「ゲイだからって特別じゃない」歌人・鈴掛真さんの新たな挑戦
●行こうぜ!性別の向こうへ
僕の本でLGBTのことを楽しく知ってほしい
『ゲイだけど質問ある?』の連載を始めようと思ったのは、2015年に渋谷区のパートナーシップ制度が始まって「日本って意外と、ちゃんと行動すれば変わっていくんだな」と思ったことがきっかけです。それまで短歌や小説などの文芸しか取り組んでこなかったけど、今まで過ごしてきて感じたことやプライベートのできごとを楽しくエッセイとして書いていけば、人のためになるんじゃないかな、と。連載が始まったときから、書籍になって多くの人の手に渡ればいいなとも思っていました。
東京に住んでいると、職場や友人の中にLGBTの人がいるという場合も少なくないと思うんですが、地方だとそうはいきません。「LGBTなんて本当に実在するの?」とすら思っている人もいる。だから今までLGBTの人と接点がなかった人たちに、どうやったら情報を広められるかということを考えながら作りました。
本だけでなく、今後はテレビ出演も積極的に行っていきたいと思っています。いわゆる「オネエ企画」や「特別な枠」としてではなくて、当たり前のように他の出演者と混ざって僕が出演している状況をつくることで、マイノリティとマジョリティの共存を進めていけるんじゃないかなと。そのためにも、作品だけじゃなくトークも楽しんでもらえる歌人になることが2019年の目標です(笑)。
ゲイだとカミングアウトして身軽になった
会社員時代はゲイだということを隠していて、それが気づかぬうちにストレスになっていました。でも今は、コミュニケーションの初期段階で伝えるようにしているので、言うのが怖いということはありません。一番不安だったのは、長年の友人にカミングアウトしたときかな。
ゲイだとすぐに伝えるようになったのは、高校の同級生と社会人になってから再会したときのできごとが大きく影響しています。高校時代お世話になった先生が定年退職するということでパーティーに出席したのですが、なぜかその時、同級生のみんながいる前でパッとカミングアウトしてしまったんです。
そしたら「もっと早く言ってほしかった!」とみんなから言われて。もしも学生の頃にカミングアウトできていたら、もっと仲良くなれたかもしれないのに、僕自身がその可能性を閉じてしまったのかも……と思いました。同時に、みんなが受け入れてくれたことがすごく嬉しかったんです。その記憶が残っているから、今はもっと軽い気持ちで言おうと思っています。こちらがライトに言うと、相手にも軽く受け止めてもらえることも多いですしね。
カミングアウトする前と後でコミュニケーションが大きく変わった
カミングアウトするまでは、本音で話せるのはゲイの友達しかいませんでした。当時はそのことに気づいていなくて、カミングアウトしたあとにようやく、それまではゲイ以外の人と無意識のうちに距離をとっていたんだと気づきました。
ゲイを公表したことで、離れていったゲイの友達もいるんですが、その代わりにストレート(異性愛者)の人たちとたくさん話すようになりました。そこで初めて、自分の殻を破って話せば、ストレートの人たちもちゃんと自分のことをわかってくれるんだなと感じました。そして、「隠し事がない」ってなんて身軽なんだ、とも思いました。せっかくオープンリーゲイであるならば、誰に対しても態度を変えずに同じように接していけたらと思っています。
「周りが決めたルールに従わなきゃいけない」なんてありえない
僕は東日本大震災を経験して、「誰だって明日死ぬかもしれないんだから、周りの目を気にしながら生きている猶予なんて、なくない?」って気づいたんです。「明日死ぬと思ったら今日は絶対、自分勝手に生きるよな」って。冷たく聞こえてしまうかもしれないけれど、人に合わせることは本当に無意味だと思います。人生は一度きりなんだから、もっと自分のやりたい仕事、望んだ生活、誰と一緒にいたい、誰とは一緒にいたくないっていう願望を、どんどん自分勝手に決めていいんじゃないかなって。
【取材後記】
自分のやりたいことを見定めて、自分らしい行動をし続けている鈴掛さん。後編では、ミレ二アル世代の女性に向けて、思うところをお聞きしています。
鈴掛 真
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