迷いながらも尼僧の道に「決断をするには、自分に自信をつけることから」
● ○歳のわたしへ04
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「誰にも期待されていないからこそ、自分の道を進めた」
22歳のわたしへ
私の実家は、静岡県三島市にある蓮馨寺という、鎌倉時代から700年ほど続く浄土宗のお寺です。私は姉と双子の妹の3姉妹ですが、姉はお寺を継ぐというプレッシャーから逃れるように海外に飛び出し、思春期の頃から必然的に次女の私が継ぐという雰囲気がありました。
ところが、お寺の住職というといまだに男性が継ぐというイメージが強く、お檀家さんからも「あなたがお婿さんを取るのよね」と言われることが日常茶飯事。みんな全く悪気はないとわかっていても、私が住職となってお寺を継ぐことは期待されていないんだと感じて、ひそかに傷ついていました。母親も跡取り息子がいないことに対して、周りからのプレッシャーで肩身の狭い思いをしたり、いろいろな場面で嫌な気持ちになったことがあったと思うんです。期待されないことの悔しさやなぜ女性ではダメなのかという想いを抱えながら、宗門系大学に進学することを決めました。
僧侶として認められた身分である「僧籍」は、大学で単位を取り、その後本山に修行に行くことで、卒業とともに取得できます。とはいえ、大学では臨床心理学を学びたくて、心理学部に入学。心理学を学ぶついでに僧籍を取ってしまおうと考えていました。父は私にお婿さんを取ってもらいたいと期待していたようで、僧籍を取ることに反対していましたが、私は私の思う道を進もうと決めたんです。
「目の前の高い山は、不安で大きくなり、自信で小さくもなる」
37歳のわたしへ
自分で決めた道とはいえ、きちんと決断できずに、37歳まで迷い続ける毎日。いつも目の前に、すごく高い山が迫ってきている感じで、どうやってそこに立ち向かおうか、どう飛び込もうか、そのタイミングを計っていました。少しでも不安になったり、自分に自信がなかったりすると、目の前の山がどんどん大きく迫ってくるのです。
答えを見いだせないなりに、住職塾に通ったり、仲間と話をしたり、自坊でのお念仏の会、お寺BBQや都内で女性向けのお話会を始めたり、小さなことを積み重ねながら過ごしてきたことが、ようやく形になったのがこの頃です。新聞で私の活動を取り上げていただいたことをきっかけに、自分が認められたと感じて確信を得て、家を継ぐ決意ができました。
トライアスロンを本格的に始めたのも、迷いを打破する大きなきっかけになったと思っています。トライアスロンは肉体的にも精神的にもきつい分、自分の弱さを知ることができます。最初は無理だと思っていたのに、完走できたことが自信につながったと思います。お寺とは別世界の経験から得るものも大きいと感じました。
お寺は世襲が大半なので、男性であれば理由も聞かれないまま、当然のようにお寺を継ぎますが、女性だと「なぜ継ぐのか」と理由を聞かれます。それは私にとって、かえっていいことだと思っていて、周りから問われることで、自分の気持ちを確認できます。決断するまでは時間がかかったけれど、僧侶になった理由を再確認しながら、続けています。
「いくつになっても学びの場に飛び込んでみる」
telling,世代のあなたへ
31歳の頃も迷っていた真っ最中。その頃、実はネットで見つけた話し方教室に通っていました。僧侶として、なかなかうまく話せないという悩みもあって、思い切って通ってみることにしました。話し方教室には、さまざまな業種の人たちが集まっていて、本当におもしろかったのを覚えています。周りも、まさかお坊さんが通っていると思っていないから、すごくおもしろがられました。
トライアスロンもそうですが、練習をしないと本番前に不安な気持ちになるけれど、何かしら準備しておけば自信につながると思うのです。自ら学びの場に飛び込んだ経験が私の自信になっています。
私は実家のお寺だけでなく、都内でも20から40代の女性向けのお話会を開いています。その会では女性たちに、仏教が一つの生きる知恵であるということを伝えたいという思いがあります。そのほかにも、「お寺BBQ」を開催しています。私自身が楽しいと思うことをやることで、お寺は悲しみだけではなく、楽しいことも共有できる場にしていきたいなと思っています。
●掬池友絢さんのプロフィール
1975年生まれ。浄土宗僧侶。ILAB(国際仏教婦人会)役員。静岡県三島市にある蓮馨寺の副住職。都内の仏教組織で働く一方で、仏教の良さを伝え広めるべく様々な活動に取り組んでいる。蓮馨寺で「お念仏の会」や「お寺BBQ」といったコミュニティ活動をおこなう他、寺子屋ブッダの「友絢さんとお茶を飲む日」で女性向けお話し会の講師も務めている。著書に『泣きたいときには泣いていい』(講談社)がある。
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