっとほしい! とほしいものがたくさんありますか?
 物欲ってある程度エネルギーがあるからこそ湧き出でる欲だと思うので、ほしいものがあるっていいことだなーと思います。

 私には「ほしいものがありすぎる」時期と「ほしいものが何もない」時期が交互にありました。そして今、まあまあちょうどいい具合に落ち着いています。
 それはなぜか。自分の人生に「本当にほしいもの」がわかり、自分を惑わす「本当にはほしくないもの」が自然と消えていったからです。

 10代後半〜20代前半の「ほしいものがありすぎる期」には、身の丈に合わない衣服、新しい家具や家電、本、雑貨などありとあらゆるものに対する購買意欲が盛んでした。バイトをしてはそういったものを買い集め、部屋の中はガラクタだらけ。その後、私は実家を出て19歳でロンドンに留学しているのですが、その時は本当に悲惨でしたね。貧乏留学生だったので、生活に必要なものにすらこと欠く始末。
 マジでお金なかった。マジで。

 バイトをしていたのですが、交通費として毎回支給される2ポンドを大切に貯金箱に入れておりました。そのなけなしのお金で化粧品を買うか買わないか2カ月迷った末に購入。そのお値段10ポンド。当時まだポンドが高かったので日本円で2000円くらいでしょうか。そんな金額のものすら、買うのをためらうくらいの極貧生活。若く、おしゃれもしたいし可愛いものもほしかった私にはとてもつらい時期でした。

 その反動かのように、帰国して水商売を始めてからはタガが外れたように物欲をあふれさせました。もらったお給料は全額、きれいに使う。三代続いていないけど、金遣いだけは江戸っ子にも負けない。10代のバイト生活とは打って変わって、もらえる金額が倍以上になったことも浪費を加速させました。

 お金を使う喜びを覚えた時期です。

 そうこうしているうちに20代半ばの「ほしいものが何もない期」に突入します。あるとき2年半付き合った恋人と別れる大失恋を経験し、海外へ数カ月逃亡しました。そのとき、今まであった物欲がなぜかすっきり消えてしまったんです。いや、消えたというよりは、消したが正しい。

 なぜなら、怖かったから。「長く付き合った彼氏との結婚」という確かなものが消え、自分で生きていく、自分の人生に責任を持つということがリアルに迫ってきたから。馬鹿みたいに浪費したり、貯金もせずに過ごしたりしている場合ではない。何か身になることをしなければ、と闇雲に資格を取りまくったこともあります。

 しかし、そんな風に彼氏との結婚がなくなったことに落胆しているのと同時に、私は自分の中にある確かなものの存在を感じました。そして、それをもう、無視してはいられないと確信し、行動に移しました。

 それこそが20代後半〜の「本当にほしいものがわかった期」につながります。

 それまで、男性としかお付き合いしていなかった私が、本当にほしかったもの。それは「自分が本当は女性が好きだ」ということを、自分で認められることでした。私が本当にほしかったのは、男性との結婚ではない。安定した、異性のカップルでいることではない。会社員でい続けることではない。お金を稼ぎまくって、めちゃくちゃに使い続けることではない。

 女性が好きな自分を隠さなくていい場所で暮らすこと。ただそれだけ。

 自分が愛している人のことを偽りなくみんなに話したい。祝福されたい。それが徐々にではありますがはっきりとわかった時、霧が晴れた気がしました。

 その後、何人かの女性とのお付き合いを経て、私は昨年お付き合いした方と婚約しました。超幸せ!何が幸せかって、もう、本当はほしくないものを手に入れようと、がむしゃらにならなくていいんだってわかったこと。今、目の前にいる美しいパートナーと、やりたいことが思い切りできる環境。

 そして、当たり前のように思えるけど、奇跡の積み重ねで今ここに生きていること。ご飯が美味しいし、空気を吸って吐ける。屋根がある場所で眠れる。手をつないで歩いても石を投げられない。

 あなたの本当にほしいものは、なんですか?

 もしかしたら今、それはあなたの手帳に書いてあるかもしれない。あれがほしい、これがほしい。こういう生活がしたい。こんな人と付き合いたい。

 それらはきっと、簡単に叶うでしょう。私はそう思う。そしてそれらが叶った時、手に入った時、もう一度自分に問いかけてみてほしい。これが本当にほしかったものなのかと。また手に入らなかった時、何かを失った時、自分が今何を持っているか確認しましょう。あなたが本当にほしかったものは、もうすでに持っているものかもしれないから。

 あなたの本当にほしいものがわかるのは、この世の中であなただけ。綺麗なお花でも摘みに行くような気持ちで気楽にやりましょう。だいたいの感じで。

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ポールダンサー・文筆家。水商売をするレズビアンで機能不全家庭に生まれ育つ、 という数え役満みたいな人生を送りながらもどうにか生き延びて毎日飯を食っているアラサー。 この世はノールール・バーリトゥードで他人を気にせず楽しく生きるがモットー。
まなつ